絶句
次の瞬間――
郁美の両腕が、付け根からすっぱりと消えていた。
「……え?」
理解が追いつかず、時間が一拍、止まる。
あるはずのものが、最初からなかったかのように消えている。
「……な、なに……これ……?」
郁美は自分の肩口を見下ろし、
ゆっくりと首を傾げた。
困惑が、その表情を覆っている。
「い、郁美……?」
桜は息を呑み、目を見開いたまま動けずにいた。
声を出したはずなのに、かすれてほとんど音にならない。
「さ、桜ちゃん……」
郁美は震える声で名前を呼び、
必死に体をこちらへ傾ける。
バランスを失いそうになりながら、涙を滲ませて訴えた。
「わ、私の……う、腕が……なくなって……」
理解した瞬間、恐怖が一気に押し寄せたのだろう。
郁美の瞳が潤み、今にも泣き崩れそうな顔で
桜を見つめていた。
「……どう……しよう」
俺たちは見えない壁に向かって、必死に力を込めた。
拳を叩きつけても、肩で押しても、壁はびくともしない。
「……っ、なんで……!」
虚しく響く音だけが返ってくる。
そのとき、震える声で桜が口を開いた。
「……い、郁美……」
「……いた、痛く……ないの……?」
必死に平静を装っているのが、
声の端々から伝わってくる。
郁美は、自分の肩口――
腕があったはずの場所へ視線を落とした。
「……う、うん……」
「へ、変な感じはするけど……」
「な、なんか……痛くは……な、ない……みたい……」
そう答えながらも、声は心細く揺れている。
「……」
桜はその言葉を聞いたまま、
何も返せなかった。




