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松の儀
郁美は最初の数秒、
状況を飲み込めずに
固まっていた。
だが――
文が迷いなく
カードを叩きつけるように
動かすのを見て、
郁美もはっと我に返り、
慌てて
手を動かし始めた。
しかし、
その数秒の遅れは
致命的だった。
スピードというゲームにおいて、
一瞬の躊躇は
そのまま
敗北に直結する。
しかも、
文の手つきは
明らかに慣れている。
無駄がなく、
迷いもない。
郁美が
一枚処理する間に、
文は
二枚、三枚と
場を流していく。
勝負の行方は、
始まって間もなく
決していた。
ものの三分も経たないうちに、
文の手元から
最後の一枚が消える。
「……やった…
やった!
やった!」
文は勝ち誇ったように
息を吐き、
にやりと
郁美を見た。
郁美は一瞬、
きょとんとしたまま、
それから
少し困ったように、
でもどこか
懐かしそうに笑う。
「や、やっぱり……
文ちゃん、
強いね」
その声は、
昔と変わらない
柔らかさだった。
――だが、
次の瞬間。
郁美の表情が、
すっと
凍りつく。




