帰宅
「この話は、また後日にしよう。」
俺はミルクティーを一気に飲み干し、椅子から立ち上がった。
和政も遅れて、小さくうなずきながら立ち上がる。
店を出ると、秋風が真正面から吹きつけてきた。
日が落ちるたびに、季節の冷たさが少しずつ増していくのを感じる。
「じゃあ俺、電車で帰るわ。続きはまた後日。」
手を軽く上げると、和政は俯いたまま「うん……」と答え、静かに俺を見送った。
――稲城駅。
電車を降り、いつもの帰り道を歩きながら考える。
結局、優磨ってやつはどうなったんだ?
老人は何者なんだ?
獄門について……あいつは何か知っているのか?
そんな考えが頭を巡っているうちに、いつの間にか家の玄関まで辿り着いていた。
家は真っ暗だった。
その光景を見た瞬間、背筋の奥をひやりと冷たいものが這い上がる。
この時間に明かりがついていないなんて、ありえない。
別れてからの時間を考えても、俺より遅く帰ってくることなんて、ありえない。
父さんと母さんに、何か……?
いや、もしかしたら、帰る途中でまたあの不思議な場所に迷い込んだのかもしれない。
和政の話を聞いている間だけ、「大丈夫だろ」とどこかで無理やり思い込んでいた部分はあった。
しかし、今、その綱みたいに細い安心が、ぷつりと切れた気がした。
とにかく家の鍵を開け、中へ入る。
「父さん? 母さん? ……いる? おーい。」
家中を見て回る。
1階も、2階も、物音一つしない。
――間違いない。帰ってきていない。
静まり返った家の空気だけが、俺の不安をさらに大きくした。




