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獄門ループ ―家族が消えた日―  作者: P


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やさしい匂い

軽口のはずなのに、

どこか探るような視線がこっちを覗く。


「わ、わりぃ。今行く」

「あ、あの、ごめんね桜ちゃん……!」


郁美はジャケットをそっと胸に抱え直し、

さっきまでの赤さを隠すように俯きながら、

小走りで桜の方へ向かった。


俺もその後に続く。

さっきまでの微妙な空気が、

ふわっと背中に残り、

リビングへ繋がる短い廊下が、

妙に長く感じた。


料理のいい匂いが、

じわりと緊張をほどいていく。


テーブルの上には、

温かい湯気といっしょに、

二人の気遣いや優しさが、

ずらりと並んでいた。


ほろりと崩れるほど柔らかく煮込まれた肉じゃが。

ほんのり甘い出汁が香る卵焼き。

彩りよく盛られた野菜の胡麻和えに、

ツヤツヤに照りをまとった生姜焼き。


湯気の立つ味噌汁からは、

味噌とだしのやさしい匂いが、

ふわりと漂う。


家庭的なのに、どこか特別で、

“自分のために作ってくれた”という実感が、

胸の奥をじんわり温かくしていく。


「マジで美味そうだな」


「当たり前じゃない。

“私たち”が作ったんだから」


……実際には、

ほぼ郁美が頑張っていた気もするが、

それを言うのは、

さすがに野暮だろう。

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