交錯
そう言うと、郁美は途端に顔を真っ赤にして、
小動物みたいに手をパタパタと振りながら、
慌てて視線をそらした。
「あ、ごめんね。
変なこと言って。
これ、ありがとうね」
言いながらも、
まるで手放したくないみたいに、
彼女はジャケットを胸元でぎゅっと抱えた。
差し出しかけては、
また引っ込めて、
指先がもじもじと揺れる。
ほんのりと、
彼女の体温が生地越しに伝わってくる気がして、
俺の心臓まで落ち着かなくなる。
「……や、やっぱり……
も、もうちょっとだけ……
預かっててもいい……?」
最後の言葉は、
まるで告白を誤魔化すみたいに小さかった。
上目づかいにこちらをうかがう視線が、
逃げ道を塞ぐみたいに絡んでくる。
思わず喉が鳴る。
返事なんてする前から、
もう断れるはずがなかった。
「……いいよ」
そう答えると、
郁美は胸の前でそっと息を吐き、
安堵と恥ずかしさが入り混じった、
柔らかい笑みを浮かべた。
わずかに触れそうな視線と視線。
言葉にしたら壊れそうな、
静かな余韻――。
そのとき。
カチャッ、
と金属が鳴るような微かな音がして、
続くように、
リビングの扉が不意に開いた。
「二人して、
いつまでも何してんのよ。
料理、冷めちゃうわよ」
桜が腕を組んで立っていた。




