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獄門ループ ―家族が消えた日―  作者: P


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43/68

あーん

桜がテンパる中、

意外にも動じなかったのは

物静かな郁美だった。


「桜ちゃんは混ぜるの得意だから、

こ、これお願い。

火加減は私がやるね」


淡々と、でも優しく指示を出す郁美。

桜は言われた通り、

泡立て器を必死に回しながら

サポートに回る。


「い、郁美、手際よすぎない……?」


「家でよく作ってるから。

焦らなくて、大丈夫だよ」


静かな声だけど、

どこか頼れる響き。


桜のミスをサッとフォローしながら、

郁美が主導していくことで、

ドタバタしつつも

料理は少しずつ形になっていった。


ちゃんと作り置き用の

タッパーも用意してあり、

何日分かに分けてくれている。


料理も終盤に差し掛かったところで、

桜が小皿を持って

こちらにやってきた。


「味見よ!」


そう言って、

俗にいう“あーん”のスタイルで、

俺の口元に

豚の生姜焼きを運んでくる。


「い、いや……」


「な、何よ!

私の料理が食べられないっていうの!」


心なしか、

桜の頬が赤くなっている。

言わずもがな、

俺も赤くなっているのだろう。


このまま押し問答を続けたら、

もっと変な空気になる——


そう直感した俺は、

覚悟を決めて口を薄く開いた。


その瞬間、

半ば強引に

豚の生姜焼きが突っ込まれる。


「ふごっ!」


咳き込みそうになるのを

必死に堪えた結果、

ほとんど噛む間もなく、

そのまま飲み込む羽目になった。


「……ちょっと。

あんた本当に人間?

今、ほぼ丸呑みだったわよね。

何?ペリカンか何か?」


「いや、

お前が強引に

口に突っ込むから

噛めなかったんだろ!」


言い合いになりかけた、

そのタイミングで——


郁美がそっと、

コップを差し出してくる。

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