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獄門ループ ―家族が消えた日―  作者: P


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昨日の記憶

「ほら、やっぱり!」


桜は勝ち誇ったように、

大きく息を吸い込んだ。


「大体あんたは昔から――」


その瞬間だった。


ブルルル、と、

ポケットの中でスマホが震える。


画面に表示されたのは、

和政の名前。


桜の言葉を遮るように鳴り響いた着信音に、

張りつめていた空気が、

ほんの一瞬だけ静止した。


——ナイスタイミング。


俺は心の中でそう呟きながら、

「ちょっと電話」

とだけ言って席を立つ。


背中越しに、

桜が何か言いかける気配があったが、

振り返らずに、

そのままカフェの外へ出た。


「どうした?」


「あ、達也くん。

昨日のこと、

やっぱり覚えてない?」


「和政とホームレスに、

聞き込みに行ったあたりまでは覚えてるんだけどさ。


その後が、

どうにも曖昧で……

和政、何か知ってる?」


電話口で、

和政が一瞬、

言葉を選ぶように間を置いた。


「えっと……

実はね。


昨日、

けんさんと話してる最中に、

優磨が現れたんだ」


「……え?」


「それでさ。

優磨が、

桜さんと、その友達に、

襲い掛かろうとして――


ちょうどそのとき、

僕たちが駆けつけて、

助けたんだ」


「……なる……ほど……」


頭の中で、

点と点が、

ゆっくり繋がっていく。


だが、

ひとつだけ、

どうしても引っかかる。


「でもさ……

俺たち、

パンツ一丁だった気がするんだけど……」


「あー……

それは……」


和政は、

気まずそうに続けた。


「優磨が、

桜さんにナイフを突きつけてさ。


“脱げ”って言われて……

仕方なかったんだよ」


「……そう、だったのか」


俺は、

深く息を吐いた。


以前、

和政から聞いていた、


“優磨の記憶は世界から消える”

という話。


その前提があったからこそ、

この非現実的な説明も、

どうにか飲み込めた。


少なくとも――

俺が、

桜たちに、

何かをしたわけじゃない。


その事実だけで、

胸の奥に絡みついていた重たいものが、

少しだけ、

ほどけた気がした。


俺は電話を切らず、

そのまま、

カフェの席へと戻る。


桜と郁美が、

こちらをじっと見て、

待っていた。

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