帰宅
そんなやりとりが続いていると、
緊張が張りつめた空気を切り裂くように、
横合いから複数の足音が近づいてきた。
振り向く間もなく、
制服姿の警察官が駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?
……少し詳しい話を聞きたいので、
署まで同行をお願いできますか?」
淡々とした口調だったが、
その言葉が胸に重くのしかかった。
今の状況を考えれば、
警察に任せるのが一番安全で、
正しい選択のはずだ。
――それでも、
俺は即座に頷けなかった。
頭の中で、
二つの不安がぐるぐると渦を巻く。
一つ目。
和政から聞いた、
あまりにも現実離れした話――
優磨の存在や記憶が、
世界から消えてしまうという話を、
どう説明すればいいのか。
二つ目。
もっと現実的で、
もっと重い問題。
俺の両親が、
今も行方不明のままだという事実。
もし署に行けば、
身元確認や家族への連絡は避けられない。
その時、
俺は何を言えばいい?
考えれば考えるほど、
喉が詰まっていく。
一瞬の沈黙の末、
俺は絞り出すように口を開いた。
「……すみません。
今日は、どうしても気分が悪くて」
「正直、これ以上は動けそうにありません。
今日は帰らせてもらえませんか」
警察官は少し意外そうな顔をしたが、
すぐに表情を緩めた。
「体調が悪いなら無理はできないな」
そのやり取りを横で聞いていた和政も、
一歩前に出る。
「……僕も、今日は帰りたいです」
警察官は二人の顔を交互に見てから、
小さく息をついた。
「わかった。今日はここまでにしよう」
「ただし、後日改めて話を聞くことになるかもしれないので、
その時はご協力をお願いします。」
俺たちは深く頷いた。
その後、
和政が親に連絡を入れ、
迎えに来てもらうことになった。
俺もその車に同乗させてもらう。
桜と郁美も、
それぞれ親が迎えに来て、
短い言葉を交わしただけで、
その場は解散となった。
車内に入ると、
和政の親はミラー越しに何度もこちらを確認しながら、
矢継ぎ早に質問を投げてきた。




