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危機
ザッ、と草を踏む音。
次の瞬間、男がナイフを閃かせ、
一直線に俺の首へ突き出してきた。
「っ!」
反射的に左腕を前へ。
刃が腕をかすめ、
熱い痛みが弾ける。
それでも止まれない。
血のにじむ腕でナイフを受け止めたまま、
男の手首を掴み取る。
「離せやッ!」
怒号と同時に、男が全身でぶつかってくる。
俺たちは絡み合ったまま草の上を転げ、
湿った土の冷たさが背中に刺さった。
気づくと俺が下、男が上。
逆光になった男の影が覆いかぶさり、
月光を受けたナイフが
俺の目の前でぎらりと揺れた。
「くっ……!」
必死に両手で押し返す。
だが男は体重すべてを腕に乗せ、
刃はじわじわと喉元へ沈むように迫ってくる。
川の流れがざわざわと耳元をかすめ、
鼓動の速さがそれに重なる。
呼吸がうまくできない。
草と土の匂い、
そして鉄のような匂いが混じり、
頭がぐらついた。
その時——。
ドスッ。
「ぐっ……!」
男の膝が腹に突き刺さるように押し込まれ、
内側から押しつぶされるような衝撃が走った。
息が漏れた瞬間、
腕の力がわずかに緩み、
刃先がさらに俺の喉へ迫る。
男の荒い息が顔にかかった。
川風の冷たさとは正反対の、
生々しく湿った呼気。
「死ねぇ!!」
叫びとともに、
ナイフが一気に加速した。




