爺さんの話②
『よお、朝次郎。こんなところで何しとるんじゃ?』
『殺す……殺す……!』
『物騒なやつじゃのう。おみゃあも迷い込んだんか?
実はわしも――』
少し明るく声をかけたが、
その言葉はすぐさま怒号にかき消された。
『貧乏なの知っとって、ようもわしの物をドブに捨てたり、落書きしたな!
絶対ゆるさん!』
『わしじゃない、あれは康司たちが――』
『あいつらも殺す! まずはお前からじゃ!』
様子のおかしい朝次郎に、わしは背筋が寒くなった。
けれど、当時のわしは背が高くて、朝次郎より頭ひとつ分は大きかった。
“まあ大丈夫じゃろ”と、どこかで油断していた。
その時だ。
頭の奥に、低い不気味な声が響いた。
『松の儀――殺し合い、始め』
ハッとして手を見ると、
わしはいつの間にか包丁を握っておった。
朝次郎も同じ刃物を持っている。
次の瞬間、朝次郎は目を血走らせ、
叫びながら突っ込んできた。
わしは体をひねって直線的な攻撃をかわし、
そのまま揉み合いになる。
そして、朝次郎の包丁を持つ腕をつかんで叫んだ。
『朝次郎! おみゃあ、自分が何をしとるかわかっとるんか!?
落ち着け、このアホが!』
『お前らが悪い!
全部お前らのせいだ!
お前達のせいで……母さんは死んだ!
わしも殺されそうになった!
お前のせいじゃあ!!』
朝次郎は、人間とは思えん力で、
わしの腕を振り払った。




