爺さんの話①
ホームレスの老人が健さんの肩に手を置くと、
健さんは飛び上がるように驚き、ようやくこちらに気づいたらしい。
「あ、あの〜。少しお聞きしたいことがあって……」
俺は回りくどいのが面倒で、率直に切り出した。
「獄門について、知っていることを教えてほしいんですけど」
すると健さんは、目をカッと見開き、こちらへ振り返る。
さっきまでの呟きが嘘みたいに、急に流暢な口調になった。
「獄門……あれは、わしが十二歳の夏じゃ。
事件の四日前、わしは妙な夢を見た。獄門に引き寄せられるように、フラフラと吸い込まれていく夢じゃ。
今思えば……予知夢だったんかもしれん。
翌日は、学校の夏休みのプール課題の日でな。
その帰り道、いつも通りの道を歩いていたのに、突然まよったんじゃ。
景色がいつもと違って見えてな……。
気がつけば、巨大で恐ろしい“門”が、どんと目の前に立っておった。
興味本位で中に入ったが……中はまるで地獄じゃった。
わしは怖くて逃げようとしたが、門はもう閉ざされていて、戻れんかった。
仕方なく先へ進んでいくと……見覚えのある顔があった。
学校で、わしがいつもちょっかいをかけていた朝次郎じゃ。
ひどく鼻息を荒くして、“お前を殺す”と今にも襲いかかってきそうでな。
知らん場所で不安だったが、朝次郎の顔を見た途端……
なぜか少しだけ安心したんじゃ」




