存在の消失
「うん。でも、それ以外はみんな普通に生活してたんだ。誰も変じゃない。
だから逆に、僕の方がおかしいんじゃないかって思い始めて…あれは悪い夢だったんだって自分に言い聞かせて、考えないようにしてた。」
「なるほどね…。じゃあ優磨とは、それっきりなんだ。」
「うん……。それと、もうひとつ気になることが——」
和政が言いかけたその瞬間、俺は胸の奥がビリッと痺れるような感覚に突き動かされて、勢いよく立ち上がった。
「待て。だとしたら——俺の親父、やばくね?
存在ごと消える可能性があるってことだよな?
え、てことは…最悪、俺の存在も——」
思考が暴走し、言葉が追いつかない。
俺は狼狽しながら和政を見下ろした。
「ま、まあ、まだそうなるって決まったわけじゃないから…!」
「と、とりあえず関谷に電話してみる。」
俺はポケットからスマホを引っ張り出し、震える指で関谷の番号をタップする。
コール音が三度鳴ったところで、いつも通りの気の抜けた声が聞こえた。
「んあ?どしたー?」
関谷の声だ。完全にいつものテンション。
「関谷、俺のこと覚えてるか?」
「ん?どうした急に?笑」
不審がるのも当然だ。それでも俺は続けた。
「俺の名前、なんだ?」
「は?達也だろ?なんだよ、記憶喪失ごっこかよ。」
その声に、胸の奥で固まっていたものが少しだけ緩んだ。
「あー…ごめん。なんでもない。変なこと聞いて悪い。
あ、俺に“親父がいる”って話、覚えてる?」
「この前してたじゃん。最近、両親の仲が悪くて帰りづらいってさ。」
「あ、ああ…そうだった。ごめん。ほんとに変な電話して悪い。切るわ。」
「お、おう…?」
関谷は戸惑っていたが、そんなの気にしていられない。
電話を切ると同時に、俺は深く息を吐いた。
——少なくとも、まだ“全部消えている”わけじゃない。




