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獄門ループ ―家族が消えた日―  作者: P


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第一章 消えた父と“獄門”の噂①

いつものように水泳の帰り、たまたま父と母が車で帰る途中だということで、俺と和政を乗せてくれることになった。

父と母がこの時間に二人で車に乗っているなんて珍しいなと思いながら、俺と和政は後部座席に乗り込む。


「えっ、いいんですか。すみません、ありがとうございます。」

和政は少し遠慮がちに礼を言った。


「ううん、全然いいのよ。和政くん、多摩センターでいいんだっけ?」

母には、あらかじめ多摩センターまで送ってもらうように連絡を入れておいた。


「はい!ありがとうございます!」


和政は愛想がよく、礼儀もしっかりしていて、しかも甘え上手だ。

だから年上の人に好かれることが多い。例に漏れず、俺も彼を弟のように可愛がっていた。


「そういえば和政、明日、日曜だしカラオケ行かない?」

「えっ、いいね!行きたい!あ、でもちょっと待って……」


和政は真剣な表情でスマホの予定を確認している。


「うん、大丈夫、大丈夫。」

「きつそうだったら別の日でもいいけど?」

俺は運転席の父をバックミラー越しにちらりと見ながら言った。


「いや、友達と遊びに行くかもだったけど、達也くんとカラオケ行った方が楽しいから、そっちにするよ。」


……和政、そういうところだぞ。

心の中でそうツッコミを入れながら、俺は笑って答えた。


「おう。じゃあ、日曜の13時あたりで。また詳しくは連絡するわ。」


***


そんなたわいもない話をしていると、突然、車がガタガタと激しく揺れ始めた。


「……あれ? 道、間違えたかな」

父がハンドルを必死に押さえながら、車体をコントロールしようとしている。


おかしい。

さっきまでアスファルトの舗装路を走っていたはずなのに、気づけば両脇に灯籠のようなものが並ぶ、薄暗い林の一本道を突き進んでいた。


「父さん! 一回止めた方がいい!」

焦りのあまり、思わず叫ぶ。


しかし車は止まらない。

左右上下に激しく揺れながら、車がやっと通れるほどの幅しかない獣道を突き進んでいく。


俺たちはサイドの取っ手にしがみつき、「やばい、やばい!」と叫ぶことしかできなかった。


ガタンッ!

一際大きな衝撃のあと、車は大木の根元にぶつかり、ようやく止まった。


「いってぇ……。し、死ぬかと思った。和政、大丈夫か?」

冷や汗を流しながら隣の和政に声をかける。


「う、うん……」

和政は半分放心状態のまま、自分の無事を確かめるようにうなずいた。


フロントシートからは両親のうめき声が聞こえる。

エアバッグが作動したおかげで、大事には至らなかったらしい。


「いたた……」

母は衝撃でぶつけた左腕を押さえている。


「いや……本当にごめん。和政くんも、ごめんね。怪我とかしてないか?」

父は申し訳なさそうに振り返り、かすれた声で謝った。


「いえ……大丈夫です」

和政は努めて明るい声で答えた。


「達也も、母さんも怪我ないか?」

「俺は大丈夫! 母さん、大丈夫?」


俺はフロントシートに身を乗り出し、母の右手を確認する。

そこには、手の甲いっぱいに青黒いあざができていた。


「うわ、これは痛いやつだな……」

顔をしかめながら言うと、母は小さく笑った。


「うん。でも、冷やせば大丈夫だと思うよ」


母は和政に気を遣ってか、痛みや不安を表に出さないようにしているようだった。


その間、父は車の動作を確認していた。

ギアをバックに入れると、車体はゆっくりと後退を始める。

どうやら、エンジンも足回りも問題ないらしい。


***


俺たちが一通り安全を確かめていたそのとき――

和政が、窓の外を見ながらぽつりとつぶやいた。


「……僕、ここ、知ってる」


「え?」


和政の視線を追って外を見ると、そこには巨大な門が立っていた。


高さは十メートルはあろうかというほど。

門は俺たちを誘うように、ゆっくりと口を開けている。


よく見ると、柱には仰々しい模様が刻まれ、まるで地獄の入口のような不気味さを放っていた。


「なんだ、これ……?」


こんなもの、多摩センターにあっただろうか。

そう思った瞬間、和政がこちらをじっと見つめていた。


やがて彼の視線はゆっくりとフロントシートへ移っていく。

母を見て――そして父を見た。


「和政、大丈夫か?」


普段とはまるで違う和政の様子に不安を覚え、俺は肩に手を置いた。

そして父を一瞬だけ見やると、再び和政の顔を覗き込む。


「あ……ごめん。大丈夫。」

ようやく正気に戻ったように、和政は俺と目を合わせた。


「達也くん……ここからの帰り方はわかるんだけど、ちょっと不安だから、いっしょに来てくれない?」


いつもの“下から目線の小動物ムーブ”だ。

これをやられて断れる人間なんていない。


しかも、本人が無意識でやっているのが一層タチが悪い。


それに、こんな得体の知れない場所に連れてきてしまった負い目もある。


「母さん、ちょっと和政を多摩センターまで送ってくるわ。俺は電車で帰るから、車で先に帰ってて。せっかく来てくれたのにごめん。」


来た道をまっすぐ戻れば、少なくとも元の場所には戻れるだろう。

そう思いながら、俺はドアノブに手をかけた。


「えぇ? こんなところで大丈夫なの?」

母は心配そうに眉をひそめる。


「大丈夫、大丈夫。和政がここからの帰り道を知ってるみたいだし。」


そう言って車のドアを開ける。


「和政くんも、ここでいいの?」

「あ、ありがとうございます! ここで大丈夫です。以前も来たことあるので!」


「そ、そう……?」


母の不安を半ば押し切るような形で扉を閉め、父と母に軽く手を振った。


エンジン音が遠ざかり、辺りは急に静まり返る。

俺と和政だけを残して、林の中に風の音だけが響いていた。


「で、和政。ここからどうやって帰るんだ?」

気を取り直して尋ねると、


「あの門を抜ければ、すぐ着くよ。」


和政は、あの巨大な門を迷いなく指差した。

毎日更新頑張ります。

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