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「馬の小便」魔法・縁起

〈新酒呑る米の香のして若々し 涙次〉



【ⅰ】


今調べてみたのだが、ルシフェルのこの物語に於ける初出は、前シリーズ第16話の事。丁度、間司霧子とカンテラがすつたもんだの爭ひを繰り廣げてゐた間の事である。

それ迄、ルシフェルと云ふ者が魔界になかつた譯ではない。たゞ、カンテラ一味とルシフェルは停戦狀態にあり、霧子の介入まで、一時の平和があつた、と云ふに過ぎない。その間、ルシフェル率いる魔界とカンテラ一燈齋事務所は、或る条約を結んでゐた。水晶玉の件である。

お互ひ、水晶玉で魔界・人間界を覗くのは結構だが、プライヴァシーに抵触する「覗き」は已めやう。さう誓ひが立てられた。魔界ならルシフェルの執務室、人間界なら事務所の「相談室」を覗き見るのは罷りならない事とされた。



【ⅱ】


さて、前回末に出て來た「馬の小便」魔法だが、それはだう云つたものなのか。カンテラの熱心な讀者(そんな人存在しないらしいが)なら氣になるところであらう。

これには歴史と云ふものあり、ルシフェル以前、と云ふ事迄もを振り返らないと行けない。ルシフェルが魔界を治めて約2000年、それ以前、と云ふ、氣が遠くなるやうな昔、「馬の小便」魔法は当時の魔導士の手に依り、制定されたのである。カトリック教會以前にも「聖水」はあつた。と云へば、頭の狀態を疑はれさうだが、ユダヤ教のラビ、そして預言者逹には、惡魔と云ふ概念があつた。惡魔は即ち、信徒逹に害を為す。それに對抗するには- つまり、「聖水」の存在は知られてをり、退魔の為に活用されてゐたのである。



【ⅲ】


で、「馬の小便」魔法は、ルシフェル以前の魔導士が造つたものだから、ルシフェルにとつては「何故?」とその存在を疑ぐりたくなるやうな用法を持つてゐた。一言で云へば、「聖水」避けには「馬の小便」を飲むべし- 例へお猪口一杯ほどでいゝとしても、ルシフェルにはそんな事ご免だつた。だが、對「聖水」にはそれしか道が殘されてゐない。「馬の小便」を飲めば、須らく(自分に差し向けられる)「聖水」は「馬の小便」に變化する... 恐らくかつては意味深い事だつたのだらうが、現在ではその効能以外は全くナンセンスである。ルシフェルは、だうすれば「馬の小便」から逃れられるか、考へを巡らせた。彼はそんな事をするには、【魔】としてソフィスティケイトされ過ぎてゐた。



※※※※


〈窓開けて表が見たい猫一匹冷たき雨が彼の額打つ 平手みき〉



【ⅳ】


一つ、妙案があつた。身代はりの術を使ふのだ。要は側近の若い【魔】に「馬の小便」を飲ませて、自分はそいつの蔭に隠れて行動すれば良い。さうに決まつた。とルシフェル、案外小心なところを露呈。だがこれは彼の執務室内に、その犠牲となる若い衆を呼び付けての事だつたので、彼の秘められた小心さは、カンテラに氣取られずに濟んだ。



【ⅴ】


馬と云ふのは淸潔な生き物で、厩舎の中では決して小便も糞も垂れない。と訊いたが、それは本当の事なのだらうか? 分からないのだが、ルシフェルは「馬の小便」を得るのに散々苦心させられた。馬には、後ろ脚で蹴る、と云ふ「惡癖」があるのだ。ルシフェルもご他聞に漏れず蹴られた。全く、因果なものよ。「聖水」避けの為、己れの取つてゐる行動は、ルシフェルの美學とは著しく乖離してゐた...



※※※※


〈シナモンを振れば即席林檎ジャム 涙次〉



ルシフェルの目指すところはコメディではない。大東京を惡夢に染め上げる事である。だが、己れを振り返つて見ると、やつてゐる事は完全にコメディである。だが彼にはそんな余裕はなかつた。

さて、苦心して「馬の小便」魔法を發動させたのだから、對カンテラ一味、勝利を納めたのも同然だ! とルシフェルは思つたのだけれど、實際はだうだつたのか-

それは次回以降のお話としやう。市長選挙の日に(勿論、投票はした。そぼ降る冷たい雨-)。それでは。


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