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部屋はいつの間にか真っ暗になっていた。
「光源」
少し部屋が明るくなった。便利な魔法だ。
初級魔法の本で、この世界の基本的な魔法についてわかった。中級も上級も読んでみたい。
でも、まずは夕飯だな。
廊下も真っ暗だったので、台所にたどりつくまで何度も「光源」を唱えた。
そういえば、この家、照明器具がなかった。全部今みたいに魔法での世界が標準なのかも。
時間も遅かったので、オムライスとサラダを呼び寄せしてみた。スプーンとフォークは木製だった。呼び寄せる時の説明は大変だけど、味はともかく見た目は自分が作ったものに似ていた。うん。呼ぶ時にこんなのが欲しいと思う気持ちを寄せられるものは寄せてくるんだろうか。
お風呂は魔石でお湯が出た。凄い。文明レベルがさっぱりわからない。石鹸とタオルとおパンツ様と寝巻用の体をしめつけないチュニックと半ズボンを呼び出し、とにかく温かい湯に浸かれるだけで今日はいい。シャンプーとリンスはお取り寄せできるかどうか謎のまま今日は疲れたのでおやすみなさい。
目が覚めたけど、昨日と同じ場所だった。やはり夢ではないようだ。
昨日は寝るときに寝巻用のチュニックと半ズボンを呼び出したけど、着替えはあるんだろうか。部屋のクローゼットらしき扉を開けてみる。やはり何もない。管理人の方。不自由がないようにと言っていたのに。
いや、不自由がないようにと莫大なMPと創造魔法授けていただいた。だから嘘ではない。なければ作ればいいのだっていう考え方なんだろう。好みではないものを着るよりもましなんだろうな。そう思おう。よし手作りは好きだから頑張ろう。
さぁ服と替えとおパンツ様を作ろうか、シュミーズも欲しい。ワンピースは見本に1枚は取り寄せしてみよう。
「出でよ、わたしサイズの商人の子どもがきるようなワンピースとシュミーズ各1枚」
だんだんお取り寄せ時のフレーズ言うのもふっきれてきた。どこまで説明をしていいのかは相変わらずよくわからないが、一度説明して呼び寄せたものは、日本の名前で呼んでも大丈夫になる。命名したことになるのだろう。また丁寧に説明、詳細に想像すればするほど、欲しいものが得られるような気がする、言葉を惜しまずしっかり想像しよう。
「ステータス」
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マヤ
8歳
無職
HP 50
MP 3799970
創造魔法
言語翻訳魔法
鑑定魔法
召喚魔法
生活魔法
スキル
界渡り
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初級の魔法の本に寝たらMPはMAXになると書いてあったので、ワンピースとシュミーズ各1枚で30減ったということ。これならば何枚でもお取り寄せできそうだ。
取り寄せできたのは、生成りのシンプルなワンピースは前開きでボタンがついている。ウエストはリボンで締めるようになっている。シュミーズは白の綿で前に小さなリボンがついている。
昔、下着のリボンは薄暗いところで表か裏か、前か後ろかわかるようについているって聞いたことがある。薄暗いところで下着をつけるHなシチュエーションは当分ないと思うけど、リボンがついているのが表で前だ。良し。
昨日呼び出したおパンツ様は紐で縛る形の長めのトランクスタイプだ。子どもだから仕方がないのかゴムがないのか、それともこの世界標準なのかはわからないけど、お腹が隠れて清潔であればとりあえずそれで良し。さすがに日本にいた時におパンツ様は作ったことがない。ワンピースは作ったことがあるので、着替え用のシンプルなワンピースをもう1枚作っておきたい。
今日はそうしよう。
わたしは真面目で小心者だけど趣味を始めれば周りが聞こえないぐらい集中してはまるタイプだ。そして趣味は読書と手作り。手作りは小物を時々フリマで売っていたこともある。ここしばらく手作りからは遠ざかっていたから、ほんと久しぶりに何かしたいという気力が出てきた。
朝ご飯を呼び寄せで簡単に済ませ、工房は広いだけで何もないので、食堂のテーブルの上で作業をはじめよう。まずは手芸道具と布を取り寄せよう。
呼び寄せで言葉を尽くすことも大事だけど、何度も試して実感したが、想像力が物を言う世界だ。こっちの思い浮かべるものに寄せて出るように強く念じてみる方法を試してみる。
「出でよ、針、針山、糸、待ち針、ハサミ、チャコペン、ボタン、ホック、刺繍糸、刺繍枠、レース、型紙、柔らかい青い布とそれらを仕舞える裁縫箱。」
うん、こっちの世界の技術力レベルのものだけど、使えそうな感じで取り寄せすることができた。想像力って本当に大事。説明なしでこれだけ出てきたら御の字だ。
でも、これって、この世界のどこかに既に存在しているものが取り寄せられているのか、MPと対価で新たに出現しているのか。どっちなんだろう。誰かのものを搾取しているのであれば代金払わないと気持ち悪いんだけど、どうなんだろう。
あ、こういうのは鑑定で調べるといいのか。召喚魔法を鑑定してみる。
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召喚魔法
MPを対価に召喚者の望むものを出現させることができる。
(この世界の素材に限る、この世界の技術力を超えることはできない。)
・・・・・・・・・
MPを対価に出現ならば、他の方に迷惑かけていなかったので良かった。
無理だと思うが、素材、技術力を超えるだろうけど、一度試しておこう。
「出でよ、ミシン1台」
しばし待ったけどうんともすんとも言わない。
うん、やっぱり無理だった。何も出てこない。
ミシンは無いと思ったよ。それにミシンの仕組みもよくわかっていなかったからねー。
型紙が出てきただけで御の字だわ。
食堂のテーブルに布を広げて、型紙を待ち針で止めていき、チャコでかたどりハサミで切り、裾は広がっていないので、半日も集中すれば形になった。最後の調整をする前に、一度試しておきたいことがあったのでやってみる。
『複製魔法取得』
この段階で複製。同じものが出てきた。やった。飾り付け前に2枚に増えたので、少しレースやフリルや刺繍の模様を変えることができる。
そして完成してからも試してみたいことがある。
「出でよ、紺色のワンピース1枚」
良し、最初にお取り寄せした生成りのワンピースの形ではなく、さっき完成したわたし作成のワンピースと同型のものが出てきた。
やっぱりそうだ。この世界の技術力はわたしも含まれるから、自分がこの世界の技術力を向上させれば、呼び出しもそれに反映されるっていうことだよね。
自分が作るまでは、呼び寄せできなかった、刺繍入りの可愛いレースのついたシンプルな型のワンピース。ん?刺繍も召喚魔法で増やせないだろうか。
布に刺繍枠を設置して小さな薔薇の花を刺繍する。これでこの世界に薔薇の刺繍が技術力として更新されたことになるんじゃないかな。ということは、薔薇の花の刺繍は解禁されたっていうことだよね。
「出でよ、薔薇模様のハンカチ1枚」
ふわりとハンカチが手の中に落ちる。
それはさっき刺繍した薔薇の花がぐるりと取り囲んだものだった。よしっ。
これで小さくても丁寧にいろんなモチーフを作っておけば、あとは自由自在。召喚魔法だから、色違いも大きなものにも反映できるね。刺繍枠をいくつか呼び出して、いつでもどこでもちょこっとモチーフが刺繍できるようにしとこうか。本読んでいる時に、休憩したい時とかいいかもしれない。どこでも持ち運べるように手提げバッグでも作ろうかな。刺繍糸セットした裁縫道具が入る大きさにしないと。
いろいろ実験したいしね。コースターやクッションも作りたい。凄く面倒な刺繍も、小さなモチーフの連続だったりする。ワンポイントの図案、例えば四葉のクローバー、例えばデイジーの花、可愛い子猫、コップやスプーンの図案も可愛いかもしれない。日本にいる時は仕事もあったし、もともと大作より小さな小物を作るのが好きだったから、ミニポーチやコースターを好んで作っていたけど、何もないこの家の装飾品を考えたら、ベッドカバーやシーツも自分で作っても面白いかも。召喚魔法もあるから、何でもできそうだ。しばらく楽しめそう。とりあえずは、日常の服つくりがメインだけどね。
せっせと洗い替え用でワンピースとシュミーズを何枚か作ったけど、洗濯はどうしたらいいんだろうか、洗濯機はないんよね。
自分一人分なので、木のタライを呼び寄せ、お風呂場にいって、石鹸で洗う。工房にフックをつけて、紐を渡らせ、最初に来ていたワンピースとシュミーズとおパンツ様とタオルは、そこにひっかけて乾かすことにした。洗濯バサミはこっちの世界仕様だけど、なんとか挟めるものが出てきた。一人暮らしだし、これで洗濯もOKということにしておこう。
次はゴミだよね。
さっきワンピースを作った時に出たゴミ。
今後もきっとゴミは出る。どう処理しようか。ゴミを処分する。廃棄する。うーん。
あ、そうか。
『収納魔法取得』
ゴミを全部収納してみる。そして、削除を選択。収納には削除ボタンがついているという異世界あるある常識がわたしの中にはあるから、きっとついていると思っていた。思い込み大事。
そして、布の屑と表示された枠の削除のボタンを押すと、おお、消えた。これだよこれ。感触からすれば分解して処理された感じ。これでゴミの問題も解決。
今日は1日着替えを作って終わり。ご飯食べてお風呂に入って寝よう。心地よい疲れにバタンキューだ。