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家に帰って、さぁ、セバスさんとマーサさんが来る前に、この家にたくさん人がいた痕跡を作っていくことにしよう。
両親の部屋に、父や母のちょっとおしゃれな服や普段着。
シーツやカーテン、鏡や櫛に化粧品等を並べる、香水も置いとくか。アロマは検定試験受験したぐらい好きだったので、錬金術でいろいろな精油も作りたい。
でも、まずは偽造が先、薔薇の香水とラベンダーの香水を並べてみた。
お父様が使っていたという設定でちょっと物がいいカフスを作り、はぁカフスも凝りだしたら面白そうだ。でもとりあえず3つ、4つぐらいにしとこう。
タバコやパイプ類も置いとこうか。
執事室に魔道具用の替えの魔石や銀器や銀のカトラリーに迷宮品のマジックバッグを二つぐらいを仕舞っておく、リネン室にシーツやカバーをどんどん複製して増やしておいた。
食堂横の物置に、ワインや小麦粉、塩、砂糖にはちみつ、根菜類に芋類、石鹸に油など、食堂には食器を、そう食器。昔陶芸教室に通っていたんだよね。
ここで焼くのは難しいから、希望を念じて美しい白地に藍模様の磁器の紅茶カップを呼んでみた。良し。お貴族様もいるし、磁器はあると思っていた。
12客呼んで、食器棚に仕舞う。お皿やスープ皿等も一緒に仕舞う、普段使いは木の器に木のコップだけど、ここぞの時に磁器を使っていた感を醸し出す。
ガラスのコップも呼び出しておく。ガラスは日本の一般的なものとは違い、琉球グラスみたいな感じ。少し厚めでぽってりしている。色も透き通っていない。ここが限界か。
でも、まぁいろいろ偽造したら、急にこの家が生きてきたような気がする。
今までほとんど工房と自分の部屋と食堂ぐらいしか使っていなかったから、少し空虚な感じだったんだよね。
さすが幽霊屋敷と間違えられるほどだった。
家族がいたっていうのはあくまでも設定であったけど、生きてきた気配を作ってみたら、本当に一緒に暮らしてきた錯覚に陥る。設定の父や母はどんな人だったのだろう。
管理者の方が作った設定がこの世界の事実として残っているようだったので、いつか知っている人と出会えるかもしれない。
データだけの人々だというのに、少しだけ感傷的になってしまった。
そうこうしているうちに、セバスとマーサがうちにやってきた。
まずは家の中を案内することにした。工房で数々の手作り品が並んでいるのを見て明らかに挙動不審になっておられたが、あとはすんなり終わったようで、エリンがつきっきりで案内している。
「一通り家を拝見させていただきましたが、噂では破産されたと聞いておりましたが、思った以上に財産は残っておられたようですね。安心いたしました。わたくしとマーサは3階の部屋を使わせていただきます。時々家にも帰らせていただきます。」
「マヤ様、エリンお嬢様、お掃除とか買い物とかはどうしておられました?」
マーサに聞かれる。ここは覚悟して本当のことを伝えておこう。毎日一緒ならばれるものね。
「セバスさんと、マーサさん、わたし魔法が使えるので、掃除も買い物も魔法でほぼ片付けてきました。」
「魔法で?掃除はわかるのですが、買い物も?」
「はい。買い物もです。マーサさん、今日のお昼に使いたい食材教えて下さい。」
「使いたいものですか?そうですね。卵があるといいのですが。」
「出でよ。器に入った卵4個」
机の上に、白い卵が木の器に入って出てきた。いつもどおり。
セバスとマーサは目を丸くして卵を食い入るように見ている。何もないところから出てきたらびっくりするよね。
「これは召喚魔法で、わたしのMPを対価に物を呼び寄せることができるものです。」
はっと冷静になったセバスが真剣な目をする。
「マヤ様、契約魔法で雇い入れ契約をいたしましょう。主の不利になることは決してしないと契約いたしましょう。契約魔法はわたくしが持っております。」
セバスとわたし、マーサとわたしでそれぞれ契約魔法を締結した。おお。こんな便利な魔法もあるんだな。そしてセバスの心遣いに感謝する。これで隠し事せず相変わらず好きなことができる。
「セバスさん、マーサさん、ありがとうございます。」
「マヤ様、契約いたしましたから、これから、セバス、マーサと呼び捨てしてください。」
「はい、わかりました。これからよろしくお願いいたします。セバス。マーサ。」
2人はにっこり微笑んでくれたので、ほっとする。
「マヤ様、食事を作るメイドは雇われないのですか?」
「食事もある程度、呼び寄せで出せるし、エリンと二人で手作りするのも好きなんです。どれだけできるのか、今日一緒に食べてみて下さい。」
「承知いたしました。楽しみでございます。では、あともう少し家の中を確認させていただきます。」
そういうと、セバスとマーサは気になる場所へと別れていった。
エリンとわたしははりきってお昼を作ることにした。ベーグルにローストビーフと葉野菜を挟んだものと、だし巻き卵を挟んだ挟みパンにしてみた。夜は、パン、目玉焼き乗せハンバーグにポテトサラダにしよう。
食事は大絶賛していただいた。パンに何か挟むということはあまりないらしい。初めて食べました、おいしゅうごさいます。と褒められてエリンと、によによしてしまった。
精神は大人でも、人から褒められると素直に嬉しい。自分が作ったものを喜んでくれる人がいる。手作りの醍醐味だと思う。




