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ただいまー。

声を聞いて、エリンが走ってきて抱き着いてくれた。

うちにきてからほぼ一緒にいるから離れたらちょっと寂しかったかな。

2人で手を繋いで食堂に行こう。


ひとつ片付いたから、なんか甘いものが食べたい。クッキーでも作ろうか。

基本のクッキーは小麦粉100g、砂糖50g、バター50g、卵1個と簡単だ。エリンはデザートを作ったことがないというので、一緒に作る。

魔石を使うコンロの下に魔石を使う窯もあったので、なんとか焼くこともできた。

甘い良い香りがしてくる。


「マヤ、なんだかとっても美味しそうですね。楽しみです。」

いい匂いのする窯の前から動かないエリンは早くできないかと前をうろうろしている。

わたしもクッキーは久しぶりだ。

出来上がりはあつあつのほかほかだ。少し冷ました方がいい。

エリンは目が離せないようだけど、第2弾を焼くために気をそらす。


「マヤ、たくさん、お砂糖使って大丈夫ですか?お砂糖は手に入れるのも大変ですよ。」

「エリン、呼び寄せで出したから平気だよ。でも、一度相場確かめに行かないとね、エリンの体調がもう少しよくなったら市場に行こうか、わたしは初めてだから教えてくれる?」

「マヤの呼び出しは本当素敵な魔法ですね。でも、同じ魔法の人は知らないから秘密にしておいた方がいいかもです。わたし買い出し行かされていたから市場は知っていますので、案内できるので嬉しいです。」

「ねぇ。エリンの家はたくさん使用人いたの?エリンが買い出し行かないといけないぐらい少なかったの?」

「家令と執事と侍女長と、侍女が2人、メイドが3人、料理人と庭師、御者ぐらいでしょうか。お義母さまに嫌われていたから、寒い時の買い出しはわたしに行くように命令されていました。うちは男爵家で貴族の一番下だったので、働いている方は皆さん庶民でしたので、お義母さまに物申すことはできなかったのだと思います。」

「エリンはお嬢様だったのに、よくメイドの仕事ができたんだね。」

「最初はまったく仕事ができなくて、お義母さまに叩かれたり鞭で打たれたり、罵られたり、蹴られたこともあります。他のメイドの方々からも意地悪もされました。ご飯も抜かれることが多かったし、パン1個の日も多かったです。誰も仕事教えてくれないから、人の仕事見て覚えていました。買い出しは寒い中外に出るのは辛かったけど、時々おまけをくれる市場のおばあさんや、果物の廃棄品をくれるおじいさんがいて、楽しみでもありました。あのおばあさんとおじいさんには感謝しかないです。」

「そうか、でも、今、エリン死んだことになっているからなぁ。あの時のお礼はできないんだよね。そんなに優しくしてくれた人がいる市場だとエリンだってばれるかな、エリンはふっくらしてきたし、髪も切ったし、可愛い服着ていけば、ばれないかな。変装するか。エリンの綺麗な金髪や緑の目を隠したくはないんだよね。」

「え、わたし死んだことになっているんですか?」

「ああ。そうか、エリンには伝えていなかったね。ごめん。エリンが倒れている間にエリンに似せた人形でごまかしたのよ。エリンの家もそのせいで無くなってしまったけど。」

「偽の人形ですか。そんなので騙されてしまうんですか?」

「いやーあの時はなんていうのか火事場の馬鹿力というのか、かなり怒っていたから大層出来のいいものができちゃったんだよね。今考えると王家も騙したことになるから怖いことしたんだけど。ばれなかったから良しかな。もう偽人形は埋葬されちゃっているし。」

「そうだったんですね。わたし死んだことになってるんですね。でもいつ死んでもおかしくなかったです。あの頃。へろへろでぼろぼろで頭もぼっとしてきてふわふわした感じでした。でも、今、マヤに拾われて幸せです。」

「うん、ここにいるエリンとわたしは、設定的には、従妹ってなっている。うちの家族とエリンの家族はお父様同士が兄弟で、一緒に協力して商会で働いていたんだけど、仕入れで船に乗った時に船が沈んでみんな亡くなってしまったので、残された二人で助け合って生きているっていう感じかな。エリンの鑑定結果、ちょっと偽造しとかないとね。このクッキー残り焼いたら偽造するね。」

「わたし商人の娘という役どころなんですね。なんだかわくわくしてきます。不思議な気分です。」


最後のクッキーを窯に入れた後、エリンが少し真面目な顔をした。

「ねぇ、マヤ、わたしが死んだことになったのなら、本当のお父様やお義母様、異母妹や弟はどうなったんでしょうか?」

「エリンのお父様は今、辺境の村で働いているよ。頭は良い人だったから、きっと村人に受け入れられて地道に暮らしていると思う。エリンが心配ならまた見てこようか。

お義母様と異母妹や弟はわからない。エリンのお父様を捨てて、どこかへ逃げてしまったと思う。どんなに美しい人だったとしても、性格が顔に現れるから、まっとうな人は避けると思う。連れ子も2人いるしね。でもお義母様は自分が生きるために、子供2人は孤児院に入れたかもしれない。ただ愛する人を捨ててしまったら、きっと幸せにはなれないと思うよ。」


「そう、お父様はどこか遠くで生きておられて、ちゃんと働いておられるんですね。わたしは怖い顔しか知らないので、今となっては何の感情も沸かないのですが、そう、時々生きておられるかだけ知りたいかもしれません。本当の家族はもうお父様だけですから。お義母様と異母妹や弟のことはどう感じていいのか、わからないんです。弟はまだ小さかったから可哀そうな気がしますが、ほとんど関わりはなかったので、なんとも感じないです。お義母様、異母妹には虐められてきたので会わなくなってほっとしています、できればもう二度と会いたくはないだけです。」

「うん、エリン、この際だから聞いておくけれど、うちの子になれって最初戸惑ったと思うけど、もし、今後大きくなって、自立したいって思うなら、自由にしてもいいからね。」


エリンはぎゅっと抱き着いてきて、

「大人になるまでは、一緒に暮らしたいです。マヤの近くは温かいです。」

「うん、わたしもエリンといたいよ。」


うん、そろそろクッキー冷めたようだ。一緒に食べよう。

「マ、マヤ!なんですか、これ!美味しい。こんなの食べたことないです~。ここにきてからの料理は全部美味しいけど、ああ、この甘くてさくさくでほろりときて美味しいです。」

「出来立ては美味しいよね。自分で作ったものだし。シンプルなクッキーだったけどね。そうそうクッキーって、お母様が生きていた頃も食べたことない?」

「ええ、くっき?ですか。初めてです。こんなに美味しいもの。」

「うん、良かった。まだまだあるから好きなだけ食べていいからね。」

幸せそうなとろける顔をしてクッキーを食べるエリンを見てわたしも幸せになる。


エリンは甘党のようだけど、実はわたしは辛党である。

女の子は甘い物好きだろっていうテンプレにはうんざりする。

たまに食べる甘いものが嫌いなわけではない。エリンのために今後も甘いものは作るけど、本当に作りたいのは、異世界あるあるの串焼きと干し肉である。絶対美味しいのを作りたい。

人間ドックの医師にも、あなた肉食女子ねって言われたタンパク質多めの料理を好む傾向にある。

そしてお酒が好きだった。まぁ好きだったけど、そんなに量は飲めなかったから、量より質派だった。でも、今は子どもの体だから飲めないねー、残念。こっちの世界って飲酒解禁って何歳なんだろう。


「ねぇ、エリン、お酒って何歳から飲んでいいの?」

「お酒って、ワインとかエールとかですか?」

「うん、そう、そういう系のもの。」

「えっと、貴族は10歳のお披露目後ですね。庶民は薄いワインとかエールとかもう少し小さい頃から飲んでいると思います。」

「え、大人になってからじゃないの?」

「庶民は平気みたいですよ。わたしはお披露目していただけなかったので飲んだことはないのですが。マヤは飲みたいのですか?」

「飲めたら飲んでみたいけど。飲んではダメっていうのは無いのね。」


そうか、こっちの世界は生水がダメなのかもしれない。

ということは、お酒呼び出して飲んでもいいのか。

こっそり?ちょっとだけ?うーん。エリンがまだ飲んだことがえないのなら、10歳まで我慢しようか。こっち来た時8歳だったけど、今はどうなんだろう。あれから1年ぐらい経ったような気がする。もうあまり寒くないものね。


エリンと片付けしながら、エリンの鑑定結果を偽造後、夕飯まで自由時間となる。

エリンは最近は児童書にはまっている。わたしが呼び寄せた小さな魔女が修行する本だ。内容をしっかり覚えていると、ちゃんとこっちの文字でこっちの仕様で本が呼べる。

脳のデータベースにアクセスしてくれって最近強く想うようになったからだろうか。性能があがっているような気がする。良し。日本の本が呼べるのは嬉しい。


夕食はエリンが気に入った、パンとハンバーグと人参のグラッセ、葉物野菜のサラダ、コーンスープにしてみた。お子様は好きだよね。ハンバーグとコーンスープ。


ちなみに偽造したエリンの鑑定結果はこんな感じ。

・・・・・・・

エリン

11歳

クリント商会の商会長の弟の娘


HP43

MP135


生活魔法

水魔法


スキル

裁縫


体力も精神もほぼ回復

・・・・・・・・

お貴族様の名前を消して、わたしの従妹になるようにした。それ以外は本物の現在のエリンの現状。エリンのHPが回復していて嬉しい。


「ステータス」

久しぶりにわたしの方もステータスの確認をしてみた。

********

マヤ

9歳

クリント商会の商会長の娘


HP 55

MP 3801980


創造魔法

言語翻訳魔法

鑑定魔法

召喚魔法

生活魔法

複製魔法

収納魔法

錬金術

加工魔法

空間魔法

時間魔法

隠ぺい魔法

遠見魔法

転移魔法

回復魔法

認識阻害魔法

環境魔法

飛行魔法

遠耳魔法

透視魔法

探索魔法

付与魔法


スキル

界渡り

裁縫

木工

革細工

速読

貴石工芸

********

クリント商会って無事に鑑定結果に入った。

さっきエリンの鑑定結果を偽造したからそれに合わせてみた。

エリンもクリント商会の娘に変更したからね。


ん、9歳になっている。どこかで誕生日を迎えていたんだ。HPもMPも増えている。年を取ったから増えたのか、毎日使っているから増えたのかわからないな。まぁ多いからいいか。


1年経ったか、こっちに来る時、当分は一人でのんびりしたいって思っていた。

本を読んで物を作って、何も考えずに現実逃避していただけかもしれないけど、好きなだけ好きなことができることでゆっくり心が回復してきたと思う。


エリンに出会って少し違った未来になったけど、基本はずっと本読んで物を作っているだけ。

転移魔法が使えるようになったから、エリンのことを知っている人のいない、ところまで飛んで、エリンと街歩きしてみようか。

いや、まだ情報が足りない。エリンも箱入り娘だったものね。

世間相場を知りたい。この世界の常識を知りたい。日本ではあんなに無気力だったのに、子を守る親の気持ちなのか、エリンを幸せにしたいため、やる気が出てきている。

死んだことになったエリンが幸せに生きていくためにも、どこかに相談できる信用できる大人の人がいないかな。エリンにも聞いてみようか。


「じゃマヤ、学校に行くのはどうですか?」

世間をもう少し知りたいんだけど、どうしたらいいって聞いたらそう返ってきた。

「学校?わたしは9歳でエリンは11歳になったよね。この年で行けるの?」

「貴族学校は15歳からだけど、庶民の学校は学校に行く年齢が決まっていなくて、短くて1年、長くても3年ぐらい習いたいことを学んだら終わりだと聞いたことがあります。」

学校というより寺小屋みたいなもんなんだろうか。普通の庶民の子どもを知ることができるのはいいかもしれない。学校か。もう、おばちゃん、若い頃にたくさん勉強しておけばよかったなって後悔したことがあった。今は9歳。もう一度ちゃんと学べるのはいいかもしれない。

「エリン、学校いいかもしれないね。どう手続きするのか知っている?」

「お母様が生きていた頃に、仲の良かったメイドに聞いたことがあるのですが、町の顔役さんにお願いして通ったそうです。」


顔役さんねー。この街にもいるのよね。きっと。

あ、あー。そういえば、一度寄付金集めに来られた方がいたな。こっちに来てから半年ぐらいの時に。わたしがドアを開けたらびっくりされていたな。

まさかいきなり執事でも侍女でもなくいきなり子どもが出てくるなんて想定外だったっていうお顔だったね。

年に1度、孤児院や街のために裕福なお家から寄付金を集めている、お金じゃなくてもバザーをするから物でも良いっておっしゃっていたから、ちょっとした遊び心で、前に呼び出したよれよれの馬車1台分入るマジックバッグを渡したら、飛び上がるぐらい喜んで帰られたっけ。

あの時。何か紙をいただいた。めったに使わない応接間にそのまま置いていたかも。


「エリン、ありがとう。ちょっと応接間まで行ってくるわ。」

何で応接間かわからないエリンはきょとんとしている顔が可愛い。

応接間、応接間。掃除する時しか入らないんだよね。使ったのは寄付金のおじさん1回だけ。

だから、もらった紙もそのまま放置されていたはず。

紙のゴミって捨て際がわからなくて増えるのよね。

あった。これこれ。商人街の顔役だと思われる方の名前の入った紙、「寄付お受けいたしました。モーリ商会、代表モーリ・オデルリクス」


モーリ商会っていう名前か、とりあえず行ってみよう。

エリンに聞いて、商人の娘が着るような服は作ってある。少し暖かくなってきたからワンピース1枚でいいだろう。何を扱っている商会なんだろうな。

こういう外事がちょっと面倒になってきた、執事さんとか雇った方がいいのか、家の中のことは魔法でだいたいなんでも叶うから、外に出なければ不自由はないんだけど、エリンをこの先一生家に閉じ込めておくことはできない。

この子の幸せのためにも。外とかかわりを持たないと。

モーリさん、いい人そうだったから、その辺も相談してみようか。この家に悪意のある人は入れないって管理者の方が言っていたから、モーリさん悪意ないんだよね。それに会話した大人ってモーリさんぐらいだもんね。


まずは、モーリさんに手紙だよね。まったく知らない人から突然会いに来られても困るだろうし、たくさん寄付しますっていう顔して行ってもいいんだけど、その辺も併せて書いてみようか。よしっ元社会人としての知識を絞り出そう。


便箋や封筒にペンにインクは商人のお家レベルのものを呼び出したし、内容は学校にも通いたいというのをちょっと丁寧に書いてみた。さて、手紙をかけたけど、どう出しに行こうか。エリンが寝てから転移でお店を探してみるか。探索魔法があれば簡単かもしれない。


モーリ商会は割とすぐに見つかった。結構大きい。さすが顔役さん。郵便受けっぽいものはないみたいなので、ここはマークしておいて明日お店の開いている時間に来てみよう。


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