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今日はエリンにお留守番を頼んだ、エリンが絵本に夢中になっているうちに、エリンとの約束を果たそうと、またフードに認識錯誤の魔法と環境魔法、探索魔法に、飛行魔法。転移魔法も使おう。
さぁちょっと遠出だ。
ここで死ぬのか。
学生時代の庶民の愛しい恋人アンナとの結婚を親に反対され、親が決めた政略結婚をすることになった。
生まれた娘も可愛いとは思えなかったから、あれが病んだ時ろくに医者にも見せず死なせた後、アンナと可愛い本当の娘リリア―ノを呼び寄せ暮らせるようになって幸せだった。
リリアーノのことは7歳まで引き取れなかったことの反動でかなり甘やかした。
だからアンナとリリア―ノがあれの娘を虐げていたとしても、なんとも思わなかった。
小さい頃、おとうちゃま、おとうちゃまと笑ってとてとてと歩いてきたのは覚えている。
でも抱きかかえることも声をかけることもなかった。愛する人と一緒に暮らせなかったことと。
あの娘が原因ではなかったのに。何故、あれほど無関心だったのだろう。
それが悪かったのか。愛する人と暮らしたいと思ったことが悪かったのか。
自分の血の繋がった子を殺したことの報いなのか。愛せなかった、あれと娘。
旦那様と柔らかく微笑んでいたあれの顔が目に浮かぶ。何故、あれほど憎んだのか。
それさえもわからなくなっていった。
きっともう明日は目が覚めないのだろう。
愛するアンナは子どもたちを連れてどこかへ去っていった。
追放された後、すぐに着ていた服を売り、しばらくそれで暮らせたが、あっという間にお金が無くなり、仕方なくアンナが食堂で働いていたが、庶民の仕事ができなくてむしゃくしゃしてお酒に逃げたお金も稼げないわたしに愛想を尽かして出ていってしまった。
あれほど愛していたのに。
アンナにとってわたしはお金だけの関係だったのか。
何が間違っていたのだろうか。
おとうちゃま、幼い頃に笑った娘の顔が浮かぶ。
大きくなった姿は記憶にも何も残っていないのに。
わたしの幸せとはなんだったのだろう。
宰相からあの時、わたしは貴族としていろいろ足りなかったと言われた。
貴族は自分の愛を優先すべきじゃなかったのかもしれない。
死ぬ間際にやっと何が大事だったのか、ちょっとわかったような気がした。
すまない。
最後の最後、あれと娘のところへ行くことになってようやく後悔する。
死んだらあれと娘に会えるんだろうか。家族としてやり直せるんだろうか。
そんなことを考えながら意識が沈んでいった。
ふう。ようやく見つけた。
エリンのお父様。スラム街で野垂死しそうだ。
餓死って辛いでしょう。ぼろぼろになって愛する人からの捨てられるって身にしみてわかったはずだ。
エリンは3年辛い目にあった。
本当は3年同じ目にあって欲しかったけど、でも死なせてしまったらダメだ。
エリンにもお父様はなんとかするって約束したからね。回復魔法とエクストラポーション。
エリンのために作ったんだけどね。これを飲ませて、転移。
裕福な村に連れていくよ。
お父様のポケットに小さめのマジックバッグをねじこみ当分しのげるだけのお金も入れておこう。
村の人には会計財務の仕事の出来る人だよって声をかけておこう。
ここで暮らしていけばいい。お貴族様は18歳ぐらいで結婚するという。
エリンは10歳だからお父様はまだ三十にもなっていない。日本にいた頃のわたしより年下。
間違ったことをしてもやり直せばいい。
エリンが本当に死んでいたら、こんな甘いことはできなかったけど、この人からエリンをもらったから、その対価は払おう。
二度目の人生お幸せに。まぁ今後はあなた次第だけどね。
お義母様の方はどこへいったのか知らないし、探そうとも思わない。
お父様を捨てて、どこかで後妻をしているのかもしれない。
でも、愛した人を捨てて幸せになれるとは思えない。
あなたが捨てたのは庶民の暮らしができないお貴族様だったのかもしれないけど、それでもあなたを選んであなたを愛してくれた人だったのに。
さようなら。
エリンを虐げた人。
あなたはきっと二度と幸せになれない。
嫉妬と劣等感で本物のお嬢様を虐げることでしか満足出来ないような人、人を踏み台にして生きていく人に心から満たされる幸せはこないと思う。
ひねくれた我儘娘と幸せになれるとは思わない。
いつも誰かのせいで自分たちの幸せになれないと愚痴っていればいい。
そうやって心がすり減っていけばいい。
そして失ったものがもう二度と取り返すことができないことに後悔すればいい。
きっともう会わない。王都には戻って来ることは無いし、二度とお貴族様にもなれないだろう。
エリンは二度と会わない。それだけでいいや。