リース、悪戯心を覗かせる
今回はリース王子視点になります。
ここから少しずつ恋愛展開が深まっていく予定です。
「暑いな……」
照りつける日差しを手で遮りながら、リースは思わず呟いた。
今日から始まる学科授業の為、校庭に集まっている雷魔法と氷魔法使いの生徒達。他クラスの生徒たちもいるが、全体としての割合は少ない。雷魔法と氷魔法は発現する人が少ない事をリースは再認識していた。
隣には、リースの小さい頃からの憧れの存在であり、かけがえのない友人でもあるシノ・グロッサムがこの炎天下の中、涼しげに立っている。
(こいつ、魔法使ってんな……)
リースは心の中で思った。隣に立つシノの涼しげな姿を見て、そうでなきゃおかしいと自問自答する。
更に、そんなシノに群がるご令嬢達の姿を見て感服する。暑くないのか不思議なほどに着飾っている。けれど、ご令嬢達は汗一つかいていないようにみえる。
「シノ様、私に氷魔法を手取り足取り教えてください!」
「シノ様、私コントロールが上手くできなくて……何かコツはありますでしょうか……?」
「シノ様!シノ様が得意とする氷魔法はどんなものなのですか!?」
代わる代わる問いかけるご令嬢達。しかし、シノは表情を変える事なくご令嬢達を一瞥した。一人のご令嬢はシノと目が合ったのか、その美貌に腰から崩れ落ちていく。
シノと長年の付き合いであったリースには、その機微な表情の変化も読み取れた。
(そろそろ声かけるか……)
リースは溜息を吐きながらご令嬢達へと近づいていった。
「ごめんねみんな。シノは疲れてるみたいなんだ。そっとしておいてくれるかな?」
「リ、リース様っ!は、はい!!」
「し、失礼致しました……」
リースの言葉でシノの周囲から引いていくご令嬢達。しかし、少し離れたところからうっとりと熱い視線を送っている。
「シノ様……お美しい……」
「寡黙でミステリアスなところも素敵だわ……」
「家名は聞いたことがないけれど、リース王子とご友人なのだから立派な御家柄に違いないわ……」
「えぇ……」
ご令嬢達の話し声は、ヒソヒソ話にしては声量が大きく、遠くからでもリースの耳へと届いた。リースはシノの顔を見た後、ご令嬢達には聞こえないように小さく呟いた。
「嫌ならハッキリ言わないと――誰かに言うみたいにさ」
「うるさい」
「はぁ……俺のせいで注目浴びてるのもあるだろうけど――やっぱり俺たち一緒にいない方が良かったのかな」
「………………」
リースがポツリと呟いた言葉を聞き、シノは横目でリースを一瞥した。それを受けて、リースは不貞腐れた表情を浮かべた。
「『初めから他人のフリすればいいのに』――とでも言いたげな顔だね」
「何も言ってないだろ」
「顔から滲み出てるよ!!――いいの!俺は友だちと学校生活を楽しく過ごしたかったの!……あ、笑ったな?」
シノの前で子どものような顔つきを見せるリース。普段は王子という肩書きがある為、学校では大人びた様に見せていた。しかし、本来のリースの姿に戻っているのを見てフッと笑みが溢れるシノ。
その様子を遠巻きから見ていたご令嬢達は悲鳴とも言えるような歓声が上がった。
リースは、微笑み一つで世界を変えられるのではないかと思いシノをみる。当の本人であるシノは、自覚なく人々を虜にしていた。リースはその様子を見て、深く溜息をついた。
(どうせ俺と一緒にいなくても、女の子達が集まるのは目に見えてるよ……。むしろ俺が助けてるんだから結果的に一緒にいて良かったんじゃないか……?)
半目で粘りつくようにシノを見つめるが、シノはそんな視線に気づくことなく、一点を見つめていた。
視線の先には校舎と旧校舎を繋ぐ廊下――そこには楽しそうにスキップしながら廊下を通過している一人の少女の姿があった。
もう一度シノの顔を見ると、いつもの仏頂面が少し緩んでいるように感じられる。
(治癒魔法使いのスズナ……)
最初は、貴族ではない子が次席になった事を知って興味を持ったリース。そして、入学前にシノにスズナの事を伝えると知り合いだというので更に興味が湧いていた。
しかし、シノにどこで知り合ったのか、どんな子なのか聞いても返事はなかった。あまり仲良くないのかとリースは思っていた。けれども入学時のあの教室に入った時のシノの顔を見てすぐに違うのだと分かった。
だから、リースは声をかけた。王族の自分に声をかけられたら無碍に出来ないと分かっていながら。スズナがどんな子なのかを知るために。
そして、自己紹介の場で衝撃を受けた。スズナの魔法を見て、歴代聖女と謳われた母と同じくらいの魔力があるのではないか――そう、リースは目を疑った。
(治癒魔法か…………)
リースにはもう一人、治癒魔法を使う子に心当たりがあった。リースはふとその子の事を思い浮かべる。そして、ブルっと身震いした。
(うっ、思い出すだけで寒気が……)
浮かんでいた顔を掻き消すように頭を振っていると、その様子を見ていたシノが口を開いた。
「王妃が来るんだよな?」
「えっ!あぁ!そうだった!……大丈夫かなぁ。スズナちゃん」
今日から始まる学科授業に母が来る事を知っていたリースとシノ。リースは治癒魔術師としての母を思い浮かべ、スズナに同情する。
シノも同じように思っていたのか、ポツリと呟いた。
「だめならそれまでだ」
「……気にしてるくせに。素直じゃないなぁ」
「黙れ」
シノの身体から一気に冷気が押し寄せてくる。顔からは怒りのような圧を感じる。しかし、リースはそんなシノの顔を見ても臆する事なく、涼しいなと思いながらもあっけらかんと答えた。
「てか、俺にも魔法かけてよ、暑くて死んじゃう」
「面倒臭い」
「ムッ」
リースとシノが楽しそうに話している様子に先ほど集まっていたご令嬢とは別のご令嬢達がシノ目当てでまた群がり始めていく。
「リース様の雷魔法早く見たいです」
「リース様、どうやって魔法上達しているのですか?」
今度はリースに声をかけながらも、チラチラとシノの方を気にしているご令嬢達。しかし、シノは自分は無関係なのだと、飄々と突っ立っている。
リースは自身には魔法を使ってくれない腹いせに、したり顔でご令嬢達に言い放った。
「ねえみんな!やっぱりシノもみんなと話したいって!」
「は?」
リースの言葉を聞いたご令嬢達は、目をぎらつかせ我先にとシノへ話しかけていく。先程まで遠巻きに見ていた者達も一斉にシノの元へかけていった。シノの周りには一気にご令嬢達で埋め尽くされた。
その中心に立つシノが般若のような表情でリースを睨みつけているが、その顔を見たリースはククッといたずらっ子の様な幼い顔で笑った。
(俺の存在をありがたく思え!)
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また、拙い文章もあるかと思いますがなるべく高頻度で更新できるように頑張りますのでよろしくお願いいたします!