〜番外編〜 体力対決、決着
体力試験の最中――。
シノはスズナが雑木林の崖から落ちてから数分ほどですでに、一着でゴールしていた。先頭で来たのにも関わらずスズナの姿を見かけなかったシノ。
先にゴールしたのかと焦ったシノだったが、終着地にはルドしか見当たらない。ルドから一番であった事を告げられたシノはルドに問いかけた。
「……あいつ……スズナは?」
「ん?スズナ?お前が一番だって言っただろ。まだ走ってるんじゃねーの?」
ルドは不思議そうに頭を傾げている。こいつらそんなに気にかけるほど仲良かったっけ?――と心の中で思いながらシノに問いかけた。
「てか、お前ら仲良かったんだな?」
「いや、それは分からない」
「じゃあなんでそんな気にしてんだよ、ていうか敬語を使え、敬語を」
「………………」
ルドの問いかけに無言を貫くシノ。ルドはそんなシノを見てなるほどなと納得しニヤつき始めた。
シノはそんなルドに気づく事なく、走ってきた方へと目を向けていた。しかしまだ、誰かが来る気配はない。
追い抜かしてきたなら分かるはずだとシノは心の中で思い――来た道を見つめていた。けれど、横から突き刺さる視線にチラリと目を向けた。
「なんだ?」
ニヤニヤとした表情でシノの顔を見ながらルドは言う。
「いやぁ、お前分かりやすいなって」
「…………なにが?」
「ハハッ何でもねえよ!心配なら探しにいってきな。あいつ方向音痴だからどっかで迷ってるかもしれないからな〜」
「……方向音痴?なんで知ってるんだ?」
シノが不機嫌そうな表情をしたのをルドは見逃さなかった。笑いが溢れるルドにシノは更に顔をしかめた。
(面白いな、こいつら)
ルドはいつまで経っても敬語で話さないシノに意地悪心と好奇心でこう答えた。
「教えなーい、スズナに聞いてみたら?」
シノはルドの企んだ顔を見て大きく溜息を吐き、走ってきた道を戻っていった。一人になったルドはその背中を見てポツリと呟いた。
「青春だねぇ……」
*
シノとスズナが一緒に戻ってくるのを待つクラスメイト達。帰ってきた姿を見て、ご令嬢達はざわつき始める。
「……ずるいわ、シノ様に助けを求めるなんて」
「シノ様の優しさに甘えてるんだわ……」
(聞こえてるよ、お嬢さん達……。こんな風に縛られてるのを見ても羨ましいと思うんだ……)
スズナは、情けない姿を見られている事に屈辱を感じていると、ルドが仁王立ちでスズナの前へと立ちはだかった。
「やっと戻ってきたか……。シノ、ありがとな。んで、スズナ……お前は一体どこに居たんだ……?」
呆れながらも少し怒っている様子のルドをみて、スズナは宙に浮いたままシュンと項垂れた。
「すみません……、近くの雑木林の中で崖から落ちちゃいまして………………」
「何で、あの雑木林なんかに……あそこは外周から離れてるだろうが……ったく、怪我は?」
「あ!怪我は治癒したので問題ありません」
頭を抱えながらそう話すルドにスズナは自信満々に答えた。すると、すぐに般若のような表情へと変わりスズナは口をつぐんだ。
「まあ、良い……シノにお礼言っておくんだぞ、全く……大きくなっても方向音痴は治らなかったのか……」
「ちゃんと道なりに進んでいたんですよ」
「言い訳するな」
ルドにピシャリと言い放たれ、おでこを指で弾かれる。
シノの魔法が解かれ地へ足をつけると、さっきまで見えていたシノのつむじが見えなくなった。
スズナはシノの背中に向かってお礼を言おうとする。しかし、クラスメイトたちの注目が集まる中で口にするのは屈辱的で、どうしても躊躇ってしまう。それでも、人としてお礼を言わないわけにはいかないと、もう一人の自分が囁くように告げていた。
「……ありがとう、シノ」
スズナは頭を下げてお礼を口にした。しかし返答はなく、代わりにクラスメイトたちのざわめきが耳に入ってくる。不思議に思い顔を上げようとしたその瞬間、頭を押し戻されてしまった。
「な、何すんのよ!」
「……うるさい、こっち見るな」
(本当、何なのよこいつ……!)
またしても敗北したスズナは、屈辱に顔を赤らめ、唇をかみしめながら、目の前の現実を受け入れざるを得なかった。
そんな、スズナたちを、物陰に潜みながら、苦虫を噛み締めたような表情で睨む一人のクラスメイトがいた。