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第1話: 予兆

冷たい北風が物流センターの駐車場を吹き抜け、灰色の空には降り始めた雪がちらついていた。

山崎悠真は事務所の窓からその様子を見つめながら、胸の奥に重くのしかかる不安を感じていた。


「山崎さん、今日の配送スケジュールですが、遅延の問い合わせがもう十件以上入っています。」


後輩の田中が慌ただしくデスクにやってきた。

彼の手には報告書が握られており、その紙には赤いペンで書き込まれた注意事項がいくつも並んでいる。


「わかった。取り急ぎ、運送会社に状況を確認しておくよ。」


悠真は冷静に答えたが、内心では状況が悪化する未来が見えていた。

雪はまだ積もるほどではないが、予報では今夜から明日の朝にかけて大雪になるという。

道路の凍結による事故や高速道路の通行止めが予想され、トラックの運行スケジュールは大きく乱れるだろう。

さらに、到着が遅れるトラックが重なることで、倉庫の荷下ろし作業が混乱し、現場の効率が著しく低下する恐れがあった。


**——物流の全体を見れば、どこかで遅れが出れば必ず他にも影響が出る。——**


それを誰よりも理解しているのが、この物流センターを管理する悠真だった。

荷主は当然のように「納期厳守」を要求し、運送会社は「安全第一」を理由に運行中止の判断を迫られる。

そしてその間に挟まれるのが倉庫現場だ。


田中が戻った後、悠真は現場の作業エリアへと足を運んだ。外の寒さとは対照的に、倉庫内ではフォークリフトの音が響き渡り、作業員たちは大きな声で指示を出し合いながら忙しそうに動いていた。

パレットを運ぶフォークリフトの運転手は慎重な表情を浮かべ、荷物を整理する作業員は雪で濡れた床に足を滑らせないよう注意深く作業を続けている。

彼らの額にはうっすらと汗が浮かび、ピリピリとした緊張感が倉庫全体に漂っていた。


「お疲れさま、みんな。今日の雪の影響で、到着予定のトラックがいくつか遅れている。混乱を避けるために、荷下ろしの段取りを確認しておこう。」


悠真が声をかけると、作業員たちは一斉に顔を上げた。

ベテランの村上が真っ先に口を開く。


「山崎さん、今日はまだいいですが、明日はどうなるかわかりませんね。このままだと、トラックが一斉に到着して、現場がパンクしますよ。」


その言葉に悠真は頷いた。村上の言う通りだ。雪が降ると運行スケジュールが乱れ、遅れたトラックが同時に到着することは珍しくない。

そのたびに、バースが足りず、荷下ろしが滞り、現場はカオス状態になる。


「とにかく今は、明日に備えて少しでも効率的に進めよう。田中にも手伝わせるから、困ったらすぐに教えてくれ。」


そう言って、悠真は村上たちに軽く頭を下げた。ベテランたちの信頼を得るには、自分も現場に関わる姿勢を見せることが大事だ。


**その日の夕方、予感は現実のものとなった。**


高速道路の一部区間が通行止めになり、到着予定のトラックの半数以上が遅延するとの連絡が入った。

これにより、荷物の積み下ろしスケジュールが大幅に狂い、すでに到着しているトラックはバースの空きを待つ列を作っていた。

事務所内には次々と荷主からの電話が入り、「納期に影響するのではないか」というクレームが相次ぎ、対応に追われる田中の姿があった。


「山崎さん、荷主から怒りの電話が続いています。『雪くらいでなぜ遅れるのか』って…。生鮮食品を扱う取引先からは『遅延は品質に直結する』というクレームもあり、対応を急かされています。」


田中の疲れた顔を見て、悠真は心が重くなった。

荷主にとっては、自分たちの荷物が予定通りに届くことが全てだ。

しかし、現場の現実を知る者として、悠真はその無理解に苛立ちを感じた。


**物流は、物を運ぶだけでは終わらない。その裏には、現場の負担が積み重なっているのだ。例えば、作業員は遅延した荷物の処理で通常以上の労働を強いられ、フォークリフトのオペレーターは、寒い現場で長時間の作業を余儀なくされる。さらに、限られたスペースでの効率的な荷物の置き方を求められ、現場全体に疲労と緊張が広がっている。**


悠真は決意した。

この混乱を何とか収める方法を見つける。

そして、誰もが忘れがちな現場の声を、物流全体に届けるべきだと。


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