表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

たとえ死んでも

作者: おいらもぐ

~たとえ死んでも~


(ナレーション)

雪の降る夜、辺境の地にある石造りの塔の中に、少し白髪混じりの男と、青年と言うには少し幼さが残る少年、2人の術師師弟が遅い夕食を終え、暖炉の前でくつろいでいる。


(ガルディム)

今日の鍛錬は少し厳しかったようじゃな?


(ティム)

いえ。たいした事有りません。

それより僕は、早く一人前の術師になりたいのです。


(ガルディム)

すました顔しおって。

わしが見ておらんとこで、泣きべそをかいておったくせに。


(ティム)

僕は、泣きべそなんかかいたこと有りませんってば!!

きっとそれは薬草の粉が目に入って!、、、。


(ガルディム)

ふん。強がりおって。


(ティム)

ぐぅ。それより、お師匠さんの方こそ、ご老体に鞭打って私と同じように野山を駆け回るものだから、いつ発作で倒れるか。

そっちの方が心配ですよ。


(ガルディム)

いいよるわい。じゃがわしはまだ59じゃ!

老人とは60を超えた人間の事を言うんじゃ!

グビグビ、、、プハー。

うむ、今年わしが作ったブドウ酒は、すばらしい出来じゃわい!


(ナレーション)

ブドウ酒をゆっくり飲み干しながら、満足げな表情のガルディムとは対照的に、ミルクを持ってむくれっ面のティム。


(ティム)

「わしが作った」って仰いましたか?


(ガルディム)

そうじゃよ?。わしの!畑で、わしの!選んだぶどう種で、わしが!作った設備で、わしが!考案した製法で作ったブドウ酒じゃ。

これをわしが作ったと言わずして誰が作ったと言うのじゃ?


(ティム)

栽培から収穫まで、ほとんど僕にやらせたくせに。

それに、発酵の最中だって寝ずに攪拌かくはんを続けさせられて、汗水垂らして作ったのは、ほとんど僕なのに。

何で僕には、やぎのミルクしか飲ませてくれないんですか!!


(ガルディム)

むう?お前はまだ小さいからなあ。ミルク飲んで大きく育て!ハッハッハ。

それに、お前にブドウ酒飲ませたら、わしの飲む分がなくなるじゃろうが。


(ナレーション)

仲の良い師弟がいつものように口喧嘩していると、

風の音の影から2頭の馬のいななきと、扉をノックする音が聞こえた。


(ティム)

お師匠さん誰か来たみたいですよ。


(ガルディム)

刺客?では無さそうじゃな。

道に迷って困っておるのであろう。入れてやりなさい。


(ティム)

相手を見ても無いのに、そうやって誰でもすぐ招き入れるなんて。

大丈夫なんですか?

人がいいというか無用心というか。まったく。

ハイハイ!すぐ開けますよー。


(ナレーション)

鍛錬のあとの師匠と2人でゆっくりした、だんらんを楽しみしているティムは、少し残念がりながらも、ドアを開けて客を中に入れてやる。

ティムに案内され、入ってくる2人。

一人は、優しげな雰囲気をもちながらも若く逞しい青年。

もう一人は、高貴な風格を漂わせながらも、

親しみの持てる感じの若い女性であった。


(エルリック)

おはつにお目にかかります。

私は、皇国護衛団第一皇女護衛隊長、エルリック クローネンベルグと申します。

こちらは、わが国の第一皇女カトリーヌ姫でございます。

かつてわが国の宰相まで務め上げた、優れた赤の術師である貴殿に、折り入ってお頼みしたいことが。


(ティム)

(皇女?ということはあの国王の娘なのか?)


(カトリーヌ)

お目にかかれて光栄です。ご高名は兼ねてから拝聴しておりました。

どうか私共をお助けください。


(ガルディム)

おはつ、、、だったかのう?お若いの。まあいいがな。


(ティム)

こんな夜中に押しかけてきて。

王国がどうとか、私は皇女だとか、勝手なことばかり!

頭を下げれば皆、あなた達の言うことを聞くとでも思っているんですか?


(エルリック)

おやおや、君の大好きな老師様をお借りして、申し訳なかったかな?


(ティム)

子ども扱いするな!僕は、あなたたちのような、、、。


(ガルディム)

ティムよ、少し黙っているのじゃ。


(ティム)

でも、お師匠さん!


(ガルディム)

いいから、ちょっと口を閉じるておるのじゃ。


(ティム)

わかりました。


(ガルディム)

お若いの、気にせんでくれ。まあ話しだけでも聞くことにしようか。


(カトリーヌ)

はい。実はひと月ほど前、わが国では内乱が起こりまして、国王一族が暗殺されました。

その中で唯一生き残ったのは、後継者となるはずの兄の第1皇子だけしかし兄は、身の危険を感じて国外に亡命、

今、この国は混乱のさなかにあります。


(エルリック)

幸いにも正規軍は壊滅してはおりません。

早急にカトリーヌ様を、正式な後継者として国をまとめ上げ、

国を回復したいのです。 


(ガルディム)

わしは国を捨て、静かに自分の術法を研究しておる身。

そういったことには、一切関わらんことにしておる。


(エルリック)

貴殿は、一時はわが国の禄を食み(ろくをはみ)ながら、手は貸せぬと申されますか。


(ガルディム)

くどい!今日はもう夜も遅い、外も寒い。ここに泊まっていくのはかまわんが、明日の朝には出て行ってもらおうか。


(エルリック)

明日の朝?私達はそんな悠長なことは、言っておれないのです。


(ガルディム)

我々には我々の時間がある。

なぜわしが、お前さんたちの都合に合わせんといかんのじゃ?


(エルリック)

私は、私は例え死んでも、カトリーヌ様をお守りしたいのです!

何卒、何卒、お力をお貸しください!


(ガルディム)

例え死んでも、か。

お若いの、術法の基本は身につけておるか?


(カトリーヌ)

はい。事が起るまで隣国で留学しており、

白の術法なら少しばかり練成することが。。。


(ガルディム)

いや。カトリーヌ殿には申しておらん。

お若いの、おまえさんに問うておるのだ。


(エルリック)

はい。わが国の護衛隊では、例外は居りますが、士官以上は皆ある程度貴殿の得意としている、赤の術法を使うことが出来ます。

私も得意とは言えませんが、いくらかなら。


(ガルディム)

ふん。いくらか、、か。

全く、ワシが護衛隊の若造を教練しておったごろは。

いや、なんでもない、気にするな。


(エルリック)

剣技であれば、わが国一と誉れの高い、紅竜騎士団第2騎兵隊長の、バルフォードにも引けは取らぬのですが、術法のほうはあまり。


(ガルディム)

ではその、お前さんの得意な剣技で、姫君を守りきって見せれば良かろう。


(エルリック)

反乱軍は血眼になって、後継者である姫を殺そうと探しております。

大半は私の剣で切り捨てましたが、あのバルフォードがトロルを従え、追ってきているのです。


(ティム)

トロルというとあの?


(エルリック)

奴らトロルには、人間の力ではせいぜい傷を付けるのが精一杯。

その傷でさえ、数分で再生してしまうのですから、勝ち目が無いのです!

既に、同行していた部下数名も、囮となって、散っていきました。


(ガルディム)

トロルか。生半可な術法では倒せんな。

かといって、お前さんを今から教練するほど、時間も無いのじゃろ?


(エルリック)

城までご同行願えませんでしょうか?


(ガルディム)

悪いが断る。わしがこの地を少しでも、離れようものならたちまち、この塔の中にある、貴重な魔宝を悪用しようという輩が盗み出すであろう。

それにわしは、最近腰痛がひどくて馬に乗れん。


(カトリーヌ)

では何としてもお力を貸していただくわけには?


(ナレーション)

棚の奥の方から、濁った黒い液体が入った小ビンを持って来て、机に置くガルディム。

そして重々しくこう言った。


(ガルディム)

これを持っていくかね?


(ティム)

お師匠さん!この秘薬は実験段階では無いですか。

しかも、赤の術法師が届け出も無く黒の、しかもそのような、ハイレベルな術法を研究していたと、術法ギルドに知られたら。


(ガルディム)

これを持っていくかね?お若いの。

術法を練り服用するだけで凄まじい力が手に入る。

じゃが、ティムが言ったように、この術は黒の術法。

望みはかなえられようが、引き換えにお前さんの魂を奪う。


(エルリック)

どういうことでしょうか?


(ガルディム)

術を練り、この秘薬を飲むことにより、一時的では有るが、通常の何十倍もの腕力、さらに数倍の戦闘速度を得ることができる、、、。

異形の、狂戦士となってな。


(カトリーヌ)

異形の狂戦士?


(ガルディム)

ああ。絶大なる力を、得ることはできる。

恐らく、この術式で狂戦士になったのが、飴玉をしゃぶっておるような子供だとしても、お前さんなど、素手で数分であの世に送ることができるほどにな。


(エルリック)

それはすばらしい!

それで、私の魂を奪うというのは?


(ガルディム)

1度狂戦士となると、もう元には戻れん。

肉体は巨大化し、原型を留めぬほど、醜く朽ち果て、悪臭さえ放つ。

それどころか、術式が解けた時には。。恐らく。。。


(エルリック)

恐らく?


(ティム)

え?言わないとわからないですか?それは死・・・


(カトリーヌ)

やめてください!そのような恐ろしい秘薬、頂かなくて結構です。

エルリック。行きましょう。今夜中に少しでも遠くに逃げれば、追っ手を振り切ることができるかもしれません。

例え逃げ切れなくても、私、貴方と運命を共にするなら本望です。


(エルリック)

カトリーヌ。。。

ハッ!馬鹿なことを言わないで下さい!仮にも貴女は一国の後継者。

私のような者と貴女様は、身分が違うのです。


(カトリーヌ)

エルリック私は・・・


(エルリック)

カトリーヌ姫!あくまで、貴女と私は主とあるじとしもべ

姫をお守りすることが、私の任務。

それに、うまく追っ手から逃げ切ればその秘薬も使わなくても済みます。


(カトリーヌ)

2人で逃げ切るのです、エルリック。

それに、今まで貴方の剣の技で、私を守ってくれたでは有りませんか。

そんな恐ろしい秘薬など必要ないでしょう?

さあ。こんなとこにいても仕方ありません。

行きますよ。エルリック。


(ティム)

その言い方はすこし失礼ではありませんか?

必要ないなら、黙って置いて行けば、いいじゃないですか。


(ナレーション)

ティムを無視して先に出て行くカトリーヌ。


(ガルディム)

そう言うでない!ティム。

お若いの。わしも使わなくて済むことを、祈っておるよ。

持っていく持っていかんは、お前さんが決めればよい。


(エルリック)

そうですね。持っていれば最悪死ぬのは私だけで済む。

ありがたく頂戴します。


(ナレーション)

考えた末、秘薬を受け取り、深々と頭をさげ、出て行くエルリック。

2人は馬を走らせ、急いで城に向かう。


(ティム)

なぜあのひとに、秘薬をお与えになったのですか?

僕は、この国の特権階級の人間なんて、大嫌いです。

それはお師匠さんだって!


(ガルディム)

あの若者、知らなかったのか、知っておったのか。。。

恐らくは知っておって、口に出さんかったのじゃろうが。

わしと、あの若者の親父、そして、、、、。

いや、わしらは親友だった。


(ティム)

そして?あ、ごめんなさい。続きを聞かせてください。


(ガルディム)

わしらは、この国では珍しく、平民の出でありながら、国の重職につき、気も合った。

よく国の行く末を語りながら、飲み明かしたものさ。

そういえば奴は、あの若者とよく似た、まっすぐな目をしておったな。

そして、あの若者の親父を、殺したのは、わしじゃ。


(ティム)

え?お師匠さん、なぜ親友を、お手にかけたのですか?


(ガルディム)

親友だった奴は、わしが国を去るとき、国王からの密命で刺客としてわしを殺しに来た。

奴は、正々堂々とわしに勝負を申し込んできたよ。

だが、わしを逃がしてくれる為に、わざと負けよって。あの馬鹿野郎。

よりにもよって、奴とあの若者、親子2人揃ってわしの手で、あの世に送ることになるかも知れんな。


(ティム)

あの世に送る?、術法が解けたとき、あのひとはどうなるのですか?


(ガルディム)

術法で巨大化した体は、どんどん朽ち果てていき、

そして、最後は灰になるであろう。

恐らくは、あの姫君の涙ととともに。。。


(ナレーション)

馬を走らせ、城に向かうエルリックとカトリーヌ。

翌日の夕暮、城まであと数十キロの林道まで、2人はたどり着いた。

その時、林の影から馬に乗った人間の男と、大きな影が2つ現われた。


(バルフォード)

久しぶりだなエルリック。

必ずここを通ると思い、待っていたぞ。


(エルリック)

バルフォード!やはりお前は、この国を裏切ったのか?


(バルフォード)

裏切る?俺は剣技ではこの国一だ。

なのにこの国では、妻と娘と3人食っていくのがやっとだった。

それでもまあ、幸せな日々だった。

フッ、そんなことはどうでもいい。

あの伝染病が、この国に蔓延したときのことを覚えているか?


(エルリック)

あれはひどかったな。お前は妻と娘を失ったと聞いた。気の毒だと思う。


(バルフォード)

気の毒だぁ?薬さえ!薬さえあれば!死なずに済んだものを。

食っていくのがやっとな俺は、あちこち這いずりまわりやっとの事でまとまった金を工面した。


(カトリーヌ)

それでは、薬は手に入ったのでは、無いのですか?


(バルフォード)

貴族階級には、余るほど薬が支給されたらしいが、

俺達のところへ薬が回ってきたのは、

妻も、娘も死んで、伝染病がほぼ、収まってからであったわ!


(エルリック)

それがこの国を裏切った理由だと言うのか!


(バルフォード)

問答無用、行けトロルども!生け捕りになどする必要は無い。

2人とも殺してしまえ!


(ナレーション)

地を揺るがす重い足音とともに、襲い掛かる2匹のトロル。

3メートルを超す巨体は、月明かりの下で禍々しい影を地上に落とす。

緑がかった灰色の皮膚は、まるで岩のように硬く、

人間の剣など跳ね返してしまいそうな厚みを持っていた。


(エルリック)

(まずは距離を取って、様子を見るか...!)


(ナレーション)

エルリックは一瞬の判断で、カトリーヌを庇いながら後方に跳躍する。

その動きは無駄ではなかった。

トロルの振り下ろした棍棒が大地を抉り、

エルリックが先ほどまで立っていた場所に深い窪みを作る。


(エルリック)

姫、私の後ろに!


(ナレーション)

右からの一撃を剣で受け流し、左からの掴みかかる手を紙一重で躱す。

人間業とは思えない神業的な剣術で応戦するエルリック。

しかし、トロルの圧倒的な腕力の前では、

受け止めた衝撃が彼の腕を痺れさせていく。


汗が噴き出す額。荒くなる呼吸。

エルリックの動きが、わずかながら鈍っていくのを

バルフォードは冷ややかな目で見つめていた。


(バルフォード)

どうした、エルリック?その程度か?

お前ほどの剣の使い手が、たった2体のトロルごときに手こずるとは。


(エルリック)

(クッ...!確かに俺一人なら、まだ数合いは持ちこたえられる。

だが、姫様を守りながらでは...!)


(ナレーション)

その時、片方のトロルが不意に動きを変え、

カトリーヌに向かって直接攻撃を仕掛けてきた。


(エルリック)

姫!


(ナレーション)

咄嗟にカトリーヌを抱きかかえ、横転するエルリック。

その隙を突くように、もう片方のトロルの渾身の一撃が放たれる。


重い棍棒が、エルリックの胸を直撃。

鎧が軋むような音を立て、彼の体は弾き飛ばされる。

大きく弧を描いて宙を舞い、地面に叩きつけられる。


(エルリック)

ぐっ...!

(このままでは、姫様が...。俺一人の力では足りない...。)


(ナレーション)

立ち上がろうとする膝が震える。

口から血が滲む中、エルリックの右手に握られた

黒い液体の入った小瓶が、月明かりに鈍く光を放つ。


(バルフォード)

ククッ。そんな小汚い泥水を握り締めて、なにをしておるのだ?

のどでも渇いたのか?フハハハハハ。


(カトリーヌ)

まさかっ!やめてエルリック!


(ナレーション)

迷いのない動作で術法を練り、一気に秘薬を飲み干すエルリック。

その瞬間、彼の体から紫色の靄が立ち昇る。

激しい苦痛に全身を貫かれ、喉から絞り出すような呻き声が漏れる。


まず、鎧が弾け飛んだ。

急激な体の膨張により、金属が内側から破裂するように四散する。

続いて、肌の表面がブツブツと泡立ち始める。

見る見るうちに、肌の色が濃紺へと変化していく。


優しげだった彼の顔立ちは、獰猛な形相へと歪んでいく。

目は血走り、牙のような歯が口からのぞく。

腐敗した死体のような悪臭が、周囲に充満していく。


(エルリック)

姫、少しの間目を閉じていて下さい。

決して私のこの姿を見ないで...。

行くぞトロールども!グオオオオ!


(ナレーション)

変貌したエルリックの姿は、もはや人間のそれではなかった。

阿修羅の如き狂気に満ちた存在となって、

トロルへと襲いかかる。


剣を振るう速度は、目で追えないほどに加速していた。

まるで手が何本もあるかのように、

無数の斬撃がトロルの体を的確に切り裂いていく。

エルリックの剣は、トロルの皮膚の硬さなど

まるで紙を切るかのように易々と貫通していった。


(トロル)

グギャアアアアアッ!


(ナレーション)

トロルの再生能力など物ともせず、

その切断面を更に細かく切り刻んでいく。

肉片が飛び散り、緑色の体液が噴き出す中、

エルリックは狂ったように笑いながら、

その破壊の舞を続けた。

わずか数十秒。

かつて3メートルを超える巨人だった2体のトロルは、

もはや地面に散らばる肉の山と成り果てていた。


(エルリック)

次は貴様か?バルフォード!


(ナレーション)

その血走った眼光は、もはや理性の欠片も感じさせない。ただ、純粋な殺意のみが宿っていた。


(バルフォード)

クッ。トロル2匹を瞬殺するとは。もはや人間とは呼べんな。

しかし、俺は逃げるわけにはいかん!

新しい理想国家に、軟弱な騎士などいらんのだ!

トゥオリャー!


(ナレーション)

皇国一の騎士と誉れ高かったバルフォードであるが、

秘薬の力を得たエルリックには、全く相手にならなかった。

心臓を一撃の下に打ち抜かれ、地面に這いつくばるバルフォード。


(バルフォード)

生きて、我々の共和国を目にしたかった。

身分の違いなど気にせず、能力のあるものが、思う存分力を発揮できる、そんな国を、俺は、作りたかっただけなんだ。

グハッ。

、、、。アンニーナ、シャルロット。

これで父さん、また、お前達に会えるのかな?


(ナレーション)

妻と娘、2人の肖像画が入ったペンダントを握り締め、

静かに息を引き取るバルフォード。

エルリックの両目から、少しづつ憎悪の炎が消えていく。

しかし、それは彼の命の炎もまた、薄れ掛けていることも意味していた。


(エルリック)

ハア、、ハア、、ハア、、、。

全て、、片付いた、か。


(ナレーション)

変わり果てた姿におびえながらも、エルリックに駆け寄るカトリーヌ。


(カトリーヌ)

エルリック?エルリックなのね?


(エルリック)

姫!見ないで下さい。

この変わり果てた俺の姿を貴女に、、、。

貴女にだけは、見られたくない。


(カトリーヌ)

どうして?どうして、そんな秘薬なんか?

私には、お父様もお母様も、そして幼い弟妹達も、もういないのよ。

それなのに、貴方まで私を残して、死んでしまおうというの?

私一人では、生きていたくなんか、ないのに。


(エルリック)

カトリーヌ姫、そんなこと言わないで下さい。

貴女を守る事が、私の役目なのです。

そう。幼かったあの日、お城の中庭に忍び込んで、

初めて、貴女のことを見た、あの日から。


(カトリーヌ)

エルリック!貴方もあの日のこと、覚えててくれたの?うれしい、、、。


(エルリック)

幼かったあの日から、いつか護衛隊に入り、貴女のことを守るんだって、

ずっと心に決めてました。辛い訓練にだって耐え抜いてきたのも、

貴女を守る、貴女だけのナイトになるって、誓っていたからなんです。


(カトリーヌ)

私、ずっと貴方のことが、好きだったのよ、エルリック。

私を守ってくれるあなたの背中を、ずっと、見つめていたのよ。


(エルリック)

知ってましたよ。だから、気付かない振りをするのはつらかった。

でも、もう、私には、時間が無いらしい。

だから、最後にひとつだけ、言わせてもらっていいですか?。姫。


(カトリーヌ)

最後?最後ってなによ?

ハッ!まさか?!

最後なんて言うんなら、私、聞いてあげないわ!


(エルリック)

カトリーヌ姫。私は誰よりも貴女を、愛しております。

いつだって、どこにいたって、たとえ、死んでも!

グハッ! ゴフッ、グファ!


(カトリーヌ)

エルリック!?


(ナレーション)

苦しそうに血を吐き、息絶え絶えのエルリック。

しかし、精一杯の笑顔で、話し続ける。


(エルリック)

ハア、、ハア、、、。

どうか、幸せになってください。

私は、貴女を守れて、幸せでしたよ。


(カトリーヌ)

何を言っているの?死なないで!エルリック!

私をずっと、守ってくれるって誓ったんじゃ無いの?エルリック!


(エルリック)

ハハ、、、。

死、なない、、よ。私だってずっと、貴女を守っていたい。

だから、、。お、おまじないをひとつ、、、。

目を、閉じて。


(カトリーヌ)

ほんと?ほんとに死なないって約束よ!

こう?こうでいいの?

(少し間)

おまじない、終わった?もう、目を開けて、いい?


(エルリック)

(ごめん、、、ね。カト、、リーヌ。)


(ナレーション)


静かに灰になり、風に運ばれていくエルリック。

カトリーヌが目を開けたときには、

雪の上に、わずかに残された灰だけだった。


~fin~

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ