タコパ
今日の晩御飯はたこ焼きだ。食べ放題だ。たこ焼きは、作るのは面倒だけれど、上手にクルッとひっくり返して、段々と丸くなっていくのを見るのは楽しい。お前上手いね、そうかな、後は任せた、私は食べるの専門です、とかワイワイガヤガヤ話しながら作るのが楽しい。自分達で作り上げたものを、熱々のうちに食べられるのが何より最高だ。必ずと言っていいほど、出来上がると喜んで、一口で頬張る人がいる。その人は、口の中を火傷してしまうので、要注意だ。
テーブルの上にはソースとマヨネーズ、青のり、鰹節、紅しょうがが置かれている。これはお好みで、自分好みに使うのだ。
今日は四人。仲の良い友達繋がりで集まった。男二人、女二人。四角いテーブルを囲んで座っている。一人はタクヤが大学生になってから知り合った友人のマサヤだ。もう一人はマサヤの幼なじみの女の子のカヨコ。最後の一人はカヨコの親友のミカである。
「私ね、鰹節は削ったことがないの。削られたものが鰹節だと思っていたよ。削るのは今日が初めてだよ」
「カヨ、大丈夫。俺だってないよ。削ったことがあるのは鉛筆ぐらいなもんだよ。小学生の頃には毎日、鉛筆を必要以上に尖らしては喜んでいたな」
マサヤとカヨコが仲良く、気安く話をしている。タクヤは初めて会う女の子二人を前にして、少し緊張していたが、段々とその緊張も和らいできた。今、タクヤの目の前にある話題の鰹節は触ってみると、とっても固かった。鈍器としても使えそうだ。それは物騒な話だ。凍らせたバナナとどちらが硬いだろうか。タクヤの目には以前テレビで見た、バナナで釘を打っている映像が浮かんだ。
「このカンナみたいなヤツで削るんだよ。」
「それ、どこから持ってきたの?」
「えっ、家だよ? 持って来たって言ったじゃん。うちは鰹節と言ったら、これがセットで出てくるよ。当たり前のことだよー。普通だよ、普通」
「普通じゃないよ。家にこれがある人ってなかなかいないよ。レアだよ、レア。ミカちゃんはカンナちゃんだわ」
「やめてよー。カンナちゃんとか言わないでよー」
「じゃあ、カンナみたいなやつの正式名称教えてよ」
「え、知らないよー」
「知らないのかよっ」
ミカの言うことにタクヤは軽くツッコミを入れた。
必要な材料を買い揃えるために、買い出しは全員で行ったのだ。場所は近くのスーパーだ。鰹節はミカが家から持って来たから大丈夫だと言っていた。まさか、鰹節をこんな形で持って来ていたなんて思ってもみなかった。そういえば、待ち合わせの駅で出会った時から、ミカは大きなトートバックを肩にかけていたっけ。マサヤは思い出していた。
ミカのレクチャーを受けて、みんなは生まれて初めてカンナで鰹節を削った。そして、それを出来たてのたこ焼きにかけて食べた。
「美味い。出来たてのたこやひ。あちぃ。熱いけどうめぇー」
先陣を切ったマサヤがふひゃふひゃと悶絶しながら、たこ焼きの味の感想を言った。
「違うでしょー。削りたての鰹節が、美味しいんでしょ? 重たかったけど、持って来て良かったー」
自分のたこ焼きをフーフーしていたミカが、得意顔で言った。タクヤはミカの笑顔を横目に見た。タクヤはミカに惹かれていることに気付いてしまった。三人に自分の心に気づかれないようにするために、タクヤはたこ焼きの上にかけた「踊っている鰹節」だけを箸でつまんで口に入れた。
「これ好きだわ」
タクヤは思わず呟いてしまった。