なろうの世界も楽じゃねぇ‼︎
先生が俺を魔導士にすると宣言してから一週間が経った。俺は今、【先生から全力で逃げています】
「アニス‼︎コラ待てやぁ‼︎」
鬼の形相の先生が俺を追いかけて来る。
ー"殺される"ー
先生はまず基礎の魔力量を増やすことと魔力を扱う感覚を体に叩き込むと言っていた。
一体何をするのかと思っていたら、待っていたのは筋トレと先生の放つ魔術を体で受ける地獄のような特訓だった。
およそ11歳前後であろう俺の器としての体は悲鳴をあげていた。
(何が魔術だ!)
ただの筋トレじゃねぇか。
体の成長が魔力量と比例するだとか、肌で魔力を感じて感覚を覚えるとか理屈っぽい事を並べてるが要するに力技じゃねぇか。
"誰か助けてくれぇえ‼︎"
だが毎日先生から逃げ回っていたせいか体つきは次第によくなっていった気がする。
何なら魔力量も増え、それを肌感でわかるようになった。
先生は感覚派のようで、こういう教え方しかできないのだろう。
聞けば弟子をとるのは人生で二度目らしい。兄弟子に当たる人もさぞかし苦労されたのであろう。
次に先生は簡単な基礎魔法の詠唱を教えてくれた。
風を起こす魔法だ。
『空を切るは天よりの恩恵、恵みを運ぶ者よその力を示せ』
目の前に旋風が出来上がった。成功したのだ。
あの地獄のような拷も、、、、修行を乗り越え、ついに俺は異世界に来て初めて魔法を発動したのである。
「ついにやったな」先生が初めて褒めてくれた。俺はそれが嬉しくて動揺してしまい、先生にいじられてしまった。
32歳として少し恥ずかしい。
この風魔法の他に、火、土、水の基礎魔法も教えてもらった。
この世界では例に漏れず魔法は格付けがされていて
基礎魔術、中礎魔術、上礎魔術、国礎魔術、天礎魔術
といった具合に分かれている。
基礎魔術レベルの魔導士だけではせいぜいゴブリンと互角程度らしい。世知辛いものだ。
逆に国礎魔導士レベルになると1人で国を起こすことができ、天礎魔導士は天に抗えるとされている。
もはや人類と呼べるのかも怪しい。
そして俺が基礎魔術を習得すると同時に始まったのが実践形式の体捌き練習だった。
魔導士と言えどある程度は体を動かせないともしもの時にあっという間に肉片になってしまうからだそうだ。
これもまぁきつい。先生の基礎魔術を避けたり防ぎながら先生へ魔術を放つ、それを15分ごとに休憩を挟みながら計五本行うのだ。
先生の放つ基礎魔術は本当に基礎魔術か疑うほどの威力をしていてくらえば俺なんてひとたまりもないだろう。
そんな生活をすること約1年、約12歳となった俺は中礎魔術をいくつか習得するまでに至った。
先生が言うにはこのレベルになると中礎魔物上位クラス以上にでも出くわさない限り死にはしないらしい。
そんな折、俺たちの泊まっている宿に先生当てに文が届いた。どうやらコーネリア王都、エメストスに呼ばれたそうだ。
王都にまで知り合いがいると言うことは先生って実はすごい人だったりするのか。
今の印象だと魔導士なのに脳筋といったところだが。
こうして俺と先生は王都エメストスへと旅立つことになった。