ダメ作家
「君さぁ、前回僕なんて言ったか覚えてる」
俺より一回り近く若いであろう彼が俺の原稿を読み終えて最初に放った言葉はそれだけだった。
「32歳でしょ、もうちょっと厚みのある話描いてくれないと、前言ったこと何一つ直せてないし」
「ベタ過ぎる。今の時代転生系なんて飽和状態なんだからこんな物出されても全く響かないよ」
そこからはあまり記憶がない。
自分の書いた稚拙なラノベ小説のダメな部分をひたすら言われたことは理解できたが、細かいことは思い出せない。
とにかく無心で帰路に着いた。
請求書であふれたポストを横目にエレベーターに乗り込んでやっと我に帰れた気がする。
思えば2ヶ月前に仕事をクビになってからずっと朦朧としていた。藁にもすがる思いで今まで仕事をしながら続けてきた作家活動にかけたが結果は惨敗。
俺は思った。「そうだ死のう」楽になれるし何より作家としても社会人としても詰んだ俺に希望など見出せない。
ドアノブにロープをかけ薄れゆく意識の中で俺は思った。
「もういいんだ。全部ダメだったんだ」
目の前が真っ暗になった。
……………………………
騒ぎ声で目を覚ました。
どうやら俺は死にぞこなったようだ。
(死ぬことすらできないのかよ…)
再び絶望感に襲われていると鼻をツンとつく物が焼ける匂いがしてきた。
咄嗟に声が出た『火事か!?』
慌てて周りを見渡す。
さっきまで死のうとしてたのに人間の生存本能とは凄い物だ。
しかし目に飛び込んできたのは【見知らぬ天井】
(どこだここは…)
見慣れない石作りの部屋の窓から真っ赤な明かりが見える。
ーやはり火事か‼︎ー
逃げようと起き上がった瞬間、天井が崩れてきた。
咄嗟に身構えようとした俺の体を何かがさらった。
「大丈夫か坊主…」
目をやるとそこには眼帯をした耳の長い男が立っていた。
(何だこの西洋ファンタジーみたいな男は!コスプレイヤーか⁈)
「こんな子どもをおいて逃げるなんて何て悪辣な親だ」
子供だと?俺は32歳、どうみても若いコスプレイヤーなどに子供などと言われたくはない。
「あのね君…」と言いかけた俺は指さす自身の手をみて驚いた。酷く細いのだ…まるで子供のように。
ここで初めて気づいた。
"(こここ、これはまさか夢にまでみた転生⁈)