3話 瑠璃雛菊
僕はあの廃ビルの屋上に立っている。
僕の後ろには千日さん。
彼女は笑顔で僕の背中を押して…
ジリリリリ…ジリリリリ…
「ふぁぁ」
目覚まし時計に起こされて、僕は欠伸をしながら起き上がる。カーテンを開けると昨日の午後が嘘のように晴れている。
「いってきます。」
玄関で、誰にも向けていない言葉を放ち家を出る。昨日にあんなことがあったとは思えないほど、気持ちのいい朝だ。もうすぐ梅雨に入るというのに、今日の気温は春の陽気で過ごしやすそうだ。
「おはよ~」
僕は仲のいい面子に挨拶しながら教室に入る。どうやら今話題のスマホゲームについて話しているらしい。
「それって今流行ってるやつだよね~。どんなゲームなん?」
知らないし興味はないが、それっぽく話に入っていく。
五分ほど会話していると、ふいに後ろから肩を叩かれる。
「おはよう。蓮くん。」
振り返ると、千日さんがいた。
「おはよう。千日さん。」
とりあえず挨拶を返しておく。
「蓮くんって今日の昼休み時間あるかな?」
面倒な事を聞いてくる。だけど、特に予定がないのは、近くにいる友達にも知られているし断れない。
「特に予定はないから、時間はあるよ。」
そう答えておく。
「それじゃあ、昼休みに話したい事があるから、昼休みになったら一緒に来てもらってもいいかな?」
「わかったよ。」
笑顔がひきつらなかった自分を、誰か褒めて欲しいまである。
もちろん、男友達には面倒な絡まれ方をした。
昼休みになった。男友達はニヤニヤこっちを見ている。千日さんと仲の良い女の子達にも注目されている。
「蓮くん。じゃあ、付いて来てもらってもいいかな?」
「わかった。」
彼女に連れられて体育館の裏にきた。なんてベタな。僕も彼女も、近くに人がいないか念入りにチェックする。
人影は見当たらなかったので僕が口を開く。
「昨日の死体は結局どうしたの?」
最もな疑問だろう。いくら町外れとはいっても、白昼堂々死体が転がっていたらさすがに騒ぎになる。
「あそこの近くの山の中に捨てたよ。」
「そうなんだ。」
「それで大丈夫なのか?」とか「見つかるんじゃないか?」とか思う事はあるが口には出さない。どうせ彼女が捕まるだけだ。自分にもとばっちりが飛んでくるかもしれないが、それぐらい構わない。
「それで、僕を呼び出した要件はなに?」
僕が先に話してしまったせいで話せていない、彼女の要件を聞いておく。
「昨日も話したけど蓮くんって私の同類だよね。」
「一応否定しておくけど意味はないよね?」
「そうだね。私の中で確定しちゃってるから。」
他人から永遠に愛されたいとか言うだけあって、彼女はやはり自己中心的な性格をしている。
「それでなんだけど、蓮くん、私と同盟者にならない?」
脳味噌が一瞬フリーズする。とりあえず考えられるうちでそれっぽい事を訪ねよう。
「男手が欲しいってこと?五階まで階段で気絶してる男の人運ぶの大変だから。」
「それもあるけど、そうじゃないかな。」
どういう事だ?彼女が何を言っているかさっぱり分からない。
「言い方が悪かったね。蓮くんが考えてるのは共犯者じゃない?私のは同盟者。私の事情を手伝ってくれる代わりに、私も蓮くんのしたい事を手伝うの。」
言いたい事は概ね理解した。
「ごめんだけど、生憎僕に望んでいる事なんてないんだ。だから同盟者にはなれない。」
実際に、僕に望みなんてほとんどない。
「それは嘘だね。」
彼女はすぐに、断定した言葉を返してきた。
「蓮くんは私と同類だから絶対一つはあるはず、法を踏みにじっても手にしたい自分勝手な願いが。」
心が鷲掴みにされたようだった。動悸が激しくなっている。彼女はどこまで僕のことを理解しているんだ?
「君は僕の何を知っているんだ?」
問い詰めるように訪ねる。
「ただ、私と同じように望みがあるって事だけだよ。内容まではわからない。でも蓮くんだって、私の事を理解できているでしょう?屋上の事だって、理解して共感したから通報しなかった。違う?」
「そうだ。」
実際その通りだった。確かに僕は彼女の同類なのだろう。
しかし、冷静に考えれば僕にも悪くない話だ。ただ人殺しを手伝うだけで、僕の望みが叶えられる可能性が高まるのだから。
「わかった。その話受けるよ。」
「ありがとう。これからよろしく、同盟者!」
「あぁ、よろしく。」
僕は彼女の同盟者になった。