第6話:ソフトクリーム・ロワイヤル!
キーンコーンカーンコーン…。
「きりーつ。礼!」
1日の終わりを告げるチャイムが鳴った。日直が号令をかけると一気に教室が騒がしくなり、放課後独特の雰囲気で満たされる。
「はー終わった終わった。帰るぞーサラ~。」
「あーい!」
居眠りをしている男子生徒の顔に落書きをしていたサラマンダーが戻ってくる。
額に『酒池肉林!』と書かれた生徒は実に気持ち良さそうに眠っている。可哀想だが俺にはどうする事もできん。油性だからな。
契約の影響で離れて行動できない俺たちは、もちろん授業中だろうが一緒にいなきゃならないわけだ。必然的に暇を持て余したサラマンダーの餌食になる生徒が後を絶たない。
「仕方ねぇよな。股間の痒みには代えられねぇ。」
「ん?秋クン何か言った?」
「いや。なんでもねーよ。」
まぁ、目の届く範囲にいてくれるのは安心だ。コイツはほっておくと学校を爆破しかねんからな。
部活に所属していない俺は、授業が終われば即帰宅する。今日もそのつもりでいたのだが。
「ねぇねぇ秋クン!寄り道寄り道ー!」
精霊さんがワガママを言い出したんで寄り道確定です。
「寄り道って…どこ行くんだよ?」
外靴に履き替えながら聞いてみる。まぁどーせ思いつきで言ってみただけなんだろうがな。
「ソフトクリーム食べたい!」
お前が食べたらコーンまでとろけそうだ。
「ソフトクリームね。まぁ暑いしな。了解。」
「わーい!」
確か駅前に美味いアイス屋が出来たって聞いた事がある。そこに行ってみるか。
――――――――――
「んふふ。楽しみ楽しみ~!ソフトクリーム~♪」
「はっ。ホントに嬉しそうだな。」
学校を出て駅前通りを歩いていく。その間コイツはずっとこんな感じでニコニコだ。
「初ソフトクリームなんだよー♪」
「精霊界にはないのか?」
「うん!ミルコクロコップならあるけど。」
なんだその強そうなスイーツは。
「ソフトクリームを制覇したら次はハードクリームを攻略するんだぁ♪」
おーそりゃ硬くてうまそうだな。バカか。
隣でソフトクリームを連呼してるアホ精霊を無視し前方に視線を移す。
交差点の近くに可愛らしいピンクの建物が見えてきた。多分あれだな。
「おー!」
「こりゃまた…えらくファンシーな建物だな。」
そこには童話に出てきそうなピンク一色の建物が建っていた。看板にはポップな字で『ソフトクリーム山崎』と書かれている。
どこの芸人だよ。
とりあえず店内に入る。やはり人気のお店らしくそれなりに客入りは良い。
外観と同様に、店内もピンク一色だ。メニューを見るとソフトクリーム以外にも様々なスイーツが並んでいる。
意外に広い店内には丸テーブルとイスがいくつか設置されており、テイクアウトの他にこの場でも食べられるシステムのようだ。
「秋クン秋クン!色々あるよっ!迷っちゃう!」
目をキラキラと輝かせながらウィンドウを覗き込むサラマンダー。
しかし種類が半端ないな。サーティ○ンもビックリだ。
定番のチョコやストロベリーはもちろん、『ちょっと大人なカプチーノ味』なんてのもある。
「秋クン!アタシこの『クールミントZZ』がいい!」
クールミント…ZZ<ダブルゼータ>。
なんか強そうだ。
「秋クンはこの『初恋の味』ね!」
甘酸っぱいのか?そうなのか?
サラマンダーの姿は見えないので、俺が二人分注文する。
「せっかくだからテーブルで食うか。」
「あいっ!」
ソフトクリームを受け取った俺たちは、店内に取り付けてあるテーブルで食べる事にした。
「えへへ。おいしー!」
サラマンダーは『クールミントZZ』を実にうまそうに舐めている。ちなみに俺の『初恋の味』は…なんていうか…初恋の味だった。食べる度に胸が締め付けられる。そんな味だ。
「秋クン。なんか顔が切ないよ?」
「初恋だからな。」
ソフトクリームを食べ終え、サラマンダーの馬鹿話を聞き流しながらふと店内を見てみる。
やっぱ若者が圧倒的に多いな。時間帯的に学生ばかりだ。端から見れば俺は男1人で初恋味なソフトクリームを食ってるように見えるんだろうな。かなり淋しい光景だぞ。
「マジかよー!ギャハハハハ!」
自分の置かれた状況に軽くへこんでいると、隣のテーブルからバカデカい笑い声が聞こえてきた。
自然とそちらに視線を向けると、6人組の若者が周囲の迷惑お構い無しに騒いでいる。
パッと見20歳位の男女が3人ずつ。アイスを舐めながら笑ってる。男の方はかなりチャラチャラしてる風貌だ。あれ、なんて言うんだっけ?…ああ。ギャル男だ。うるせぇなぁ。
ふとギャル男の1人と目が合う。そいつは俺を舐めまわすように見ると馬鹿にしたように笑い、バカ騒ぎに戻っていった。
「…でね。ここからが面白いんだよー!って秋クン聞いてる?もしもーし!」
「あ?あぁ。わりぃわりぃ。」
「もー!レディの話はちゃんと聞かないと失格だよ?紳士として。」
誰が紳士だ。その前に誰がレディだ。
しかし冷たいものを食べたせいか急に尿意が。
「悪い。ちょっとトイレ行ってくるわ。」
「ぶーぶー!秋クンKYー!」
ぶーぶーうるさいサラマンダーを置いて、トイレに向かう。
以前行った実験(第3話参照)により半径30メートル以内であれば離れても大丈夫だと言うことが分かった。そんなわけだからトイレくらいなら股間が痒くならずに行動できるんだ。
トイレに入り用をたす。しかし店内だけでなくトイレまでピンク一色とは、すごい徹底ぶりだな。便器まで桃色だ。
手を洗いトイレから出ようとしたその時、勢いよくドアが開く。見ると先ほどのギャル男3人衆がトイレに入ってきた。
「…でよー!タカシのヤツが…って、お!」
「…。」
ギャル男と目が合う。
ニヤニヤとイヤな笑みを浮かべ仲間と何やら喋りだした。
「ねーねーお兄さん。俺たちチョーット財布が淋しいんだよねー。」
今時カツアゲかよ。あ、出口塞がれてる。
「はぁ。」
「はぁ。じゃないでしょ~?カンパしてくんない?カ・ン・パ。」
ギャル男の1人が両手を合わせてお願いポーズをしている。あとの2人はニヤニヤと笑いながら俺を囲むように移動し出した。
「えーと。スンマセン。俺、金ないんで。」
無論ウソだが。カツアゲされて素直に金を出すほど親切な人間じゃないんでね。
そんな俺の態度が勘に触ったのか、さっき目が合ったギャル男が語気を強めながら叫ぶ。
「いいから黙って金出しゃいーんだよ!」
コイツ。俺が1人だと思って狙ってやがったな。
「コイツ。目がムカつくわ。」
そう言いながら俺の胸ぐらを掴むギャル男。どうやら力ずくで金を巻き上げる気らしい。
「素直に出さなかったオメェが悪いんだぜ?」
ギャル男が腕を振り上げる。それと同時に残りの2人が俺を両脇から押さえつける。
ああ。殴られる。そう思った瞬間、ギャル男の拳が顔面に打たれる。
鈍い音と共に鼻先が熱くなる。痛い。
「…がっ。」
自慢の一発が入り、満足気なギャル男は、俺を見下しながら下卑た笑い声を上げている。
「ギャハハハハ!だっせぇ!ばーか!」
俺を押さえつけてる2人も同じような笑みを浮かべている。
「…だぞ。」
「あ?何か言ったか?」
「正当防衛だぞ。」
瞬間。ギャル男の身体がドアに叩きつけられる。
「ぐげっ!」
突然の事に残りの2人は呆然としていた。
「あーあ。人がせっかく穏便に済まそうと我慢してりゃいい気になりやがって。」
ドアにもたれかかるギャル男を見据えながら指の関節をほぐす。
さすがに一発もらっちゃうと頭に来るね。
「て、テメェ!」
「よくもヨシオを!」
ようやく現状を把握した両脇の2人が同時にかかってくる。
俺はそんな2人の振り上げられた腕を両手で掴み、動きを止める。
ケンカ慣れしてないヤツは大振りになりやすい。意外と動きを読めちゃうんだなコレが。
「お客様に申し上げます。」
スゥ。と深く息を吸い込み、吐くと同時に動き出す。
「店内でのバカ騒ぎはぁぁあ!」
腕を掴んだまま右側のギャル男に蹴りを入れる。脇腹に入ったようで、苦しそうなうめき声を上げ崩れ落ちた。
「他のお客様の迷惑になりますのでぇぇえ!」
振り向き様にもう1人のギャル男に肘鉄をお見舞いする。綺麗にこめかみに入り上体が吹き飛ぶ。
「ご遠慮下さぁぁぁい!」
最後に床に崩れ落ちた3人をこれでもかという位蹴り倒していく。
「ギャッ!」
「ぐぇっ!」
「がはっ!」
俺を殴ったギャル男の髪を掴み、無理矢理顔を上げる。
ギャル男はガタガタと震えながら必死に謝罪の言葉を繰り返していた。
「スンマセン!スンマセン!」
そんなギャル男に、俺は最高の笑顔で優しく告げた。
「正当防衛だからね。学校にチクったりしたらヤダよ?」
――――――――――
「あー!秋クン遅ーい!おっきい方でしょー!」
レディがそんな事言うんじゃねぇよ。
「おー。わりぃわりぃ。」
「ぶーぶー!罰としてソフトクリームもう1個食わせろー!」
ふざけんな。
「…。まぁいっか。1個だけだぞ。」
「わーい!」
てててーとウィンドウへ走っていくサラマンダー。
隣のテーブルでは女の子達がギャル男の帰りを待っている。多分あと10分は動けねぇよ。
「おーい秋クーン!」
向こうからサラマンダーが手を振りながら俺を呼んでいる。
「決まったか?」
「うん!この『儚き青春の混沌』がいい!」
うん。今日も平和だ!
今回、過去最大文字数になりました。
いやー!文章を書くって難しい!全然まとめられません!その割りに内容が薄い!笑
とゆーわけで『秋クン実はめっさ強いやんの巻』でした。