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第4話:居候でヨーソロー!

 ジリリリリリッ!


 ジリリリリリッ!


「……ん。」


 微睡みの中、布団から出した右手で目覚まし時計を止める。


「…もう朝か。なんだろ?あんまり寝た気がしねぇな。」


 遅くない時間に布団に入った割に疲れが残ってる。あまり目覚めの良くない起床だ。


「ふぁ~あ。あぁ、今日は学校休みだったな。」


 二度寝したい欲望に打ち勝ち、布団からモゾモゾと出る。


「…。」


 モゾモゾと出るはずだった。


「何をしている。」


 俺は今動けない。なぜなら俺の体を抱き枕が如くガッチリホールドしてる馬鹿がいるからだ。


「ムニャムニャ。」


 目覚めの悪さの根源は実に気持ち良さそうに眠っている。

 そうだ。コイツの存在をすっかり忘れていた。火精霊サラマンダー。コイツは昨日からウチの居候になったんだ。


「ムニャ…やっぱりヤマザキは春のパン祭りだよねぇ。」


 他に何祭りがあるんだ。


「…はぁ。」


 深いため息をつくと共に、徐々に昨日の出来事を思い出していく。


 そもそもコイツは俺の願いを叶えるためにやってきた。だから適当な願い事を言って叶えてもらえばすぐに精霊界とやらに戻ってくれるんだと俺は考えた。

 しかし、その考えはサラマンダーの一言に一蹴されてしまう。


「精霊が叶える願い事は契約者が魂の根底から願うものに限る。」


 『超!精霊契約書』と書かれた紙を突きつけながらサラマンダーが言った。


 なんだよ。『超!』って。


 魂の根底からの願い事なんて俺には分からない。しかしそれではサラマンダーも精霊界に帰れない。


「アタシは別に精霊界に帰れなくても全ッ然オッケー!だから居候ヨロシク♪」


 親指を立てながら満面の笑みを輝かせるサラマンダー。


「ふざけんなコラ。お前は物置にでも押し込んでおく。」


 あまりに眩しい笑顔に軽く殺意を覚えた俺は、8割くらい本気でこのバカ精霊を物置小屋に押し込もうとサラマンダーを担ぎ上げた。


「のぉぉぉぉお!セクハラはんたーい!セクハラはんたーい!みなさーん!この人チカンでーす!」


 うるせぇよ。ギャーギャーわめくサラマンダーを無視して物置に向かい歩いていく。サラマンダーは半ベソだ。


「うぅ…ヒック!セクハラは…」


 ん?なんか空気が震えたような。


 俺が周囲の異変を感じた瞬間だった。


 『ズッドォォォオオン!!』


 恐ろしい程の火柱が上がる。その中心にはもちろん俺。


「ギャァァァァア!あっちぃぃぃい!」


 瞬時に丸焦げになった俺に対し、解放されたサラマンダーが一言。


「レディの体を軽々しく触っちゃいけませんっ!」


「何の躊躇もなく人を丸焼きにするのがレディなのか?」


「罰として居候決定ね!」


 …と、ある意味力づくで居候する権利を手に入れたのだった。

 まぁ渋々承諾した俺も俺だが。さすがに丸焼きにされるのはもう嫌だもんね。ぐすん。


 で。今に至るんだが。

 何コイツ?せっかくサラマンダー用に空き部屋を用意したのに。意味なし。


「てゆーか動けん。」


 その小さな体のどこからこんなパワーが生まれるんだ。自由に動かせるのは頭と右手だけだぞ。


「おい。起きろー。」


「なんだい父さん…むにゃ。」


 …。


「『おい。キタロー!』じゃねぇぇぇぇえ!」


「ひっ!何なに?」


 ビクッと体を跳ねながらキョロキョロと周囲を見渡すサラマンダー。

 この隙を逃さず一気に布団から抜け出した俺は、なんかもうすっごい疲労感に泣きそうです。


「あ!秋クンおはよー!」


 元気に両手を挙げるゲゲゲの精霊は無視して居間に出てテレビをつける。朝のニュース番組しかやってないか。

 食パンをトースターにセットし、コーヒーを作る。朝はパン派な俺だ。


 ガシャンッ


 焼き上がったトーストにマーガリンを塗っていると、サラマンダーが目をこすりながら起きてきた。


「うにゅー。あの枕は安眠できないね。きっと安物だよぉ。」


 てめぇが使った枕は俺だ。ぶん殴るぞ。


「おっ!今朝はトースト&コーヒーかいっ?兄ちゃんも粋だねぇ!」


 よくわからんテンションの上げ方すんな。

 仕方がないからアホ精霊の分も用意する。コーヒーは砂糖とミルクを多めにしてやる。

ちなみに俺はブラックだ。


「はむっ!ひはひにゅーふしはやっへはいへ?」


 ハムスターさながらにパンを詰め込んだサラマンダーが何か言ってます。


「ああ、そうだな。」


 とりあえず適当に返しとく。

 パンにかじりつき、コーヒーを一口啜る。あぁ、やっぱり朝はパンとコーヒーだな。実に落ち着く。


「あー!秋クン見て見て!このキャスター絶対ズラだよ!100パー!」


 サラマンダーが指差す先にはニュースを読み上げるオッサン。確かにズラっぽいが…。


「飛ぶかな?ズラ飛ぶかな?」


 飛ぶかボケ。


 ズラっぽいキャスターはいつものようにどこかの県の交通事故や政治のニュースを読み上げている。


『…この事故により、男性2名が重症となっています。次のニュースです。昨日未明、○○町の街中から巨大な火柱が目撃されました。インターネット上では宇宙人説や国家間テロ説など様々な噂が飛び交い…』


「ぶっ!」


「あはははは!何言ってんのこのズラ!宇宙人なんているわけないじゃん!」


 精霊も対して変わらんと思うが。

 それよりニュースになるほど目撃者がいたのか。確かにアレだけ派手に爆発すれば立派な事件だよな。

 隣で爆笑する爆弾娘を見ながら、精霊の恐ろしさを認識する。


「あ、ニュース終わるみたいだよ!秋クン。」


 ズラ飛ばなかったねーと残念がる赤毛馬鹿は無視し、視線をテレビに戻す。画面ではキャスターが番組終了の挨拶をするところだ。


『それでは今日のニュースを終わります。皆さん、また明日お会いしましょう。』


 キャスターが律儀にお辞儀をしたその時。オッサンの足元に黒い物体がポトリと落ちる。


…。


「ぶはっ!」

「ぶはっ!」


 ズラ飛んだーー!!



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