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第31話:オール・キラーズ!~承の承~

「いたぞーっ!こっちだーっ!」


 けたたましい警告音と共に、黒服の集団が屋敷内を走り回る。手には日本人が容易に手に入れる事ができるとは思えない代物を握っている。


「生きて帰すなーっ!」


 物騒な言葉を放ちながら、黒光りするソレを侵入者へと向け、発砲する。


「いやいやいやいや!シャレになんねーよ!」


「流石は天下の小早川家。侵入者に対しては容赦ないですね」


「関心してる場合じゃないですわよ!いくら私でも銃には敵いませんわっ!」


 黒服に追われ、屋敷内を逃げている俺たち。こうなったのもどっかのバカがド派手にやらかしてくれたせいだ。

 俺とウンディーネ、さらに霧緒までもが全ての元凶に冷めた視線を送る。


「うぅ…。なによー。そろそろ許そ?ね?じゃないと泣いちゃうよ?サラマンダーが泣いたらスゴいよ?革命だよ?…あーあーそうですよ!全部アタシが悪いんですよ!だから何?文句あんの?」


 まさかの逆ギレ!?


「と、とりあえず黒服をどうにかしないと駄目ですね」


 完全に開き直った赤毛馬鹿を無視し、霧緒が唸る。


「魔法を使おうにもこうバンバン撃たれては集中できませんわ」


 続いてウンディーネも顔をしかめる。


「皆。もう少しだけ我慢してくれ」


「何か考えがありますの?」


 俺の言葉に反応するウンディーネ。


「さっき秘密兵器その2に連絡を取った。運良く近場にいたらしく、すぐに向かうそうだ」


「秘密兵器その2?ウンディーネの他にも誰かいるの?秋クン」


「ああ。とびっきりのヤツがな」


 その時、先程まで絶え間無く放たれていた銃声がピタリと止んだ。代わりに聞こえるのは「ギャッ」だの「ぐふっ」だのといった苦悶の声。


「来たか」


「えっ!何なに?何が起こってんのっ!?」


「あ、あれはっ!」


 後ろを振り返り、秘密兵器の正体を知った霧緒が驚きの声を上げる。


「だーっはっはっは!やっぱ俺様最強!俺様を倒したきゃRPGでも用意するんだな!だーっはっはっは!」


 そこには高笑いする金髪坊主。『最終兵器』野海冬至が立っていた。


「…誰ですの?あの漫画みたいな格好の方は」


 そういやウンディーネは初対面か。つーかアイツ、また格闘王みたいな格好で来やがった。


「秘密兵器その2ってトージだったんだ」


「ああ。これ以上ない助っ人だろ?」


 次々と黒服を地に沈めていく冬至を眺めながら嬉しそうに笑うサラマンダー。なんだかんだでコイツら仲良いんだよな。


「あれは冬至殿?この町に帰ってきていたのですね」


 霧緒は冬至と面識あるからな。アイツの強さは知っている。


「おーい!冬至!後は任せるぞーっ!」


 1人で数十人の黒服を相手にする冬至に声をかける。とにかく今は急いでハルの元へ向かいたい。


「だっはっは!おうよ!任せときなーっ!秋は安心してハルを助けに行ってこい!」


 黒服に裏拳を叩き込みながらニカッと笑う冬至。大好きな喧嘩が出来て実に嬉しそうだ。


「というわけで先を急ぐぞ」


「あの方だけで大丈夫ですの?」


 心配そうに呟くウンディーネ。そこに霧緒が口を開いた。


「大丈夫ですよ。冬至殿は自分が今まで会った中で最強の人物です。立花殿の言う通り、先を急ぎましょう」


「なんたってアタシの魔法を弾き飛ばしちゃうヤツだもんね!気にせずれっつごー!」


 サラマンダーが拳を挙げる。コイツは一度冬至に痛い目あわされてるからな。実力をよく分かってるんだろう。


「よし!それじゃあ囚われのお姫様を助けに行きますか」


「「「おーっ!」」」


 気合いを入れ直し、屋敷の最奥。「お仕置きの間」へと駆け出した俺たち。


「行ったか。頼むぜ…秋。昔みてぇにハルを救ってくれよ。こっから先には俺様がネズミ一匹通さねぇからよ!」



――――――――――



「…ここか」


 目の前の扉を見上げる俺たち。


『お仕置きの間』


 扉の上部にそう書かれている。どうやら間違いないようだな。


「いよいよですわね」


「何かドキドキしてきちゃった」


 精霊二人組が緊張した面持ちで呟く。


「…」


 その隣には更に緊張し、眉間にシワを寄せている霧緒が立っている。ここに来て急に口を開かなくなったな。


「大丈夫か?霧緒」


「…」


「霧緒?」


「え…。あ!はい。大丈夫です。後は姫を連れ出して脱出するだけですね」


 本当に大丈夫かよ。「ハルを連れ出して脱出するだけ」と言うが、実はそれが今回のミッションの最難関だということは霧緒も分かっているはずだ。


「霧緒」


「な、何です?」


 ビクリと体を震わせ、明らかに動揺している様子でこちらを向く霧緒。


「分かってるよな?俺たちが迎えに来たからといって、ハルが素直に部屋を出るとは思えないって事を」


「ぇ…」


 消え入りそうな声を洩らす霧緒。

 やっぱりな。ここに来て恐れていた事態が起こりつつある。霧緒のヤツ、ハルに拒まれるのを恐れてやがる。


「どゆこと?秋クン。アタシたちが迎えに来たんだからハルちゃんも大喜びでしょ?」


 何の疑いもなくそう言い放つサラマンダー。もし本当にそうだったらどんなに楽な事か。まだ若いコイツには分からないだろうな。


「何かあるのですわね?ハル様には」


 ウンディーネは何となく察しているようだ。


「ああ。十中八九、このままだとハルは部屋から出ようとしない」


 これは俺の憶測に過ぎないが、恐らくハルは自分の意思で監禁されている。霧緒も言っていたが、ハルには小早川家に対して後ろめたさがある。他の家族は皆小早川と言う鎖に縛られ、小早川の為に生きているのに対し、自分だけが自由奔放な生活をしているという後ろめたさが。

 そうでなければハルの親父の使いが迎えに来た時に抵抗の1つもした筈だ。ハルが本気になれば会長の使いを振り切る事くらい簡単だった筈。それをしなかったと言う事は、それはつまりハルは自分の意思で小早川家に戻ったということだ。

 その「小早川に対する後ろめたさ」がある限り、ハルは屋敷から出ようとはしないだろう。


「じゃ、じゃあハルちゃんは自分が監禁されるのは当然って思ってるの?」


「多分な」


 家に対する後ろめたさと、ハル本来の奔放気質が激しいジレンマを起こし、自分ではどうにもできない状況になっているかもしれない。普段は強がって明るく振る舞っているが、本来は精神的にあまり強くない人間だ。


「ではどうなさいますの?」


「今、ハルに必要なのは逃げ道だ。追い詰められたハルを救い出す手が必要なんだ」


「…」


「そしてその手を差しのべるのは俺じゃない。お前なんだよ。霧緒」


「自分…が…」


 ハッとした表情でこちらに顔を向ける霧緒。


「拒まれる事を怖れるな。お前が怖がってちゃあハルも差しのべられた手を掴めない」


「しかし…自分は…」


 再び俯く霧緒。全く、コイツは自分を過小評価し過ぎなんだよ。


「ハルちゃんね…」


 ふいにサラマンダーが口を開く。


「ハルちゃん。口ではアッキーアッキーって言ってるけど、ハルちゃんの目は秋クンとは違う所をいつも見てるんだよ?多分ハルちゃん自身も気付かない位自然に」


「サラ…貴女…」


「分かるもん。アタシだって女の子。精霊だから尚更、心の動きには敏感なの」


「サラマンダー殿…。…しかし姫は立花殿を…」


「まだわかんねぇのかっ!」


「ッ!!」


 いい加減コイツのウジウジにもイラついてきたぜ。


「家を飛び出したハルが真っ先に向かったのは誰の所だ!?ハルが一番素のままでいられるのは誰と一緒の時だよ?少なくとも俺じゃねぇぞ!後は霧緒。お前が考え、お前が答えを出すんだよ!」


「立花殿…」


 俺の喝が効いたのかは分からないが、霧緒の目に光が蘇ってきた。これならイケる。


「自分は…姫に笑っていて欲しい!自分が傍にいる事で姫が笑顔でいられるというならば!自分は死ぬまで姫と共に生きましょう!」


「隊長…」


「霧緒様…」


「はっ。ようやく答えを出しやがったな。遅いんだよ」


「す、すみませんでした」


 でもこれで、ようやく全ての準備が整った。

 小早川ハル救出作戦。最後の秘密兵器は、小早川ハル特攻隊隊長。水無月霧緒。


「それじゃあ、行こうか」


「アイアイサー!」


「準備万端ですわ」


「…承知!」


 VS小早川家。

『最終兵器』野海冬至:乱入(VS黒服)


『小早川ハル特攻隊隊長』水無月霧緒:決意


 いざ、最終局面へ。



 まさかの冬至クン乱入にご注意下さい。

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