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第23話:伝説の始まりっ!

「ちゃーす」


 日曜日の午後。いつものようにまったりと過ごしていると、突然三河屋…もとい精霊界の宅配業者『男性天国』のオッサンが現れた。相変わらずちっこいな。


「精霊界最長老様よりお届けものでーす!」


 そう言って小包を出すオッサン。

 精霊界最長老?


「ジジイからだっ!」


「ジジイ?」


「うんっ!アタシたち精霊の師匠みたいなものよっ!」


 ああ。ウンディーネがたまに言ってる『お爺様』ってのはその人の事か。


「確かにお届けしましたよ。それでは失礼しゃーす!」


 ペコリと一礼し、オッサンは光のゲートへと消えていった。


「とりあえず開けてみたらいいんじゃないか?」


「うんっ!」


 ビリビリと包装を破いていくサラマンダー。すると中から黒い箱のようなものが現れた。


「なんだろこれ?」


「箱だな」


 真っ黒な正方形のそれは、開ける所が見当たらない点を除けば単なる箱以外の何物でもない。


「ジジイも意味分かんないもの送るなっての」


「ん?でも何かメモ書きがあるぞ」


 箱の側面に小さな紙が張り付けてある。

 どれどれ?


『修行を放棄した馬鹿者へ試練を与える。この魔導疑似世界体験装置で修練を積むのじゃ』


「…魔導疑似世界体験装置?」


 名前なげぇよ。


「めんどいからパス」


 あっさり放棄されてますよ最長老ーっ。


『なお、この修練は強制である。監視役を付けたので放棄は不可能じゃざまぁみろ』


 子供相手に大人気ないぞジイさん。


「監視役?」


「…ボクの事」


 黄色いアタマが見えたと思った次の瞬間。魔導疑似世界体験装置が妖しく光り、世界がぐにゃりと反転した。



――――――――――


 時は聖国歴1023年。世は魔王率いる魔王軍が支配していた。人々は絶望の中での暮らしを余儀なくされ、生きる希望を失いかけていた。

 しかしそんな絶望の世界を魔王から救うため、1人の青年が立ち上がるのであった!




「はっ!何だ今のプロローグは」


 無駄に王道な世界観だったが…。


「秋クンっ!」


「サラ。これはどういう事なんだ?」


 突然視界が歪んだと思ったら見知らぬ土地に投げ出されるとは。

 ふと辺りを見回してみる。見渡す限りの荒野。

 マジでどこだよ。


「…魔導疑似世界体験装置の中」


 広大な景色に視線を奪われていると、後ろから眠そうな声が聞こえてくる。


「…シルフ。ここがあの箱の中だってのか?」


「…そう」


 コクリと頷くシルフ。もう何でもありだな精霊界。


「あー!シルフっ!アンタでしょあの箱発動させたのっ!」


 シルフに気付いたサラマンダーが騒ぎ出す。対するシルフは相変わらずの無表情だ。



「…おじぃちゃんに、言われたから」


「あんのクソジジイ~っ!」


 うんうん。とりあえず俺たちは最長老の思惑通り、魔導疑似世界体験装置の中に入ったようだな。


「で?どうすれば出られるんだ?」


「…疑似世界の転送キーを入手する」


 転送キー?それがあればここから脱出できるんだな。


「それでその転送キーとやらはどうやって手に入れるんだ?」


「…魔王を倒す」


 やっぱりネー!


「と言うことらしいぞ?サラ」


 いまだにプンプンと文句を言っているサラマンダーに状況を伝える。


「さっさと魔王ぶっ倒すよっ!そんでジジイに『不毛の手紙』送りつけてやるんだからっ!」


 地味に嫌だなソレ。


「決まりだな。魔王を倒して転送キーを手に入れる」


「…ボクも、てつだう」


 小さな声で呟きながらキュッと服の裾を握ってくるシルフ。

 さあて。まずはどうやってこの劣化版ド○クエを進めていくかだな。

 普通のRPGなら、とりあえず近くの町で装備を整えるところだが…。


「魔王のアジトにれっつごー!」


 この人に普通の考えは通用しないようです。



――――――――――


 で。来ちゃったわけなんだが。魔王城。


「勢いに任せて来てみたのはいいんだが、勝てるのか?俺たち」


 プレイ開始10分でラスボスに挑むようなもんだぞ。


「…ちなみに魔導疑似世界体験装置の平均クリア時間、約240時間」


 はい無理ー。開始10分じゃ絶対無理ー。


「ボッコボコにしてやんよ。魔王っ!」


 サラマンダーさんは1人やる気満々です。


「ピキーッ!」


 スライムが現れた!


「うわっ!魔物だっ!」


 秋は驚いている!


「危ないっ!秋クンっ!」


 サラマンダーは魔法を唱えた!

 スライムに102のダメージ!

 スライムを倒した!


「危なかったねっ!秋クンっ!」


「お、おう」


 敵が現れると語りまでもがRPGになるのか。


 テッテレテッテッテー!


 その時、どこからか軽快なメロディが流れてきた。


「…サラ、レベルアップ」


 シルフがポツリと説明する。どうやら今の戦闘でサラマンダーのレベルが上がったようだ。


 サラマンダーのレベルが2になった!

 サラマンダーのかしこさは成長しなかった!

 サラマンダーのスリーサイズは成長しなかった!

 サラマンダーの変態度が99になった!


「…」

「…」

「…」


 辺りを静寂が包む。

 あまりに不憫なレベルアップに、サラマンダーの目がウルウルしている。

 さすがに可哀想だろ。


「ま、まぁ元気だせよ」


「…大丈夫、そのうち成長する」


 そんな慰めの言葉をかけるのが精一杯な俺たちだった。


「ちっくしょーっ!あんのジジイ絶対ぶっ飛ばしてやるっ!」


 サラマンダーの攻撃力が200に上がった!



「…魔導疑似世界体験装置はイメージの世界」


 ふとシルフが呟いた。

 イメージの世界?どういう意味だ?


「…プレイヤーの気持ちや感情、それに比例して能力が開花していく」


「なるほどな」


 先程のサラマンダーを例に挙げてみる。

 最長老への怒りの感情が高まった影響により、攻撃力が増加した。

 つまりこの魔導疑似世界体験装置はメンタルな部分を養う装置なんだな。


「さっさと魔王ぶっ倒してジジイをギャフンと言わせるよっ!」


 シューシューと頭から湯気を出しながら先へと進むサラマンダー。俺とシルフも後をついていく。


「たのもー!」


 道場破りが如く魔王城の門に向かって叫ぶサラマンダー。

 仮にも敵の本拠地だぞ。そこはこっそりと侵入するべきだろ。


「…誰か、くる」


 シルフが見つめる先へと視線を移す。

 魔王城の巨大な門がギギィ…と開き、中から亜人っぽい男が出てきた。


「ここは人間が足を踏み入れて良い場所ではない!早々に立ち去れいっ!」


 亜人が険しい表情で怒鳴り付ける。

 対するサラマンダーはというと。


「何このオッサン。邪魔なんですけど~」


 すっごい挑発してます。

 亜人は今にも襲いかかってきそうな顔つきだ。


「アタシたちは魔王をぶっ倒しにきたのっ!だから門開けて!」


「ここは人間が足を踏み入れて良い場所ではない!早々に立ち去れいっ!」


「そもそもアタシは精霊だからねっ!」


「ここは人間が足を踏み入れて良い場所ではない!早々に立ち去れいっ!」


「だから…」


「ここは人間が足を踏み入れて良い場所ではない!早々に立ち去れいっ!」


「人の話を…」


「ここは人間が足を踏み入れて良い場所ではない!早々に立ち去れいっ!」


「ちょ…」


「ここは人間が足を踏み入れて良い場所ではない!早々に立ち去れいっ!」


「…」


「ここは人間が足を踏み入れて良い場所ではない!早々に立ち去れいっ!」


 プチッ。


 あ。何か切れた音がしたな。


「人の話を聞けって言ってんでしょうがぁぁぁぁぁぁあっ!」


 ズドォォォォオンッ!


 瞬間。火柱が上がり、亜人は跡形もなく消え去ったのであった。


 恐らくあの亜人はRPGではお馴染みの、イベントが進むまで何度話しかけても同じセリフを繰り返すキャラクターだったんだろう。

 本来は何かしらのイベントをこなさないと亜人が門を開けてくれない設定だったんだろうけど。


「全く!非常識なオッサンねっ!」


 常識の欠片もない精霊さんによって強制的にデリートされてしまうとは夢にも思わなかったろうな。


「…先に進む」


「お、おう」


 サラマンダーによってイベントをショートカットした俺たちは、プレイ開始15分で敵の本拠地。魔王城へと足を踏み入れるのだった。



 はい。今回はド○クエです。

 前後編でお送りする予定ですのであしからず。


 そして何とっ!この作品「なちゅ☆らいず」の総閲覧数が1万オーバーしましたっ!


 わーい!ドンドンパフパフ~!


 他の作者様に言わせれば「1万?ハッ!何その雀の涙」って感じなのかも知れません。

 しかし白月にとってはもはや偉業です。ど偉い事態です。もう興奮し過ぎて全裸で町中駆け回っちゃいましたよ。

 嘘です。ごめんなさい。


 今後も皆様に楽しんで頂けるような作品にできるよう努めて参りたいと思います。

 当面の目標は皆様に感想を書きたいと思ってもらえるような作品に仕上げる事ですね。



        白月

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