第19話:超・鬼ごっこ!
「鬼ごっこだよ秋クン!」
ふぁ~あ。朝っぱらから何言ってんだコイツ。
「順を追って説明しろ」
「だから鬼ごっこ!知らないの?」
いや知ってるが。
「ものすっごい楽しいんだって!鬼っていう嫌われ役を皆で押しつけ合う遊びなんだよ!」
友情が瓦解しそうな遊びだな。
しかし何だって急に鬼ごっこなんか。
そーいやコイツ、昨日ハルと電話してたな。なるほど、アイツの入れ知恵か。
「だから鬼ごっこだよ!秋クン!」
「せめて朝飯食ってからにしようぜ」
なんたって現在朝の6時。さすがに起きてすぐ走り回れるエンジンは持ってない。
「うんっ!じゃあマッハで作ってね!」
「はいはい」
のそのそとベッドから起き上がる。手軽にトーストで済ませるか。
「秋クン!アタシ女体盛りってのが食べたい」
こりゃまた無理難題を。
――――――――――
さて、現在朝7時。
とりあえず公園に来たんだが。
「2人でやんのか?鬼ごっこ」
「まっさか~!メンバーは召集済みだよ!」
「メンバー?」
クックックと嫌な笑みを浮かべるサラマンダー。
なんかすっげぇ帰りたくなってきた。
「あっ!来たみたいだよ秋クン!」
公園の入り口を指差しながらサラマンダーが飛び上がる。テンションたけぇよ。
サラマンダーが指差す方を見ると、人影が2つ、こっちに向かって歩いている。
「あれは…」
「ヤッホーなんだよ。アッキー!サラちゃん!」
「全く、急に呼び出されては困りますわよサラ」
案の定ハルとウンディーネだった。
これで4人か。
「これで全員揃ったねっ!」
「4人で鬼ごっこやんのか?」
まぁできないことはないだろうが、つまんねーだろそれ。
「ムッフッフ!このメンバーはあくまで逃亡者役なんだよ」
ハルがニヤリと邪悪な顔で呟く。
「鬼ごっこは確か逃げる役と追う役が必要なのでしたわね」
ウンディーネの言う通りだ。俺たち4人が逃げる役なら鬼は誰なんだ?
「鬼のみなさーん!出番ですよーっ!」
サラマンダーが元気よく声を上げると、どこからか真っ白な集団が現れた。
「何してんだよ。お前」
「姫の幸せは我らの幸せですので」
小早川ハル特攻隊を引き連れた隊長が申し訳なさそうに笑う。
なるほど。特攻隊が鬼ってわけか。
「きっとスリルがあって楽しいんだよ♪」
「確かにスリルはありそうですわね。怖いくらいですわ」
「今回の鬼さんは軽く20人用意してもらったよっ!」
…多いな。
「それじゃ早速始めるよーっ!よーい!」
そう言って片手を挙げるサラマンダー。
ちなみに合図から1分後に鬼がスタートするルールらしい。
「あ、ちなみに鬼に捕まったら罰ゲームとしてハルの言う事何でも聞いてもらうんだよ」
えっ!
「スタートッ!」
「マジかよぉぉぉおッ!」
――――――――――
「はぁっ!はぁっ!」
そろそろ1分経つ。鬼の特攻隊が出る頃だな。
俺たちはとりあえずバラバラに逃げる事で鬼を分散させる作戦を立てた。この鬼ごっこの制限時間、30分を逃げ切れば俺らの勝ちだ。
「しかし20対4て。1人で5人から逃げ切れってのかよ」
かなりしんどいぞ。
ドゴォォォオンッ!
「ッ!?」
どこからか爆発音が上がる。
間違いなくサラマンダーだ。多分特攻隊に見つかったんだろ。
「可哀想に。特攻隊」
あの爆発では行動不能だろう。
ちなみに今日の鬼たちは全員精霊が見える奴等だ。何百人といる特攻隊の中からわざわざ探しだして来たらしい。
「ターゲット発見」
その時、頭上から声が聞こえた。
「ちっ!見つかったかっ!」
「これより捕獲を開始します」
どうやら鬼は1人のようだな。
サラマンダーじゃないが強行突破するか。
走ってる途中で急に振り返り、そのまま鬼に向かって走り出す。
「捕獲する」
鬼もこちらの意図に気付いたようだな。立ち止まり半身に構えている。
「やる気満々だな?」
「…」
間合いに入り拳を繰り出す。相手は受け止めようと手を伸ばしてくる。
この鬼ごっこではこっちが圧倒的に不利だ。なんたって鬼は触るだけでいいんだからな。
「甘ぇよっ!」
当然ケンカだろうと鬼に触られるわけにはいかんからな。パンチをフェイントに右脚を振り上げる。
ズバッ!と綺麗に相手の顎を打ち抜く。もちろん一度も触られてはいない。
「さて、このままラスボスもやっちまおうかね」
そもそもこの鬼ごっこでハルが負けることはあり得ない。特攻隊が鬼なんだからな。
無論俺はただ負ける気はないがな。逆にこっちから打って出る。
「ターゲット発見!」
「これより捕獲に移る」
おっと。また見つかったか。しかも今度は2人。ここは…
「逃げるっ!」
「ターゲット逃走!追え追えーっ!」
ちっ!意外に足速えなコイツら。
どうやって撒こうかと考えていると、路地裏から青い頭が顔を出している。
「こっちですわッ!秋様!」
「ウンディーネっ!」
ウンディーネが手招きする方へと逃げ込む。当然鬼も追いかけてくる。
「任せて下さいですわっ!水魔法『極大逆瀑布』」
瞬間。爆発音と共に特攻隊の足元から間欠泉が吹き出す。噴出の勢いに飲まれ、特攻隊は天高く飛ばされて消えた。
「サンキューな。ウンディーネ」
「ええ。それよりキリが有りませんわね」
そうだ。ウンディーネなら俺に協力してくれるかもな。
「なぁウンディーネ。ハルの野郎に一泡吹かせてやらないか?」
「…何か考えがありますのね?」
――――――――――
「ムッフッフ。状況はどんな感じなんだよ?」
「現在行動可能な隊員は7名。未だに1人も捕まえられていません」
「さすがなんだよ」
「あの立花殿の事です。恐らく制限時間を待たずにこちらに来るでしょう」
「ビンゴなんだよ」
「立花殿…」
何やら話していた2人が俺の方を向いた。
こちらの行動はお見通しってわけか。
「あと10分もすれば制限時間なんだよ。今から逃げてもいいんだよ?」
「はっ。こんな八百長鬼ごっこやってられっかよ」
「ムッフッフ。やっぱり気付いてたんだよ。さすがアッキーなんだよ」
実に愉快そうにハルが笑う。
もう頭の中では罰ゲームを考えてるんだろうな。
「覚悟しろよ?ハル」
「それは鬼を倒してからに言うセリフなんだよ」
ハルが視線で促すと、隊長が一歩前に出てきた。ラスボス登場だな。
はっきり言ってコイツはハルより強い。俺でも勝てるか分からん相手だ。さらに相手は触るだけでいいんだから始末が悪い。
「俺に向かってくるとは大した度胸だな。霧緒」
「…名前で呼ばないで下さい」
「相変わらず自分の名前が嫌いみたいだな」
小早川ハル特攻隊隊長・水無月霧緒は自分の名前を嫌っている。何でも女みたいだという理由らしい。カッコいいのに。
「たとえ立花殿でも、姫に立ち向かうのであれば全力でやりますよ」
「さすがは特攻隊隊長。他の輩とは気迫が違うな」
「茶化さないで下さい」
そう言ってファイティングポーズをとる霧緒。
続いて俺も構える。
「行くぜ」
「押忍」
刹那。互いに踏み出し一気に距離を詰める。
こっちは触られたらアウトだ。攻撃は避けるか上手く捌くしかない。
「シッ!」
霧緒のジャブをスウェイしてかわす。続いて襲い来る蹴りを膝で受ける。
「さすがです」
「やっぱ強えな。このままじゃ負けちまうぜ」
再び霧緒の拳が飛んでくる。掌底で霧緒の手首を弾いて逸らす。
「なんてな」
「ッ!?」
その時、突如地面が輝きだし、霧緒の足元に魔方陣が浮かび上がる。
「これはっ!」
「ナイスタイミングだウンディーネ」
「罠…なんだよ」
魔方陣の光が弾ける。それと同時に霧緒の周囲に水の壁が現れた。壁は四方を囲い、完全に霧緒を閉じ込めている。
「設置型水魔法『四面楚歌』ですわ」
魔方陣からウンディーネが現れる。
よし。作戦通りだ。
「この壁…打撃が弾かれる?」
壁の中から霧緒が呟く。どうやら中で色々と抵抗しているようだが無駄だ。人の力じゃ魔法には敵わんよ。
「オーッホッホ!私の魔法は破れませんわよっ!」
得意気に高笑いを上げるウンディーネ。
さて、ラスボスも封印した事だし、裏ボスを懲らしめるとするか。
「覚悟はいいな?ハル」
「さすがなんだよ。アッキー。まさかキリちゃんを退けるとは」
コイツのせいで休日の朝っぱらから鬼ごっこするハメになったんだ。
どう料理してやろうか。
「くすぐりの刑ですわ」
「いいアイデアだ」
「御免こうむりたいんだよ」
ジリジリとハルを追い詰める俺とウンディーネ。
制限時間は残り3分。さっさと制裁下してやるか。
「くらえっ!ハル…」
その時、どこからか声が聞こえたような気がした。
「?…どうなさいましたの?」
ウンディーネが不思議そうに首を傾げる。
「何か聞こえないか?」
「え?」
「ほら。聞こえる」
声がする方に視線を移す。
ドドドドドドドッ!
「はぁぁあっ!?」
向こうからサラマンダーが走ってくる。
その後からはかなりの人数の特攻隊が追ってきていた。
「秋~くぅぅぅんっ!お助けぇぇぇえ!」
半ベソで走ってくるサラマンダー。
「ま、魔法はどうしたッ!?」
あのくらい魔法で吹き飛ばせるだろ。
「魔力切れちゃったー」
意外な制限がっ!
「普段から考えて魔法を使いなさいって言ってますのにっ!」
プンプンとウンディーネはご立腹だ。
てゆうか。
「こっち来んなぁぁぁぁぁぁぁあ!」
「秋くぅぅぅん!」
「うわぁぁぁあっ!」
ドゴォォォオン!
鬼の集団と共に突っ込んできたアホ精霊。人と人とが玉突き事故のようにぶつかり合い、弾き飛ばされていく。
「ぐ…っ!痛ぇ~」
地面に叩きつけられた頭をさすりながら起き上がる。
辺りを見回すと悲惨な光景が広がっていた。
総勢十数人の人間が皆地面に倒れている。中にはピクピクと痙攣しているヤツもいるな。大丈夫なのか?
「危なかったぁ~」
見るとサラマンダーが汗を拭う仕草をしながら『ふぃ~』と一息ついていた。
「つーかお前は何やってんだよ」
「だって~。秋クンと離れちゃったから笑いが止まらなくてさっ!集中出来なかったから適当に魔法連発してたらあんな事にっ!」
あの爆発にはそんな秘密が。
「ん?」
つー事はアレか?俺も制約で女体化してたのか?
うわぁ。恥ずかしーっ!気付かなかった!どうりで特攻隊に追い付かれそうになるわけだ。
そんな事を考えていると、ふいに誰かが肩に手を置く。
「ん?なんだよ」
振り返るとそこには霧緒が立っていた。
さっきの追突の勢いで魔法が解けたのか。
「捕まえましたよ」
「あっ」
――――――――――
「それでは失礼します」
律儀に頭を下げ、霧緒と特攻隊は去っていった。
「惜しかったですわね。秋様」
「でもおいしかったから良かったじゃんっ!」
トホホ。
結局制限時間ギリギリで鬼に捕まった俺は罰ゲーム確定となった。
どんな羞恥プレイを強要されるのかとドキドキしていたのだが、そんな俺の緊張はハルの一言で消え去る事となる。
「またこれからもハルと遊んで欲しいんだよ」
それがハルの命令だった。
…まぁ、その後全員にソフトクリームを奢るハメになったんだが。
「秋クン!喉乾いたからソフトクリーム奢って!ついでに皆にもっ!」
もちろんどっかの腐敗精霊が原因だ。
「アッキー」
ふいにハルが声を掛けてきた。
「ん?なんだよ?」
「今日の命令は絶対なんだよ?破っちゃイヤなんだよ?」
「お、おう」
俺が頷くと、ハルはニヘーっと笑い特攻隊の後を追っていった。
「何なんだよアイツ」
「何だかんだでもうすぐお昼ですわね」
確かに。太陽がかなり高い位置にある。
ソフトクリーム山崎で騒ぎ過ぎたな。
「秋クン!お腹すいたー」
「はいはい。ウンディーネも食ってけよ」
「よろしいんですの?」
ウンディーネもいる事だし、昼は何を作ろうかねぇ。
「秋クン!アタシワカメ酒が飲みたいっ!」
こりゃまた無理難題を。
・水無月霧緒
小早川ハル特攻隊隊長。
真面目でお堅い良い男だが、ハルには逆らえない。
ハルや秋とは古い付き合いらしい。
一応高校3年だが現在休学中。いずれ退学し実家を継ぐ予定。
ちなみに実家は車屋を営んでいるとか。
ハルに振り回される可哀想な人。