第14話:がちんこでshow!
「覚悟はよろしくて?サラ」
ゴゴゴゴ…と禍々しいオーラを放ちながら冷ややかな言葉を呟くウンディーネ。
「うんちーネなんかよりアタシの方が強いもんねーだっ!」
対するサラマンダーは身体中を熱風で包みながらアカンベーをしている。
睨み合う2人。辺りは熱気と冷気がぶつかり合い、互いに弾け飛び、空気がうねりを上げる。
「行きますわよっ!水龍招来!」
ウンディーネが手をかざすと、掌から水の龍が召喚された。
「なにをーっ!ファイヤートルネードっ!」
サラマンダーが腕を降り下ろすと、どこからか炎の竜巻が現れる。
水龍と竜巻がぶつかり合う。水が炎を消し、炎は水を蒸発させていく。やがて凄まじい爆音を上げ相殺し、霧散する。
「まだまだですわっ!」
「次いくよーっ!」
あぁ…。なんでこんな事になっちまったんだ…。
――――――――――
話は30分前に遡る。
学校帰りに偶然(?)ハルに会い、暇潰しに何か食って行こうって話になった。
んで、たまたま近くにあった『ソフトクリーム山崎』に寄ったら店先で偶然(?)ウンディーネに遭遇したんだよ。
っつーかウンディーネに関しては偶然でも何でもねぇよ。精霊が1人でアイス屋に寄るわけねーだろ。
まぁそんなこんなで結局4人でソフトクリームを食べる事にした。
仲良く他愛ない話に華を咲かせてたんだが、どういう流れか精霊が使う魔法の話になったんだよな。
「スゴいんだよー。魔法なんて夢みたいなんだよー」
ハルはこういうメルヘンな話が大好物だ。今も身を乗り出して話をしている。
「むふふー!まぁねー。何しろ天才だからさー」
「誰が天才ですの?修行の途中で逃げ出すようではまだまだ未熟ですわよ」
腰に手をあて、エッヘン!と言わんばかりに威張るサラマンダーに対し、隣のウンディーネはやれやれといった表情だ。
「精霊ってのは皆魔法が使えるもんなのか?」
「ええ。ただ各々の特性に合った魔法に限りますわ。私なら水魔法。サラなら火炎魔法ですわね」
俺の質問に丁寧に答えてくれるウンディーネ。
なるほど、ならこの間チラッと出たイケメン精霊は何魔法なんだろう。
「美化魔法ですわ」
「美化魔法?」
「色んな物を美しく魅せる魔法だよっ!」
「それは…微妙だな」
何か意味あんのか?それ。
「おー!色んな精霊さんがいるんだよーっ」
ハルは興味津々といった様子でキラキラと目を輝かせている。
「そんなにたくさんの精霊さんの中で一番強いのは誰?なんだよ」
「それはアタシに決まってんじゃん♪」
「当然私ですわ」
…。
一瞬。辺りを静寂が包む。
「アタシ!」
「私ですわ!」
おいおい…。
「アタシだよっ!」
「私ですわっ!」
まさかこのパターンは…。
「上等だよ貧乳ーネ!表に出やがれーっ!」
「オーッホッホ!黙らっしゃいまな板娘!今日こそ決着をつけて差し上げますわっ!」
ドヒュン!という効果音と共に店外へと飛び出していく2人。
とりあえず俺は支払いを済ませる事にする。ハルは唇に指をあてながら何やら呟いていた。
「あれれー?なんだよぉ」
――――――――――
で、今に至るわけだ。
現在地は近所の公園。幸い周囲には誰もいない。
そうだ。全部思い出したぞ。全ての元凶は…。
「お前だっ!」
「はぁうっ!なんだよ」
ズビシッ!と指を差された元凶はなんだかオドオドしている。
「しかしどーするよ?」
「何だか大変な事になったんだよぉ」
俺たちの目の前では、変わらず水と炎が飛び交っている。しかしすげぇ光景だな。
「大体アンタの事は昔から気に入らなかったんだよっ!」
火炎弾を放ちながらサラマンダーが叫ぶ。
「あーら奇遇ですわね?私も全く同じ事を考えてましてよ?」
火炎弾を水の壁で防ぎながらウンディーネが高笑いを上げる。
「貴女はいつまで経ってもガキですわねっ!そんなんだから秋様に対しても一方通行なんですわよっ!」
俺がどうかしたのか?
「わー!わー!卑怯なり貧乳ーネ!それはフライングナンシーの侵害だよっ!」
「それを言うならプライバシーの侵害ですわっ!一体誰ですの?ナンシーって!」
おぉ。俺より先に突っ込んだな。
「そんな名前の映画ありそうなんだよー」
「飛ぶのか?ナンシー」
「ナンシーは飛びたいんだけど邪魔されちゃうんだよ」
「それは頑張って欲しいな。ナンシー」
そもそもナンシーが飛ぶ意味が分からん。
「今度見に行こうなんだよ♪アッキー」
「公開されたらな」
「わーいなんだよ♪」
その日は永遠に来ないがな。
おっと、ナンシーに気を取られてる間にこっちは決着がつきそうだ。
「はぁっ…はぁっ!なかなかやるわね…っ!」
「オホホ…はぁ…はぁ。まだまだですわぁ…っ!」
最早お互いにボロボロだ。多分次で決まるだろう。
むしろ決まってくれ。いい加減帰りたいんだ。
「はぁっはぁっ!行くよっ!火炎魔法奥義…」
おおっ!サラマンダーが何やら詠唱を始めたぞ。両手で円を作るように構え、その中心に何となく凄そうなエネルギーが蓄えられていく。
「はぁっ…はぁっ!…こちらも行きますわよっ!…水魔法奥義っ」
ウンディーネも同様に詠唱を始める。
周囲の空間が悲鳴を上げるようにギシギシと音をたてる。なんかすげぇな。
ジャンル違うぞコレ。
その時。張り詰めた空気が弾け飛ぶ。
先に動いたのはウンディーネだった。
「奥義っ!『青龍大瀑布』!!」
両手を重ねてつきだすウンディーネ。その掌から巨大な水龍が何匹も現れる。水龍は雄叫びを上げながら互いにぶつかり合い、やがて1つの津波に成長した。
アルマゲドンもビックリな光景だ。
対するサラマンダーはカッ!と目を見開くと両手を付きだし、魔力を解放する。
「奥義っ!『映画 フライングナンシーの侵害!coming soon…』」
ナンシーはもういい。
名前はアレだが、奥義は炸裂したようだ。付きだした両腕が炎に包まれ、その炎がどんどん大きくなっていく。
やがてそれは炎の巨人へと形を変えていく。なんかシルエットが女っぽいな。
「いけーっ!ナンシー!」
ナンシーいたーっ!
炎の巨人…もといナンシーは襲い来る津波に身体ごとぶつかっていく。炎と水が互いに消し合う事によって周囲が水蒸気で満ちていった。
火と水の奥義がぶつかり合う轟音が徐々に小さくなっていく。それと共に水蒸気も晴れていった。
「ど、どーなったんだよぉ?」
「水蒸気が晴れていく。…アレはっ!」
「ナンシーなんだよっ!」
そこにはナンシーがガッツポーズしながら立っていた。
どうやらこの勝負。サラマンダーの勝ちのようだな。
「そんな…あんなふざけた魔法に負けるなんて…ありえませんわっ」
ウンディーネはかなりのショックを受けた様子で、ガクンと膝をついている。
一方のサラマンダーはというと、こちらも限界だったようでフラフラと危なげな足取りで歩いている。
「秋クン…勝ったよぉ…えへへ」
「おう。お疲れさん」
正直勝敗はどうでもいいが。力を競い合うライバルがいるってのは良いもんだ。
今日の勝負は紙一重の差だった。次に戦ってもまたサラマンダーが勝つとは限らないだろう。
「うっしゃ。二人共頑張った。今日はご馳走作ってやるからな」
「わーい!」
「お言葉に甘えさせていただきますわ」
「皆仲良しなんだよー」
さて、皆で帰ろうかと歩き出したその時。
今までつっ立っていたナンシーが突然雄叫びを上げた。
『ウォォォオォオ!』
こえぇよナンシー。
「飛べー!ナンシー!」
は?
「空高く羽ばたくんですわっ!」
いやいや。
「テイクオフなんだよー!」
なにこの流れ。
『ウォォォオォオ!アイ!キャン!フラァァァァァァアイ!』
とうとう喋ったー!
ナンシーは一度膝を大きく曲げ、全身のバネを使って飛び上がる。
その姿は天高くどこまでも伸びていき、やがて見えなくなった。
さらばナンシー。また会う日まで。
「ナンシー。coming soon…」
「バカ言ってないで帰るよ。秋クン」
こーの糞餓鬼ゃ♪
さっきアクセス数を見たら本日200人を越えていました。
昨日までは50人見てくれれば良い方だったのに…。
この急激な変化に嬉しいような怖いような気持ちの白月なのでした。