ひとりぼっち
語彙力貧弱すぎてぜんっぜん書けません……
アトランティス学園の授業は、入学式典の次の日から始まった。
文学、算術等の必修科目に加えて、精霊術、馬術等の選択科目。
ひとりひとりの時間割や教室は、履修する科目によって異なっている。
しかし、入学から3日も経つと、新入生達はいくつかの集団を作り、共に行動するようになっていた。
『退屈ね』
授業の終わり、ジャミーラは頬杖をついて教室の外を眺めながら、ひとり物思いにふけていた。
『まさかここまで忌み嫌われているなんて』
ジャミーラは入学してからただの一度も、同級生から声をかけられたことがない。
声を掛けようとしても、その前に逃げられるか、嫌な顔をされるか。
他国からのランデュート王国の嫌われ様は、想像以上だった。
ジャミーラの周りでは、他の生徒達が各々のグループで会話を楽しんでいる。
「ご覧になって。シャマル様は今日もおひとりなのね」
「仕方ないわ。あの漆黒の髪に赤い瞳では、気味が悪くて」
「呪われたくないものね」
「しっ、聞こえるわよ」
ジャミーラは聞こえないふりをしながら、教科書を鞄にしまい込む。
「図書館にでも行こうかしら」
静かな場所で気を紛らわしたくなって、ふと思い当たった場所を目指して教室を後にした。
⚜️⚜️⚜️
図書館に入ると、ふわりと本のにおいがした。
司書に軽く会釈をして奥へと進む。
入口付近には長机と椅子が並び、その奥には背の高い本棚がずらりと立ち並んでいた。
ジャミーラは空いている席を探し歩く。
『あら』
図書館の隅にいるのに一際目を引く、ふわりと波打つ金色の髪。
見覚えのある後ろ姿だ。
ジャミーラは彼に近づき、人違いでないことを確認して、
「アルテリスさん」
優しく呼びかけると、琥珀色の瞳に整った顔立ちの少年が、ジャミーラの方を振り返った。
「シャマル様」
「ごきげんよう。ここに座ってもよろしいかしら?どこも満員で」
ジャミーラは辺りを軽く見渡しながら、困ったように言う。
「どうぞ」
アルテリスは頷いた。
ジャミーラはアルテリスの向かいの席に腰かけ、彼の持っている本を見て、
「え!?」
思わず大きな声が出て、周りの注目を集めてしまった。
直ぐに我に返り、恥ずかしくて顔が赤らむ。
ジャミーラは、咳払いをして席に着いた。
こちらを向いた生徒たちも、徐々に顔の向きを戻していく。
「どうかなさいましたか?」
アルテリスは不思議そうに、ジャミーラを見つめた。
「アルテリスさん、貴方……上級生だったのね」
ジャミーラは小さな声で言った。
ジャミーラの視線は、アルテリスの持っている教科書に注がれていた。
それは一学年上級生の使っている教科書のはずだった。
「はい」
小柄で堂顔だから、てっきり同じ新入生かと思っていた。
そういえば、あのルシファニア王国ハウゼン伯爵家の次男ハムザ・ハウゼン様もひとつ上の学年だっただろうか。
ジャミーラは今までの態度を思い返し、改まって謝罪する。
「申し訳ございません。上級生とは知らず、ご無礼をいたしました」
突然の変わり様に、アルテリスは目をぱちくりさせ、ふっと微笑んだ。
その笑みは、ジャミーラの心臓に良くない破壊力を持っていた。
「シャマル様、顔をあげてください。今まで通りでお願いいたします」
アルテリスは優しく言った。
「ですが」
「そうなさってください。寧ろ礼を尽くさねばならないのは、私の方ですから」
ジャミーラは怪訝な顔をする。
「それは身分の違いからですか?」
ジャミーラは彼を傷つけないかと、恐る恐る尋ねた。
もしそうならそれは違うと、ジャミーラは思う。
今は同じ学び舎の生徒。優先されるべきは身分ではなく学年ではないだろうか。
しかし、アルテリスはジャミーラの言葉に首を竦めて、
「今は申し上げられませんが、いずれお分かりになります」
としか答えなかった。
「そう…ですか。でしたら、お言葉に甘えさせていただきますわ」
ジャミーラは釈然としないながらも、一先ず従うことにした。
ジャミーラがアルテリスの言葉の意味を知ったのは、それから数日後の新入生歓迎パーティだった。