少年と少女
珠のように白い肌
薔薇色の頬
ガラス細工のような黄金色の瞳
光り輝く黄金色の髪
この世のものとは思えない程美しくて儚い、陶器人形のような男の子。
それが、彼に抱いた最初の印象だった。
⚜️⚜️⚜️
体育館に残されたのは、ジャミーラと少年のふたりだけ。
「全く何なのよ」
嘆息。
ランデュート王国が他国からどのような扱いを受けているのかは聞き及んでいたので、覚悟はしていた。しかし、実際罵声を浴びると、何とも言えない虚しさが押し寄せてきた。
彼等の姿が見えなくなったのを確認し、ジャミーラは暫くして少年の方を振り返った。
「さてと」
ジャミーラは少年をまじまじと見つめる。
彼女の瞳に映ったのは、擦り切れ薄汚れた新しい白黒の制服と、傷付き血の滲んだ白い肌。綺麗な金色の髪。少年が俯いているから顔はよく見えない。
「あなた、大丈夫?」
悪魔の民族からの施しなどと拒絶されるかもしれない。
しかし、性分見捨てることも出来ずに、少年に手を差し伸べ───
時が止まるとはこういうことを言うのだろうか。瞬間、少年が顔を上げ初めて目が合って、ジャミーラは背筋が凍りついたような気がした。
くるくると癖のある柔らかそうな金糸の髪。陶器のように白い肌。ピンク色の頬。つぶらな金色の瞳をもつ、整った顔立ち。
そんな可憐な容姿とは裏腹に、感情を一切感じさせないその澄んだ瞳が、まるで陶器人形を連想させる。
「あの……」
「何?」
反射的に聞き返す。
「お手を汚してしまうので、自分で起き上がります」
少年は傷のある身体を無理やり起こし、のそっと立ち上がる。
やはり悪魔の民族の手など取りたくないのだろうか。
ジャミーラは、すっかり弱気になって、彼の言葉の裏にある感情を想像する。
しかし、傷だらけの少年は、呼吸を整え深々と頭を下げて───
「ジャミーラ・シャマル様。お助けくださりありがとうございました。新入生のアルテリスと申します」
絹のように優しく、鈴のように軽やかな声音で、丁寧にお礼を言った。
更に、それは先程までの状況が幻だったと思える程、優雅で精錬された身のこなしで。
「はじめましてアルテリスさん。礼には及びませんわ」
懸念が杞憂に終わったことを嬉しく思いつつ、彼の立ち居振る舞いに感心する。
『姓を持たない。ということは貴族ではないのね』
容姿端麗で、でも貴族ではなくて。
彼が虐められていた背景は、これなのだろうか。
そう思いながら改めてアルテリスをみて、痛々しい姿に目を見張る。
「わたくし少しばかり治癒術が使えるの。治療させていただけるかしら」
アルテリスは少し驚いて、こくりと頷いた。
「光の精霊達よ、かの者の傷を癒したまえ」
ジャミーラは目をつぶり、呪文を唱えた。
すると、眩い金色の光が2人を包み込み、アルテリスの傷をみるみる癒していく。
暫くして、
「上手くいったみたいね」
ジャミーラは、満足気な笑みを浮かべた。
「ありがとうございます」
「いいえ。その制服も……色々なところが汚れて擦り切れてしまっているわね。新しいものを持ってきましょうか」
傷は治癒できたが、服までは直せない。
かといって、この格好で外にでるのを放っておくのは、如何なものか。
そう思って考えた最善の策だったのだが、
「いえ。そこまでは……。人目のない道を行きますので。お気遣いありがとうございます」
「そう。わかったわ」
流石にお節介が過ぎただろうか。ジャミーラはそれ以上踏み込まないことにした。
「では、わたくしは先に行くわね。また会いましょう」
「はい。本当にありがとうございました」
「こちらこそ、普通に接していただけて、嬉しかったわ。彼等には気を付けて。何かあったら何時でも訪ねていらっしゃいな」
そう言い残し、アルテリスの礼に見送られジャミーラは寮への帰路についた。