少年の探し人
空が赤らみ、影が一層濃くなる時刻。
少年は木に寄りかかり、少し遠くの大聖堂を見つめていた。
鐘が鳴り響き、扉が開く。
『定刻通りですね』
大聖堂の中から招待客、そして生徒達が次々に出て来るのが見えた。
紳士に貴婦人、茶髪の少女に、紺髪の少女…
少年は何十、何百の容姿と顔を確認し続ける。
その手には、艶やかな漆黒の髪に宝石のような赤い瞳、褐色肌の美しい少女の肖像画が握られていた。
『前列に座られていたのでしょうか』
探し人は見つからない。
あの混みから見つけるのは骨が折れる。
ふと、見知った顔と目が合った。気味の悪い笑みを浮かべて、近くにいた数人とこちらに向かってくるのがわかる。
『何て間の悪い…』
人探しもままならず、少年はこれから起こるであろう事を想像して落胆した。
⚜️⚜️⚜️
聖アトランティス学園、体育館───
「ハムザ様ぁ、準備はよろしいですかぁ?」
ケラケラと嘲笑いながらわざとらしく確認をとる自称審判と横に男子生徒が1人。
彼等の侮蔑の視線を受けながら、少年は一言も反論することなく、ただただ時間が過ぎるのを待っていた。
少年の視線の先では、上部に丸みをつけ襟足を軽く仕上げた茶髪の男子生徒が準備体操をしながら『訓練 』に備えている。
暫くして、ハムザは頷き、準備完了の合図を送った。
審判は手を挙げ、ハムザが身構える。
「───それでは、訓練開始!!」
合図と同時、ハムザは拳を振り上げた。
少年は反応して───でも、避けなかった。
防御の体制はとるけれど、それでお終い。
「はあぁぁぁっっっ」
ダン!!
ハムザの拳が腹部に直撃。
瞬間、少年の身体がくの字に曲がる。
「っっっ」
あまりの衝撃に一瞬意識が飛びかける。
けほっけほっけほっ。
息をしようと咳き込む度、腹部に激痛が走った。
「ハムザ様流石ですぅ」
「まだまだここからだ」
殴られ蹴られ、休む間もなく次の攻撃が少年を襲う。
少年の服は擦り切れ、有りと有らゆるところが赤く染まっていく。
何度目かの衝撃の後、身体が地面に転がった。
「ははは。見ろよ。下民にお似合いじゃね」
地面に這い蹲る姿を見て、ハムザの取り巻き達が嘲笑う。
「悔しかったらやり返してみな、おチビちゃん」
髪の毛を掴まれ、無理矢理顔を起こされる。
『あの方を探しに行かなければいけないのに』
あとどのくらいの時が経ったら、彼らの気は収まるのだろうか。
そう考えて───
「───おやめなさい」
その声は唐突に、少年の未来を一変させた。