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婚約者

ダンスホールの中央で音楽に合わせ軽やかに舞う男女。

ランデュート王国第二王子ムスタファ・ランデュエルと婚約者のジャミーラ・シャマル侯爵令嬢。

まるで童話の中の王子様とお姫様の様なふたりに、周りを囲む生徒達はランデュートに対する悪評など忘れて、ただうっとりと目を奪われていた。


一方当のジャミーラは、


(あの子は何処かしら)


黄金色の髪に黄金色の瞳の美少年。

婚約者とのダンスの最中だというのに、ジャミーラは彼のことが気になって仕方なかった。

視界の隅に入る人影を探り続ける。


(まさかムスタファ王子の側近だったなんて)


ジャミーラは、お茶会でのアルテリスの話を思い出す。

主君は誰なのかという問いに、彼はまだ秘密だと答えた。

この時まで隠していた理由は何なのか。

驚かせたかっただけなのか。

別に秘密にする必要があったのか。


(もしかして探られていた?婚約者として相応しい人物かどうか見極めるため?とか?)


変な噂も流れているし、可能性は無きにしも非ず。

色々な考えが頭を過ぎって、早く本人に確認したいと思う。

ふと、壁際に立つアルテリスの姿が目に入った。


(やっと見つけた)


壁の花を決め込んでいる様子なのに、一際目を引く整った容姿。何人かの令嬢が彼に声をかけようとそわそわしているが、彼の纏う従者としての毅然とした態度に誰一人一向に話しかけられないでいる。


悪魔の民族の関係者とはいえ、その特徴を一切もたない異国の少年、何より美少年だからだろうか。

異性には密かに人気があるようだ。


一方、近くで様子を伺う他の男子生徒達は、令嬢達の目が彼に釘付けになっているのが面白く無い様だった。酷い目付きで彼のことを睨みつけている。

ジャミーラは、彼が同性から虐められる原因の一端がわかったような気がした。


「アルが気になりますか」


突然話しかけられて、今がダンスの最中であることに気付かされる。

婚約者と、しかも王子と居るのに他の者のことを考えるなど、失礼極まりない行為だ。


「申し訳ございません」

「いいんですよ。それより、アルが気になるのでしょう?」

「アル?」

「アルテリス、彼の愛称です」


少し考えれば分かることなのに、思わず聞き返してしまった。

普段から愛称で呼んでいるなんて、


「仲がよろしいのですね」

「何故?」

「でなければ、愛称は使わないでしょう?」

「それもそうですね」


心做しか、王子の表情が柔らかくなった気がした。

魅惑の悪魔と揶揄される王子だが、こうして間近に見ているとその優しそうな表情に本当に惹き込まれそうになる。

側近の彼もだが王子もかなりの美男子だと、ジャミーラは改めて思った。


「アルテリス様とは度々お会いしたのですが、その頃はまだ殿下の側近とは存じ上げなくて。先程そのことを知りましたので、驚いてしまいましたの」


ジャミーラは正直に答えた。


「そういえば、まだお礼を申し上げていませんでしたね」

「お礼?」

「アルを助けていただいたとか」

「礼など、とんでもないことでございます」


従者など気にも止めない貴族が多い中で、まさか王子から感謝の言葉を受けるとは思ってもみなかった。


(優しい方なのね)


ジャミーラの中で、ムスタファ王子に対する好感度が少し上がった。

正直なところ彼と婚約者で居るおかげで得たものより失ったものが大きくて、彼の婚約者であることはあまり喜ばしいことではなかった。

しかし、ジャミーラは今、この婚約を少し前向きに考えられるようになった気がした。それなのに。


「実は貴方にお話しなければならないことがあります」


先程までとは一転、彼はひどく真剣な表情だった。ジャミーラはすぐに不吉な予感にかられる。


「何でしょう」

「場所を変えてお話しても?」

「ええ」


曲の終わりに合わせて、お辞儀をする。

ジャミーラは大人しく、王子に続いて会場を後にした。

このあと、あの様な話を受けることになるなんて、思いも寄らずに。

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