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伍。

「私……。私の好きな人は──」


 ──もう既に暗くなった教室。廊下側の窓辺から、点けられた電気の明かりだけが俺たちが囲む机の上をボンヤリと照らしていた。

 それぞれ四人の指先がチップとともに明かりに浮かぶ。

 俺たち四人は、他の誰の表情も見ずにそれぞれの指先を見つめたまま、静かに俯いて椅子に座っていた。

 月山さんの声が透明に聞こえて、俺の心臓の鼓動とか動いてて、まるで波にでも揺られているような感覚がした。知りたくもない答えが、もうすぐやって来る。何かが変わる未来が、今日までとは違う未来が、すぐそこまで来てる。望んでもいないのに。


「……くん──」

「──え?」


 小さすぎて聞き取れなかった月山さんの声に、俺だけが顔を上げた。続いて、庵野と穂高さんも顔を上げて、俺と同じように月山さんの表情を見つめた。月山さんが、すぐに答えたせいか、俺たち四人の指先がチップからそれぞれ離れた。四人分の魂の回答で、ようやくゲームの呪いから解放されたみたいだ。けど──、


「──やっぱな。そう来ると思ったよ」

「フフ……。なんだかんだ言って、ね? あー。楽しかった。呪いゲー、お爺ちゃんに返しとこ」


 ──何故か、庵野と穂高さんは、納得してスッキリしたみたいな表情で、呪いゲーをあっという間に元の箱へと片付けてしまった。


「イケメン西野より、俺のこと好きってか?」

「もー! それ、言わない!」


 ゲーム部部長の庵野と副部長の穂高さんが、前にも増して仲良くなったというか何と言うか。

 和気あいあいとしながら、二人が席を立った。


「んじゃ、お先。お前らも、早く帰れよな」

「私は、もうちょっと、ここに残ってたい気もするけど?」


 「穂高、お疲れー」と、肩に鞄を掛けた庵野が先に暗がりの教室を背にして、穂高さんが「待ってよー!」と、庵野の背中を追い掛けた。明かりの点いた廊下に、二人の声がだんだん小さくなって消えて行く。俺と月山さんは、二人だけ校庭側の南の窓辺の席に取り残された。もう辺りは暗くなってて、空に月がハッキリと輝いているのが見えた。


「飛騨……くん?」

「え? あ、はい……」


 何もかもが急な出来事で、俺の頭の中が追いつかない。気がつけば、呪いゲーも終わってるし。結局、月山さんの好きな人が誰なのか──、俺だけが聞き取れなかったのか、何なのか。分からないけど……。


「──今日は、ありがと。遅くなっちゃったね」

「え? あ、うん。まぁ……。いや、くだらないゲーム部の遊びに付き合わせて、本当ごめん」

「そんなことないよ……」


 俯いた月山さんの表情が綺麗で──、月の浮かぶ窓辺の明かりが、月山さんの頬と唇の輪郭を照らしていた。帳の降ろされた夜の教室の床に、俺と月山さんの影が映る。


「私たちも、帰ろっか」

「あ、あぁ……。そうだな」


 俺だけが得られなかった月山さんの魂の回答。

 月山さんも、何故か庵野や穂高さんみたいに、何か清々しい表情と言うかスッキリとした様子で。席を立って幽かな微笑みを浮かべながら、耳もとに掛かる眼鏡のフレームに流れるような黒髪を掻き上げた。

 それから、暗がりの教室を後にした俺と月山さんだけど、何を話したのかは覚えてない。まるで頭の中が、未だに呪いゲーにかき混ぜられてるままで、適当に相槌を打ったりして、なんだかうわの空だった。


「月、綺麗だね……」

「あぁ……」


 月山さんのその言葉だけが、ハッキリと耳もとに響いて記憶に残った。

 自転車置き場まで、二人で歩いてたけれど、帰る方向が違うから、サヨナラを言って別れた。

 自転車に小さなライトを灯した月山さんの後ろ姿が、校門までの下り坂を越える頃には、俺も鍵を外して自転車置き場を後にした。








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― 新着の感想 ―
[良い点] そんなに陸を連呼されても困ります~悪魔の数字陸陸陸。 などという冗談はさておき、とても読みやすく次がどうなるかドキドキ読み進めました。 この先どうなるか予想もつきません。 4人とも幸せなら…
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