参。
「だ、誰かっ!! 早くっ!!」
俺が、目を閉じて叫んでた時。
ボン──! と、黒い煙のようなものが、穂高さんが持ち込んできた『ボードゲーム』の上に現れた。
『【プレイヤーは想いを生贄に。未来を知るには魂を賭けろ。答え無き者には死を】』
声だけが聞こえる。
指先のチップがさらに熱くなり、燃えそうなくらいに熱い──。
「──ほ、穂高っ!!」
そう叫んだ庵野に、俺と月山さん、穂高さんの視線が集まる。
「え?」
副部長の穂高さんが庵野を見つめる。
校舎に沈みかけた夕日が、俺たちの教室の窓辺に赤く射し込み、熱かったチップの温度がもとに戻っていった。
「しゃーねぇだろ。んなもん。緊急事態だから、よ……」
俯く庵野が、指先のチップを見つめた。
穂高さんも、夕日のせいか顔を赤くしていて、俯いて黙っている。
だけど、俺たち四人の指先は、まだチップから何故か離せないままでいた。
「コレ……。終わりって、あるんでしょうか?」
チップに指先をのせた月山さんが、静かに呟く。
確かに、ゴールらしきものはあるにせよ、そろそろ俺たちも帰らなきゃイケない。
けど、離したいのにチップから何故か指先が離せない。
そうこうしているうちに、升目に文字が浮かび上がった。
『【答えありし勇者は賽子を振り、指名した者の魂へ問うことが出来る。強制力は賽の目に準ずる。尚、我が名『コックリ』を複数回呼べば尚良し。四人の魂の回答を得れば終わる】』
チラリと、庵野が俺を見てから穂高さんを見つめた。
「イクぜ……。コックリさん、コックリさん、穂高の好きな人を答えろ」
庵野が静かにサイコロを振ると、穂高さんは俯いたまま、静かに黙っていた──。
『(──コロコロ……。【『陸』】)』
またしても、【『陸』】だ。
俺たち四人は、六つチップを静かに進めて、穂高さんの回答を待った。
夕闇が静かに沈む教室。
部活動を終えたテニス部連中の声がうるさい。
幸い廊下を通り過ぎて、俺たち四人の静寂は守られた。
けれど、逆に今度は俺たち四人のチップをのせた指先が、氷のように冷たくなった。
庵野の穂高さんへの問いが、そのまま升目に浮かび上がる。
「ご、ごめん、なさい……。わ、私は、同じクラスメートの西野君が好き……だった。けど、けど!! そ、そうじゃなく──、って」
俯いたまま、俺たちに顔を見せない穂高さんが、指先にチップをのせたまま顔を上げた。
「ご、ごめん。な、なんか、庵野君のことが、ずっと気になってたのかな……。私って、最低だよね。庵野君に、言われてから気づいたんだけど……」
だんだんと、俺たち四人の指先をのせたチップが、庵野の時みたいに熱くなる。
「やっぱ、庵野君のこと、好き……だったんだよね。ごめん、ごめん……。私って、庵野君のこと──」
チップに指先をのせた穂高さんが、涙ぐむ。
それを見た月山さんが、穂高さんに声を掛けて、指先にチップを乗せたまま穂高さんの頭を撫でた。
「──良いんじゃないですか? 自分に正直で」
「うん……」
もう夕日が沈みかけていて、教室は暗くなりかけていた。
「呪い……だな。次は、穂高が賽子を振る番だぜ?」
「だね……」
庵野の声に──、涙ぐんで俯いていた穂高さんが顔を上げ、穂高さんの持ち込んだ昭和呪いゲー『コックリさん』の和紙の上に、サイコロが転がり──。
次のプレイヤーの名前が、読み上げられた。
「──飛騨君。飛騨君の好きな人の名前を答えて」
「え?」
俺の名前が、穂高さんに呼ばれた。
穂高さんの目つきが、まるで赤い目をした魔女のようだった。
俺は、早く家に帰りたいって想う。