弐。
穂高さんの持って来た『ボードゲーム』を机の上に広げて、俺と庵野と穂高さんに月山さん──、四人が、それぞれ椅子に座って取り囲む。
黄ばんだ和紙には墨で描かれた『双六』のような升目が画かれている。
トリセツのようなメモ紙には、スタートラインにチップを乗せろとのことだ。
「これで、良いのか?」
円盤状のチップの上に、俺と庵野、穂高さんに月山さんの指先がのる。
部長の庵野の声とともに、俺も月山さんも、穂高さんの顔を見る。
「良いんじゃない? 後は、この壱から陸のサイコロ? 振るだけじゃない?」
適当だ。昭和の呪いゲーを目の前にして適当だ。
たまに想うが、どうも女子とかって、男子よりも大胆なとこがあるとも想う。
肝が据わっているというか、後先を考えてないというか……。
「緊張しますね……」
月山さんの声が聞こえて、俺もその通りだと想った。
なんせ、『コックリさん』とかいう昭和の遊びは、オヤジからも聞かされてはいたが、お稲荷様を呼び出す召喚ゲームとも聞いている。
「んじゃ! いっくよー!!」
穂高さんが、茶色に染めた前髪を掻き上げてから、勢い良くサイコロ?のようなものを振った──。
(──コロコロ……。【『陸』】)
いきなりだ。
俺と庵野、穂高さんに月山さんの指先をのせたチップが、何も描かれていない6番目の升目に止まる。
と言うよりかは、俺たち四人が進めたワケだが。
「ん? 何も起こらないね?」
不思議そうな顔をした穂高さんが、俺たちの顔を見つめた。
しかしながら、俺たちの指先をのせるチップが、徐々に熱く──高温になっていくのを感じた。
「おい! 穂高!! ヤベぇんじゃねぇのか!? このチップ、熱……」
庵野が穂高さんの顔を見上げた時、何も無いはずの升目に文字が浮かんだ。
『【(プレイヤーの好きな人の名を1名、答えよ)】』
「んな!? なんだ、コレ!?」
俺は、想わず叫んだ。
庵野も月山さんも、指先を見つめたまま固まっていて、穂高さんは苦笑いをしている。
「な、何目的なんだろねー? コレ……。アハハ」
「アハハじゃねぇっ、穂高!! 言えるか! そんなもん!!」
「え? 好きな人いるの? 庵野くん?」
穂高さんが、焦る庵野に問い詰めた。
ただの昭和呪いゲーかもだが、チップにのせた指先が熱いのに、指先を離すことが何故か出来ない。
「は、早く答えろよ! 庵野!! ヤベぇって!!」
「ば、バカ!! んなもん、いねーよ!!」
焦りまくる俺に、庵野が答える。
「そうなんだ……」
穂高さんが、熱くなっているはずの指先を見つめながら俯いている。
「つ、月山さんは──!?」
苦笑いをして冗談混じりに俺は聞いてみた。
「──言えない。飛騨くんは……? 誰?」
どんどんと熱くなってるはずのチップを目の前にして、冷静な月山さんの視線が、俺に突き刺さる。
って言うか、月山さんにも好きな人がいるのかって想うと、なぜかドキッとした。指先は熱くなるばかりなのに。
「穂高は、好きなヤツとか居ねぇのかよ!?」
部長の庵野が、どんどん熱くなるチップから指先を離せないまま、穂高さんの顔を見つめて叫んだ。
「い、言えるワケないじゃん。そんなもん……」
もう、高温に成りすぎてるチップから煙が上がり、指先が火傷しているんじゃないのかって、想う。
「だ、誰かっ!! 早くっ!!」
俺は、目を閉じて叫んでたんだと想う。