壱。
「ジャーン!! ね! 今から、ボードゲームやろうよ!」
「んだよ、それ? 今時、価値あんの?」
土曜の昼下がり。
同中一年から付き合いのある庵野が、俺と同じ高校に入学してすぐ、無理矢理立ち上げた通称『ゲーム部』。俺は無理矢理付き合わされるハメになり、早く帰りたいのに今日もゲームをしないと帰れない。
夕闇も迫ろうとしている時間だけど、暇を持て余した教室に、庵野と俺と、もう一人。副部長兼女子部員でもある穂高さんが、ボードゲームなんて持ち込んでるって話。
桜咲く高校2年目の春。まだ、外も随分と明るい。空も晴れてるみたいだし。
「あ。えーと、メンズ二人かー。も一人、呼ぼっか?」
「いいって、穂高。 早くやろうぜ……」
庵野の機嫌が悪い。自分で立ち上げたくせに、ボードゲームよりオンラインゲームをやりたいんだろう。
オンラインゲームにも大会はあって、世界的にもプレイヤーがたくさんいるから、優勝とかすれば高校の知名度も上がる。
それを売りに、チマチマ高校の宣伝を兼ねて大会に出場してた俺たちだが、そんなことは、どうでも良い。ただの暇つぶし。将来、ゲーマーで生計立てられるワケでも無いし。
だから、オンラインゲームにも飽きが来てた俺は、穂高さんの『ボードゲーム』に興味があった。
「あ。月山さーん、ボードゲーム、しない?」
「え? いや、あの……」
たまたま、廊下を歩いてた同じクラスの月山さんに穂高さんが声を掛けた。
月山さんは、髪の長い眼鏡女子で陰キャ。けど、スラッとしてて割と美人だからか、男子連中にはモテてて、学年三番手くらいで割かし人気がある。
ちなみに、穂高さんは学級委員長タイプで、性格がしっかりしていることもあってか、大人しめの男子たちの間では、チラホラ人気がある。
しかし、月山さんにとっては災難だと想う。ゲーム部なんて大して興味無いだろう。たまたま、廊下歩いてただけだろうに。
俺と同じクラスの月山さんは、図書委員でもあったような気もする。いつもの図書室に行く途中で運悪く穂高さんに声を掛けられたんだろう。
「はい。私で良ければ……」
意外な返事が帰って来た。そんな、無理しなくて良いのにって、教室の机に頬杖をついて俺は想う。
「さぁさ! ではでは、始めましょう! このゲームは、なんと! お爺ちゃんの所有する『蔵』から見つかったボードゲームなのらー! イェーッ! あ。お爺ちゃん曰く、呪いのコックリさん仕様になってるとか? みんな、気をつけてねー──」
(──なんだ、それ? ヤバいんじゃねーの?)
俺は、机に頬杖ついたまま、ちょっとビビる。
首もとのカッターシャツが苦しくなって、ボタンをひとつ多めに空けた。
俺の近くに居た部長の庵野が、怪訝そうな表情をしている。
「ハッ! 呪い? バカ臭ぇ」
いや、ビビってなくね? 庵野?
いつになく、部長の庵野の動きが慌ただしく、穂高さんが持って来た『ボードゲーム』の箱をひとしきり眺めていたかと想うと、古びて色褪せた箱の中から中身を取り出し、庵野の手が忙しく回る。
ボードに、チップ……、穂高さん家の蔵の匂いが染みついているせいか、俺の鼻に昭和臭がツンと匂った。
ただ、小学生の頃、田舎の婆ちゃん家で、夏休みに花札したのを思い出す。
それに、オヤジも言ってた。
昔は、コックリさんなる、呪いのゲームが流行ってたことを。