第8話:初めての勉強会
桜井さん、紺野さん、そして大輝とゴールデンウィーク後に行われる中間テストに向けた勉強会を行うことになった。日程としては、中日の祝日の午後からになった。その日がみんなが部活も予定もない唯一の日だったのだ。最近の中学生はこんなに忙しいのかと思ってしまった。
「そろそろ来るかな…。」
勉強会の会場は私の家になってしまった。理由は、大輝が一人暮らしの様子を見てみたいと言ったからだ。まったくどこの母親だよ…。まあ、特に問題ないけど。
前世の癖みたいなもので、それなりに整理整頓できていたから、ラノベみたいに大慌てで掃除、徹夜で片付けみたいなイベントは発生しない。家事は常日頃の心がけである。まあ、お菓子や飲み物は用意したけど…。
ピンポーンと呼び鈴が鳴り、モニターを確認する。すると桜井さんと紺野さんが見えた。どうやら二人で一緒に来たようだ。言い出しっぺの大輝は最後かと苦笑いしながら、二人を出迎えた。
「おおーっ…。ここが城田君の家?すごい広いねー。」
「おじゃまします。これ、うちの母親から。」
「あっ…!うちもお菓子買ってきたよ!」
「そんないいのに。でもありがとう。」
二人とも気を使ってくれたのか、お菓子を差し入れてくれた。何ともできた中学生だ。
「それにしても広いお家だね。ねっ?美羽ちゃん。」
「うん。ここに一人暮らしなんて…。城田君は大人だね…。」
「いやいやそんな大したことじゃないよ。」
「でも家事とか大変そう。」
「まあ一人分だから。掃除は広い分少し大変だけどね…。でも使ってない部屋もあるから…。」
「そうなんだね。」
「今日はどこで勉強するの?城田君の部屋?」
「いや、リビングでしようかなと思って…。なんで?」
「ううん。美羽が城田君の部屋を見たいんじゃないかなと思って~。」
「ちょっと、ひなたちゃん。私そんなこと言ってないよ。」
「俺の部屋?そんなに大したものはないけど。良かったら見てみる?まだ大輝来てないし。」
「いいの?美羽ちゃん、見に行こう!」
「ええ…。城田君に迷惑じゃない?」
「ははは。別に大丈夫だよ。見られてまずいものは…ないし。」
「本当~?いまちょっと変な間があったけど~。」
「大丈夫。大丈夫。問題なし。…多分。ちょっと待ってもらっていい?」
「だめ~。ほら部屋に案内して。」
「はいはい。」
「何か二人とも楽しそうだね…。」
「あれ?美羽ちゃんヤキモチ?」
「えっ!?違うよ、もうっ!」
そんなやりとりを経て、自分の部屋を案内した。二人から「きれいなお部屋だね」とお褒めの言葉を頂いた。紺野さん、ベッドの下を覗いても何もありません。
―――――
「大輝、そこ間違ってる。その場合の文法は…。」
「紺野さん、そこの計算はこうすれば効率的だよ。」
「桜井さん、その文章のポイントは…。」
大輝が合流して勉強会が始まった。彼はジュースを差し入れてくれた。家に入ると「広い家だな。」とか「お前大人だな」とか、すでに彼女たちとのやりとりを復習した。私の部屋を見たいと言ったが、そのイベントはすでに終了したと伝えた。彼は「ええ~」と残念そうだったが、「まあ、後で勝手に見るわ。」と言っていた。たのむから勝手には見るな…。
最初はそれぞれの課題を黙々とこなしていたが、途中で大輝が私を質問攻めにしたのをきっかけに、私が講師みたいになってしまった。2時間程勉強したので、おやつタイムとなった。やはり進学校に合格した生徒だけあって、勉強への集中力はかなり高い。私にとってもいい刺激となった。
「それにしても、城田君は教え方上手だよね~。」
「うん、とてもわかりやすかった。」
「そうだろ!やはり俺の目に狂いはなかった。」
彼女たちの褒め言葉は有難く受け取っておくとして…。おい大輝、お前は誰目線なんだ?
「そうかな…。毎日復習しているからかな…。」
たぶん、コミュニケーション能力も補正があったのだろう。
「だけど、こっちばかり質問しちゃって、城田君の勉強の邪魔になってない?」
桜井さんはやっぱり優しい子だ。ちょっと申し訳なさそうに訊いてくる。
「全然大丈夫だよ。こっちも教えることで勉強の内容を再復習できるし。」
「そう。それならよかった。」
そんな会話を続けながら、みんなが差し入れてくれたお菓子とジュースを頬張る。桜井さんが持ってきてくれたクッキーおいしい。
「そういえば、女バスの友達から聞いたんだけど、城田君もうすでにレギュラー候補なんでしょ?」
「そうなの?俺なんてまだまだだぜ。まわりの先輩たちだけじゃなくて、他の1年生にもうまい奴多いから、レギュラーなんてまだまだだな…。」
「私も。先輩もそうだけど、まわりの1年生も音楽経験者が結構多くて…。少し自信なくしそう…。」
「いやいや、それただの噂だから。そもそもバスケ始めたのだって、中学入ってからだし。それにみんなもまだ始まったばかりでしょ?これからだから大丈夫だよ。」
「だけど、1年生でレギュラー獲ったらすごいよね。うちの学校のバスケ部って結構有名なんでしょ?」
「そうらしいね。今まで知らなかったけど…。まわりの経験者ばかりで肩身狭いよ。これで万が一レギュラーなんて獲ったら、まわりの同級生に何か言われそう…。まあ無理だけど。」
「だけど、中間テストが終わったら、夏の大会に向けて練習試合とか多くなるんでしょ?もしレギュラー獲ったら教えてね。応援に行くから。ねっ!美羽ちゃん。」
「うん。絶対応援に行くよ。」
「俺も行くぜ。まあ部活なかったらだけど。」
「ありがとう。万が一レギュラー獲ったら教えるよ。みんな部活がある日かもしれないけど…。」
そんな会話をしつつ、勉強を再開した。夕方になり、キリのいいところでお開きとなったが、徒歩で来た彼女たちを家まで送ることにした。大輝は自転車で来たのと、方向が逆だったので、マンションのロビーで別れた。
「今日は城田君のおかげで、勉強がだいぶ進んだよ。ありがとう。」
「確かに。授業でモヤモヤしていたところが理解できて、楽しかった。」
「こっちもいい復習になったよ。中間テストまであまり時間ないけど、一緒にがんばろうね。」
「そうだね~。そういえばテスト期間とその1週間前は部活禁止なんでしょ?そうしたら、またこのメンバーで勉強しない?」
「私はとても助かるけど…。城田君、いいの?」
「全然いいよ。みんなと勉強できて、俺も楽しいし…。」
前世では友達も少なくというか、ほとんどいなくて、こうした勉強会みたいな青春イベントも発生しなかった。ラノベを読んで、「こんな勉強会したかったな~。」と思っていたので、こちらもそういう意味でワクワクしている。
そんな感じで会話を続けながら、まず紺野さんを家まで送った。「送ってくれてありがとう。美羽ちゃん、よろしくね!」と言われ、そのまま桜井さんの家に向かう。
「………」
「………」
会話がない。よくよく考えたら、相手が中学生とはいえ、女子と二人っきりになることはなかったな。前世も然り…。
「…桜井さん、大丈夫?疲れちゃった?」
「ううん。全然大丈夫。城田君こそ疲れてない?」
「大丈夫だよ。俺若いから…。」
「…ははは。何それ?私たち同い年だよね。それとも城田君には私はおばさんに見えるの?」
桜井さんは少しムスっとした表情で見つめてくる。
「いやいやいや、違うよ。そんなわけないじゃん…」
「ははは。冗談だよ。ちょっとからかってみただけ。」
「ふう、もうやめてよ…。心臓止まるかと思った…。」
「ごめんね。だけど城田君って大人びてるよね。会話も仕草も。」
「そうかな…。そんなことないと思うけど…。」
「ううん。何か同級生に見えない。」
「それって、おじさんに見えるってこと?」
「違うよっ、もう!だけどね、何か頼りがいのある人って感じ。」
「そう?可愛い桜井さんに言われると、少し照れるな。」
「!!!もうっ。からかわないで。」
「えっ!別にからかってないよ。」
そう真顔で答えると、桜井さんの頬が赤くなっている気がした。まあ、まわりがもう薄暗くなってきたからわからないけど。
桜井さんの家はどんな感じなんだろうか…。
そんなことを考えながら、二人はその時間を楽しむように、ゆっくりと歩みを進めた。
読んで下さり、ありがとうございました。