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第7話:青春って音読み?訓読み?

「悠真、そういえば部活見学はどこに行く?今日からだろ?仮入部期間。」


 大輝の言う通り、今週から部活見学、いわゆる仮入部期間が始まる。文武両道を謳うこの白麟学園では部活動も盛んに行われており、生徒は特段の事情がない限り、何かしらの部活に所属しなければならない規則だった。


「そうだな…。本当は帰宅部がいいんだけど…。」

「いやいや、部活は絶対だろ?それとも何か部活に入れない事情でもあるのか?」

「う~ん…。一人暮らしとか?」

「何だそりゃ?部活関係ないじゃん。」

「そうだよな…。」


 前世では中学時代に部活に入ったことはなかった。というより、部活に入る余裕がなかったというのが正しかったのかもしれない。両親がそれこそ身を粉にして働いているのに、自分は部活なんてしていいのかという何となく後ろめたい気持ちがあった。


 しかし、ここで私はあることに気付く。「部活」こそ前世でできなかった青春ではないのかと。もう新しい人生なんだ。幸い裕福な家庭に生まれたのだから、部活で青春を謳歌するのもいいかもしれない。


「やっぱり部活に入る。」

「何だ?急にやる気になったな?背中のスイッチでもONにしたか?」

 ごめん、大輝。何を言ってるかわからん。背中にスイッチなんてない。


「なになに?部活の話?」

「そうだよ、紺野。悠真が帰宅部に入りたいって言ってたのに、いきなりやる気出しちゃって。」

「そうなんだ。背中のスイッチONにした感じ?」

 だから何なんだ、その背中スイッチ理論は?


「いや、部活って何か青春って感じでいいかなと思って。」

「ああ、確かにアオハルだよね。」

 アオハル?青春を訓読みしているのか?あれは音読みだぞ。いまは訓読みなのか?わけわからん。


「城田君は何部に入るの?」

「まだ決めてない。桜井さんは?」

「私もまだ…。いろいろあって決め兼ねてる感じかな。」

「美羽ちゃんはピアノやってるんだったら、吹奏楽部とかいいんじゃない?」

「一応それも選択肢ではあるかな…。」

「それとも、城田君と同じ部活に入りたいの?」

「いやっ、違うよっ。もう。」

「吹奏楽部か…。俺、オタマジャクシ駄目なんだよね…。」

「オタマジャクシ?楽譜のこと?そうなんだ…。だけど、楽譜はこれから勉強すれば大丈夫だと思うよ。中学生から吹奏楽始める人も多いみたいだし…。」

「あっ、そうなの?吹奏楽部か…。何か青春っぽくっていいね。」

「城田君の判断基準で『青春っぽさ』なんだね…。」


―――――


 場所は変わり、現在私は中学校の体育館にいる。バスケ部の入部体験に参加するためだ。結局あの会話の後、大輝から「お前、背が高いからバスケ部なんていいんじゃね?」と言われ、紺野さんからも「それいいかも。」と勧められ、今に至る。桜井さんは「わたし運動部はなぁ…」と何故か残念そうだった。


「よしっ!1年生は前に集合!」

 先輩が入部見学に来た1年生全員に声を掛けた。

「俺がバスケ部部長の今井いまい りくだ。白麟学園中等部バスケ部は全国大会出場も経験している部だ。練習も当然厳しいものになる。まずその覚悟をもって入部してほしい。」

「「「「「はいっ!」」」」」


 やばい…。そんな覚悟ない。いやいや、これも青春、青春。


「じゃあ、右端から一人ずつ自己紹介してくれ。バスケ経験者は得意なポジションも教えてほしい。」


 右端の生徒から簡単な自己紹介が行われる。私は左端だから順番的には最後になる。みんなここが強豪校だからと知っているのか、経験者ばかりだ。当然、私は経験者ではない…。すでに心が折れかけている…。


「1年1組の城田悠真です。バスケは未経験者ですが、日々精進して参りたいと思いますので、ご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い致します。」


 私の自己紹介の後、何故か周りがシーンとなった。やっぱり未経験が良くなかったか?だけど、部長の背後に控えている顧問らしき先生は少し笑っているように見えた。解せぬ…。


「ちょっと固いな、1年生。まあ未経験者でも大歓迎だ。」


 それから1週間。仮入部期間はあっという間に過ぎ、結局私はバスケ部に入部した。仮入部期間はひたすらランニングさせられたが、特に苦しいということはなく、難なくこなした感じになった。部長からは「お前はスタミナがあるな。」と褒められた。おそらく転生補正の効果だろう…。

 ちなみに、桜井さんは吹奏楽部、紺野さんはバレーボール部、大輝はサッカー部に入部した。えっ?翔太?彼は料理部に入部したらしい。本人曰く、これからの男子には必要なスキルらしい。今度何か作ってもらおう。


 バスケ部の練習は、月曜日から金曜日の放課後、そして土曜日は朝から夕方までという感じで、しばらくは部活が生活の中心になりそうだ。これで勉強にも力を入れなければならないから、さすが進学校という感じだ。まあ、前世では経験し得なかった充実さがあるから、毎日それなりに楽しくやっている。バスケの基礎練習も転生補正の効果で、すぐに身に付いたので、背の高さの相まって、すでにレギュラー候補になっているとかいないとか。部長と副部長が囁いているのが聞こえただけだが。とりあえず補正様様なので、奢ることなく謙虚に生きたいものだ。


―――――


 入学してから約1ヵ月が経とうとしている。最初はぎこちなかった新入生も、それぞれ委員会、部活など、自分なりの生活スタイルが確立されつつあるようだ。斯く言う私も毎日授業と部活で充実している。学級委員としての活動はそれほどなかったが、忙しいのは2学期以降らしい。2学期は体育祭や文化祭等、多くの行事が控えているから忙しいようだ。藤井先生からはクラスの活動方針みたいなものを決めてほしいと言われたので、桜井さんと相談して、「みんなで仲良く挨拶しよう」という小学生みたいなスローガンを打ち出した。やっぱり挨拶は基本中の基本ということで打ち出したが、意外にもクラスメイトの評判は上々だった。先生からは「城田君が言うと、会社の新入社員みたいな発想に聞こえる。」と言われたが、そこは愛想笑いでカバーしておいた。さすがに前世で社会人経験が長いとは言えない。


 そんな感じでまもなくクラスメイトお待ちかねのゴールデンウィークを迎える時期になった。前世の長期連休に良い思い出はなく、誰もいない家で一人で過ごすか、休日返上で仕事をするかの2択ぐらいしか思い出せない。今思えば、色させた白黒の日々だった。


 今回は部活の練習はあるが、それ以外は予定がなく、両親も帰国しないということなので、一人で過ごすことが多いかもしれない。だけど、前世とは違って、ちゃんと色付けされた環境な気がして、少しワクワクしている。


「はぁ~~。」


 そんなワクワクを掻き消すような溜息のつく人物がひとり。大輝だ。


「どうした、大輝。溜息なんかついて。一応聞いてやる。」

「一応は余計だよ。だってゴールデンウィークの後は中間テストがあるんだぜ~…。何か憂鬱…。テストがあると思うとせっかくの休みも何か楽しめない…。」

「意外だな。大輝は『テストなんか休みの後に勉強にすればいいんだよ』っていう性格だと思ってたけど…。」

「何だよ、その赤点取る奴が立てるフラグは…。お前はいいよな~。授業も問題なく付いていってるから。」

「まあ…そんなことは…。」


 進学校というだけあって、授業のスピードは速い。宿題の量も多い。転生補正がなければ、とっくに音を上げていただろう。だからこそ、あれに必死ながらも付いてこれるクラスメイトがすごいと感心する。


「そうだ。休み中に勉強会しねえ?俺、テストの点数が悪かったら小遣い減らされるって言われてるから。たのむ。」

「勉強会ねえ…。別にいいけど…。」

「なになに?ふたりで勉強会するの?それなら私も入れて。」

「おお、紺野も一緒にやろうぜ。」

 私と大輝の会話を聞いていた紺野さんも勉強会に前向きだった。彼女の横には桜井さんもいた。

「わかった。もしよかったら、桜井さんもどう?」

「!!うんっ!大丈夫!」


 こうして4人で勉強会をすることになった。


 紺野さんが桜井さんをまたからかっていたみたいだけど、二人とも仲いいな。

読んで下さり、ありがとうございました。

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