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第5話:校外学習

ブクマありがとうございます。

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 今日は入学式ということもあって、ホームルームで自己紹介や簡単な連絡事項だけで終了となり、下校時間となった。生徒たちは外で待っている保護者たちと帰宅の途につく。


「あっ、お父さん、お母さん。」


 桜井さんと正門まで来ると、彼女が両親に向かって手を振った。大輝と紺野さんは、それぞれ家族と待ち合わせしており、「また明日」と先に別れた。


「あっ、美羽。こっちよ。新しいクラスはどうだった?」

「うん。今日は自己紹介だけだったけど、何人か友達できたよ。」

「そう、良かった。それで隣にいる男の子はお友達?」

「うん。城田悠真君。」


「はじめまして。城田悠真です。」

「はじめまして。美羽の母です。隣は父です。よろしくね。」

「はい。よろしくお願いします。」


「しっかりした子だな。城田君は。」

「うん。城田君はこの前公園でミケちゃんを助けてくれたの。」

 桜井さんは、父親に先日の公園での出来事を嬉しそうに話していた。


「まあ、そうだったの。それはお世話になったわね。」

「いいえ。たまたま通りかかっただけですから。」

 お礼を言ってくれる彼女の母親に、遠慮してそう告げた。


「そういえば、城田君のご両親は?」

 彼女は私の両親を見かけないことを不思議に思ったのか、あたりを見回した。


「ああ、両親は仕事で海外にいて、いま日本にいないんだ。」

「ええっ、そうなの?じゃあ今はどうしてるの?」

「この春から、学園の近くにあるマンションで一人暮らしを始めたんだ。」

「中学生で一人暮らしなんて危ないわね…。」

 彼女の母親の心配はもっともだ。普通に考えれば、中学生の一人暮らしなんてありえないだろうし、仮に高校生だとしてもまだ早い気がする。

 まあ、前世は60歳で死ぬまでずっと一人、というか独りだったからな…。今さらという感じもあるし、寂しさもあまり感じない。むしろ、一人で気楽だと言ったほうが適している(笑)。


「もし何か困ったことがあったら、遠慮なく言ってね。ねえ、あなた。」

「ああ。君さえ良ければ、たまに食事にでも来ればいい。」

「はい。ありがとうございます。」


 そんなこともあって、彼女とその両親と連絡先を交換することになった。その後、彼女たちと別れて、私も帰宅の途についたのだった。


―――――


 翌日以降というか、今週は学校ではオリエンテーションに時間を費やすようだ。進学校だからいきなり授業が始まるかとも思っていたが、まずは生徒たちの交流を深めることを目的としている。学園の施設案内から始まり、最後の金曜日は校外学習も行われることになっている。校外学習ではグループに分かれて、飯盒炊飯をする予定だと聞かされた。飯盒炊飯とは懐かしい…。


 月曜日の入学式から始まり、木曜日までは午前で終了し、あっという間に金曜日の校外学習の日を迎えた。校外学習は、ここからバスで2時間程度のキャンプ場で行われることになっていた。メインは昼食の飯盒炊飯で、それ以外は自由時間となっている。

 今日の服装は学校指定の体操着とジャージだ。ジャージは制服とは違い、男子は青、女子は赤で統一されている。


 ちなみに、飯盒炊飯のグループは、仲間はずれが出ないよう、4人1グループで構成され、いまの座席で区切られた。俺たちは桜井さん、紺野さん、そして大輝の4人となった。


「なあ、悠真。お前、料理できる?」

「ああ。まあ、一人暮らしで自炊しなきゃだから、ある程度は…。」

「えっ?お前、一人暮らしなの?」

「ああ、そうだよ。言ってなかったっけ?」

「初めて聞いたよ。いいなあ~。気楽そうで。うちの親は口うるさいからな。」

「そんなこと言うもんじゃないよ。一人暮らしも大変なんだぜ。」

「そうなのか?まあ確かにメシとか洗濯とか全部自分でやるんだもんな。」

「ああ、そうだよ。親に感謝しろよ。」

「ははは。何か城田君って私たちと同い年に思えないね。一人暮らしなんて何か大人だね…。」

 大輝との会話に紺野さんが入ってくる。


「確かに、城田君って頼りになりそう。」

 桜井さんも紺野さんの言葉に同意する。まあ、前世で人生を1回分経験済だからな。今世では身体は若返ったが、精神年齢まですぐには若くならない。どうしても「懐かしい」という気持ちが先行してしまう。


「じゃあ、飯盒炊飯は城田君を中心にがんばろうね。」

「紺野さん、それ賛成。」

「おい、大輝。お前もちゃんとやれよ。」

「オレは『味見係』という大事な役割が…。」

「手伝わなかったら、お前メシ抜きな。」

「悠真、オレに厳しくね?」

「「「ははは。」」」


―――――


「じゃあ、とりあえず火をおこすか。大輝、お前の出番だぞ。竈の準備から始めよう。」

「おおっ。とりあえずひたすら扇げばいいんだよな?」

「いや、力任せに扇いでも火は点かないからな?まずは薪と新聞紙で小さい山を作って…。」


 竈内に小さな山を作り、先生を呼ぶ。着火の仕事は先生らしい。生徒たちではまだ危ないということだろう。まあ生徒に火傷させるわけにもいかないからな…。


 山の作り方が良かったからか、点いた火は安定して燃えていた。大輝、とりあえず息を吹きかけなくていいからな。次の仕事やろうな。


 俺と大輝が火をおこしている間、桜井さんと紺野さんは、昼食の下準備をしていた。今日のメニューは飯盒炊飯の定番、カレーライスである。彼女たちは、材料である野菜を切るのを担当していた。火も無事に点いたので、息を吹きかけている大輝を放っておいて(笑)、彼女たちの様子を見に行くことにした。


 彼女たちの様子を見に行くと、桜井さんと紺野さんがすでに野菜を切り終えていた。


「もう終わったの?もしかして待たせちゃった?」

「ううん。さっき切り終わったところ。」

「もう美羽が上手で、ほとんど任せちゃった。」

「そんなことないよ。ひなたも手伝ってくれたし。」

「そうなんだ。桜井さんは結構料理してるの?」

「ううん。お母さんのお手伝いを少ししているだけ。それに、城田君が同い年で一人暮らしをしているって聞いたら、何となく触発されちゃって。」

「いやいや。一人暮らししてるって言っても、そんなに大したことじゃないから。」

「あれっ、さっきは大変だって斉藤君に言ってなかった?」

「えっと…そうだっけ?(笑)」

「「「ははは。」」」


 その後飯盒炊飯は無事に終わり、美味しいカレーライスを食べたのだった。一番食べていた大輝に紺野さんが「斉藤君は何係だったの?」と聞いた時に、「えっと…火を消さない係。」と真顔で言っていたのは少し笑えた。何だ、火を消さない係って?


 飯盒炊飯の後は、自由時間となり、グループで公園内を散策することになった。この公園にはアスレチックも併設されており、中学生でもそれなりに楽しむことができる。そこに行くグループもあれば、学校から持ってきたボールでバレーをするグループもいた。


「ねえ、私たちはどうする?アスレチックに行く?それとも先生から何か借りてくる?」

「そりゃ、アスレチックだろ。なあ、悠真?」

「まあ、それでもいいけど…。桜井さんはどうしたい?」

「うーん。私は何でもいいよ。城田君に任せるよ。」

「そう?じゃあ、大輝のご希望通り、アスレチックに行こうか。紺野さんもそれで大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。じゃあ、早く行こうっ。」


 …結論から言えば、俺たちはいまバレーをしている。アスレチックに行ったはいいものの、思った以上に人気だったらしく順番待ちが発生していたのだ。それを見て大輝が「やっぱり違うのにするか」と早くも諦め、紺野さんも並んでまでは、という感じだったので、結局先生からボールを借りて、バレーをしながら適当に遊んでいる。


 4人しかいないので、試合形式ではなく、トスを長く続けるだけになっているが、これが思った以上に楽しい。やはり若さのせいなのか、こういう単純なことだけでも楽しく感じていた。


「おーい、大輝、そっちいったぞ!」

「よーし、悠真。ナイストス。紺野さん、よろしく!」

「よしっ!任せて!って、ちょっとトスが大きすぎー。おっとっと、きゃっ!」


 大輝のトスが思ったよりも大きかったのか、紺野さんは後ろにジャンプして、ボールを取ろうとした。ボールには触れることはができたが、着地に失敗して転んでしまった。


「ひなたちゃん、大丈夫?」

 桜井さんが心配そうに紺野さんに近付いた。私も大輝もそれに続く。


「紺野、ごめんな。大丈夫か?」

「うん、大丈夫…。痛っ…。」

 彼女は、大輝に大丈夫と答えながら立ち上がろうとしたが、その顔を少し歪めた。どうやら右足を捻ったらしい。


「紺野さん、右足が痛む?」

「うん、ちょっと捻ったみたい。」

「そうか。じゃあ、無理に動かさない方がいいね。先生に言って冷やしてもらおう。」

 校外学習には各クラスの担任だけではなく、保健室の先生も同行している。まずは先生に報告だけど、あまり無理に動かさない方がいいな。


「じゃあ、紺野さん。つかまって。」

「えっ…。」

 私は彼女を背負おうと身体をかがめた。


「ほら、早く冷やした方がいいよ。ちょっと恥ずかしいかもしれないけど。」

「うん…。ありがとう。じゃあ…。」

 彼女はその身体を私の背中に預けた。小声で「私、重くない?」と囁かれたので、「大丈夫だよ。全然。」と小声で返しておいた。


 その後、彼女は、保健室の先生に応急処置をしてもらった。大輝は責任を感じているのか、彼女に「ごめん。」と何度も謝っていたが、彼女は明るく「大丈夫だよ。」と笑っていた。そして俺には「ありがとう。」と恥ずかしそうに礼を言ってくれた。


 ちょっとしたアクシデントはあったが、校外学習は無事に終わったのであった。


 来週からは本格的に授業が始まる。

読んで下さり、ありがとうございました。

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