第40話:文化祭⑤
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次は第50話目指してがんばります。
「おお、みんな似合ってるね。」
藤井先生の明るい声がテンションの上がり具合を示していた。
白麟祭本番を明日に控えた放課後。衣装班が総力を挙げて取り組んだ袴作りは無事に終わり、当日接客をする女子の内、5人が代表して試着してみたのだ。試着したのは、桜井さん、紺野さん、倉本さん、和知さん、そして黒紫さんだ。桜井さんと紺野さんは少し恥ずかしそうに、倉本さんと和知さんは楽しそうに、そして黒紫さんは凛とした佇まいで試着していた。先生の言う通り、みんな似合ってるな。衣装班のメンバーを見ると、その試着姿を見ながら、満足そうな笑みをこぼしていた。斯くいう私も素直に嬉しかった。
「何とか間に合ってよかったね。」
隣にいた大和さんに声をかける。
「えっ?う、うん。間に合ってよかった…。し、城田君もありがとう。いろいろ助けてくれて。」
「いやいや、こっちの方だよ。助けてもらったのは。いろいろ教えてくれてありがとう。」
「ううん。全然…。と、とても楽しかったよ。」
「俺も楽しかったよ。」
「!!!あ、ありがとう。」
彼女は少し俯きながらその場を後にした。その瞬間、口元が緩んでいるのが見えた気がした。
「ねえねえ、どう城田君。私たちの袴姿は?」
「えっ?」
彼女が去るのを眺めていると、後ろから声をかけられた。振り返ると倉本さんたちがいた。
「あ~、いま大和さんのこと見てたでしょ~。彼女のことが気になるの~?」
「えっ、いや、そういうわけじゃ…。」
「もう、こっちにも可愛い女子がこんなにいるのにねぇ~。ねえ、美羽。」
「えっ、私?えっと…、うん…。どうかな…?この恰好…。」
「うん。みんなとても似合ってるよ。可愛い。」
「だって~。みんな良かったね。」
「そうですね。試着した甲斐がありましたね。」
「黒紫さん、よく似合ってる。凛とした佇まいだね。」
「あら、私だけさらにお褒めの言葉をもらいましたね。ふふふ。ありがとうございます。」
「え~。紗奈だけずるい。」
「確かにそうですね~。私たちにも何か言ってほしいです~。」
「ええ~…。みんな可愛いよ。」
「何か雑な感じにされたけど、まあ許してしんぜよう。」
「はは~。ありがとうございます。」
「「「ははは。」」」
倉本さんの言葉に振り回されつつも、明日の本番に向けて準備を進めていくのであった。
―――――
倉本さんたちが羨ましいと思った。
倉本さんや桜井さんは、いつも城田君と一緒にいた。テスト前には図書室で一緒に勉強しているのも見たことがある。
白麟祭の準備は楽しかった。衣装を作るのは大変だったけど、事前におじいちゃんに教えてもらったのが功を奏したのか、特に問題はなく製作は進んでいった。衣装班のみんなとも仲良くなれたし、新しい友達もできた。だけど、それよりも城田君と同じ班で毎日お話しをできることが嬉しかった。相変わらずのあがり症でまともに会話はできなかったけど、そんな私にも城田君は明るく優しい口調で話してくれた。私の裁縫も褒めてくれた。私にとって、趣味は読書とこの裁縫ぐらいだったから、それを好きな人に褒められて嬉しかった。
だけど、そんな楽しい時間も終わりを迎えてしまった。袴が完成してしまったのだ。多少の手直しはまだ必要なんだけど、彼と楽しくお話ししながら作業するのは今日で終わりだ。倉本さんたちが試着していたけど、やっぱりみんな可愛いからよく似合ってると思った。あの場に自分がいないことが、当然のような気もしつつ、少し悔しい気もしていた。私もあそこに交じって、彼と楽しくお話しできればなと思った。城田君はみんなのことを可愛いと褒めていたけど、私もそんな風に彼に褒められたらなと、叶いそうもない淡い思いを抱いていた。
白麟祭が終われば、また私たちはいつもの挨拶する関係に戻ってしまう。そう思うと、何だか胸が苦しくなって、いたたまれない気持ちになった。あの光景を見るのも辛くなってしまう。思わずその場から逃げ出したくなったけど、みんなで明日の準備をしている以上、そういうわけにもいかなかった。
「じゃあ、試着はこれでOKだね。汚れるといけないからしまっておきましょう。」
藤井先生の言葉に倉本さんたちが頷き、彼女たちは更衣室へと戻っていった。
「これで準備は何とかなりそうだね。明日から本番だから、今日はしっかり休んでね。みんなが思っている以上に、来園者が多いからね。それと、みんな当日の役割もしっかりやってもらうのもそうなんだけど、自由時間もあるからちゃんと楽しんでね。」
「「「「「は~い。」」」」」
先生の言葉にクラスのみんなが明るく返事をする。私は声にならずに、少し頷いただけだった。
自由時間…。クラスのみんなはやっぱり友達と回るのかな…。私はどうしようかな…。穂香ちゃんと一緒に回ろうかな…。だけど、彼女と自由時間が一緒になるかわからないな…。こういう時に友達が多い人は羨ましいと思ってしまう。私みたいに限られた交友関係だとすぐに独りになってしまうから。私はみんなと騒ぐのは得意じゃないけど、別に嫌いじゃない。せっかくの文化祭だし、どうせなら誰かと楽しく過ごしたい。
城田君はどうするんだろう…。きっと、斉藤君や大倉君と回るのかな。もしくは桜井さんや紺野さんかな。彼のまわりにはいつも人が集まるから、私みたいに独りになったらどうしようという悩みもないんだろうな…。
だけど、彼が女子たちと一緒に回ると考えたら、胸がチクっとした気がした。これが小説で読んだ「嫉妬」という気持ちなのだろうか。最初は挨拶するだけで嬉しかったのに、今回の準備を通して、自分自身が欲張りになっている気がする。私も彼と一緒に過ごしたいと考えてしまう。だけど、彼を誘うになって勇気は、これっぽっちもなかった。どうしても私なんかが…、と思ってしまう。
「大和さん、袴を返したいのですが、どうすればいいでしょうか。先生に訊いた方がいいでしょうか。」
そんなことを考えていると、黒紫さんに声を掛けられた。だけど、意識が別の場所に行っていたこともあって、反応が遅れてしまう。
「えっ、あ、大丈夫です。まだちょっと手直ししたくて、今日は家に持って帰るつもりですから。」
「そうですか。じゃあお願いします。あまり無理しないで下さいね。」
黒紫さんは城田君と同じように優しい。それでいて可愛くて、頭も良くて。ちょっとずるいと思ってしまう。だめだ…。自分の中に出てきた醜い気持ちがどんどん強くなる。だけど、一方でわたしって、こんな気持ちを抱くことがあるんだなと、どこか他人事に思っていた。
私は袴を受け取り、二つの大きな紙袋に分けて入れた。今晩あれば、手直しは終わるだろう。それを明日持ってくれば、それで衣装班としての仕事は終わり。
「大和さん、それまだ手直しするんでしょ?良かったら手伝うよ。」
いきなり声を掛けられてすぐに反応できなかった。ううん。声を掛けられたからじゃない。まさかあの人から声を掛けられると思ってなかったからだ。
城田悠真君。
彼から突然声を掛けられ、どう答えていいかわからなかった。
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