第39話:文化祭④
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「学校見学会ですか?」
白麟祭当日まであと1週間に迫ったある日の放課後。今日も白麟祭の準備と意気込んでいたが、突然藤井先生から職員室に呼び出された。呼び出されたのは、私と桜井さんだった。そこで聞いたのが、先の学校見学会の話だった。
「そう、学校見学会。白麟祭では今後学園を受験する小中学生に学校見学会を行うのは知ってるよね?君たちにはその役員をやってもらいたいと思って。」
「役員?」
「学校案内したり、受験生の相談相手になったりね。来年受験する予定の小学生からしたら、君たち1年生が一番頼りになる情報を持っていると思われているからね。」
「なるほど…。しかし、そうなると、クラスや部活の模擬店には…。」
「まあ、毎年そういう生徒には、一時的に当番を外れることになるね。クラスや部活のみんなにも協力してもらわなきゃいけないけど、必ず各クラスから男女1名ずつの計2名出すことになっているんだよね。毎年たくさんの見学者が来るからね。」
「わかりました。そういうことであれば引き受けてもいいです。」
「私も、城田君が引き受けるなら…。」
「ありがとう、二人とも。早速なんだけど、明日の放課後に役員会があるから、出席してね。」
「「はい。」」
そういうわけで、学校見学会なるものの役員をすることになった。前世ではなかったイベントだ。こういうのは進学校ならではなのだろうかと思いつつ、そういえば高校見学会もあったなと薄い記憶を呼び起こす。
「なんか、大変そうなことになっちゃったね。私なんかで務まるかな…。」
桜井さんは如何にも不安そうな面持ちで、気持ちを吐露した。
「桜井さんなら大丈夫だよ。しっかりしてるし、可愛いし。」
「!!もう、からかわないでよ。結構不安なんだから…。それに可愛いなら、私なんかよりも黒紫さんの方が…。」
「そう?確かに黒紫さんも可愛いけど、桜井さんも普通に可愛いと思うけど。」
「もう、そんなことないよ…。でも嬉しい。ありがと。何か城田君となら役員も安心かな。」
「そう?俺、あまり自信ないけど…。」
「ふふふ。城田君でもそんなことあるんだね。いっしょにがんばろ♪」
桜井さんは何故か嬉しそうな表情をし、私の先を歩いていった。スキップでもするように。
翌日の放課後。
多目的教室に学校見学会の役員が集められた。各クラス2名ということは1学年10名、全学年で30名ということになり、それなりの人数になる。まだ役員会が始まっていないのもあって、各学年和気藹々としている。
教壇には何人かの生徒が何かを話し合っている。上履きの色を見ると3年生だとわかる。ちなみに中学校は上履きの色によって学年が判別できる。3年生が赤色、2年生が黄色、そして私たち1年生が青色。白い上履きに各学年の色の筋が入っている感じだ。
教室の端には先生が座っているが、どうやら役員会の進行は彼らに任せるらしい。そんなことを考えていると、教壇にいた女子生徒がこちらを向いた。
「それでは、学校見学会の役員会を始めます。今回の学校見学会はいつも通り、生徒会が中心になって行いますので、よろしくお願いします。」
生徒会。前世でもそうだったが、生徒会と聞くと、どこか自分とは関係のないというか、住む世界が違う住人のようなイメージがあった。その証拠に、前世の中学校時代での生徒会の記憶は全くといっていいほどない。その生徒会が、いまこうして目の前にいて、これから一緒に事にあたるというのが不思議な感覚でもあり、新鮮な気持ちでもあった。
「まずは初めての人もいると思うので、私たちの自己紹介からしますね。私は生徒会長を務めている3年の斉藤朱莉です。」
「同じ3年の副会長の向田陽大です。」
「2年で書記の清水咲だよ。」
「2年会計の湯川武史だ。」
生徒会メンバーの簡単な自己紹介の後、私たち役員も簡単に自己紹介をして、早速議題へと移った。斉藤先輩がまた話し始める。
「毎年、白麟祭とともに行われる学校見学会には多くの小学生やその父兄が参加されます。内容としては学校の施設案内やレクリエーション、受験の個別相談等を行います。また、去年役員をしてもらった人はわかると思いますが、担当時間を決めて、学園の各所に立って、白麟祭に来た方々の案内・誘導も行いますので、結構忙しくなると思って下さい。もちろん、役員のみなさんにも白麟祭を楽しんでもらうため、自由時間は設けます。なお、学校としても父兄向けへの受験説明会は別途行われる予定です。ここまでで何か質問はありますか?」
質問は特に出なかった。先輩たちは勝手を知っているから、特に尋ねることもないのだろう。しかし、ふと同級生を見渡してみると、役員のイメージ像が浮かばないのか、もしくはやることが多岐に渡ることに驚いて困惑しているのか不明だが、何を質問すればいいかわからないという表情に見えた。隣の桜井さんも、メモはとっていたが、言われた内容を整理するような表情をしていた。斯くいう私も思った以上にやることが多いことに驚いていた。これにクラスや部活の模擬店当番が入ってきたら、楽しむ時間がないのではとふと不安に思ってしまう。
「特に質問もないようなので、先に進めますね。生徒主催のレクリエーション以外については、基本的に男女のペアで動いてもらうことになります。クラスは違っても構いませんが、学年は同じです。学校の施設案内とレクリエーションの準備は主に3年生と2年生、受験相談は1年生を中心に2年生が一部入るという感じです。もちろん、1年生にも施設案内やレクリエーションに協力してもらうこともありますので、そのつもりでいて下さい。
さて、より具体的な内容については、配布した資料をもとに説明します。」
その後、斉藤先輩から学校見学会の全体スケジュールや学校案内の順番、レクリエーションの式次第、受験相談の注意点等について説明を受けた。さすがは全国でも有数の進学校。見学会ひとつを取っても、力の入れ具合が相当なものであると感じた。
「説明は以上です。見学に来られる方は、私たちの姿を通して、白麟学園の良し悪しを判断します。だから、特にここにいる見学会に携わるみなさんは、学園の模範として当日動いてもらうようにお願いします。さて、最後に残りの時間で、各学年のリーダーを決めて下さい。リーダーには生徒会からの連絡事項の伝達や当日のフォロー等を積極的に行ってもらいますので、そのつもりでいて下さい。」
というわけで、学年ごとでリーダーを1名決めることになった。早速、教室内で各学年に別れて話し合いが始まる。
「………。」
「………。」
「………。」
1年生10名で車座になったものの、どうやって決めたらいいかわからず、誰も発言しようとしない。他の人の様子見という感じだ。仕方ない…。ここはある意味年長者の私が、前世で培った社会人スキルで進めることにしよう。
「えっと…、誰か、やりたい人いる…?」
すみません。スキル低すぎました。本当ならもっと闊達に進めるイメージを持っていたが、これで精一杯感が出てしまった。
「はい。」
そんなことを思っていると、一人の女子が手を挙げた。
「はい。えっと…。前島さん。」
挙手したのは、3組の前島栞さん。ショートヘアがよく似合う可愛らしい人だった。
「あっ、うれしい。名前覚えてくれたんだね。」
「まあ、さっきみんなで自己紹介したしね。」
「ありがと。それでリーダーなんだけど、城田君を推薦します。」
「えっ、俺?」
「そう。だって成績も学年トップだし、何かこういうのに向いてそう。」
「成績は特に関係ないんじゃ…。」
「しかも、こういう場でも積極的に決めようとしたし、リーダーに向いていると思うな。みんな、どう?」
前島さんに訊かれた生徒たちは、声には出さないが思い思い頷いているように見えた。すると隣で手を挙げた人物がいた。桜井さんだった。
「私も城田君がいいと思います。しっかりしていて頼りがいもあると思いますし…。」
桜井さんの意見に前島さんが賛同の意を示し、特に反対意見も出なかったことから、私が学年リーダーに決まってしまった。
当日がてんやわんやしそうで、少し不安になってしまった。
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