第38話:文化祭③
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いよいよ白麟祭の準備期間に突入した。
準備期間中はLHRや放課後、土日祝日も準備に充てることができ、その期間の部活動も試合等を除き、一部休止されることになっている。とはいっても、部活によっては模擬店を出すところもあるため、生徒からすると忙しさが半減されるわけではない。
クラスの準備は、衣装班、内装・外装班、調理班に分かれ、各自準備にあたっている。私は内装・外装班かと思っていたが、実は手芸部のメンバーとともに衣装班に回された。どうも手先が器用だからという理由らしい。
前世では全くの不器用で、中学校の美術や家庭科の時間でも、まわりから「不器用だね。」ではなく、「かわいそう…。」と言われるレベルだったので、最初は思った通りに動く自分の手先に戸惑った。どうやらこれも転生補正のおかげのようだ。転生補正…凄すぎる。
「大和さん、ここはどうすればいい?」
「え、えっと、ここは、こうやって…。」
「あ、なるほど。大和さん、さすが手芸部だけあって、教えるのうまいね。」
「そ、そう。ありがとう…。」
大和さんは私の隣で少し恥ずかしそうに微笑んでいる。
衣装班はいま5人のクラスメイトが車座になってせっせと裁縫に勤しんでいる。ホームルームで袴を着るのは接客をする5人だけになったので、最低5人分は必要になる。それに予備の1着を含めて、全部で6着分用意するということになった。時間があまりないので黙々と作業している。
一方で、内装・外装班は大輝が、調理班は翔太が中心となって準備に当たっている。翔太は料理部だけあって、手際がいいらしい。
「そういえば、手芸部は何か模擬店は出すの?」
「え、えっと…。模擬店は出さないよ。そ、その代わり各自の作品を展示する予定。」
「そうなんだ。じゃあ大和さんも。」
「う、うん。一応…。」
「じゃあ見に行くね。」
「う、うん!がんばる!」
私たちの作業は続く…。
―――――
「それではこれより城田君大好きの会を行います。」
「はい~。」
「うん…。」
「う、うん。」
「はい。」
「いや~、何か久しぶりだね。このメンバーで集まるの。」
「そうですね~。」
「そうだね…。」
「そ、そうだね。」
「そうなんですね。」
「それで今日の議題は…。」
「ちょっと待って、凛ちゃん。」
「なに、どうしたの?美羽。」
「えっと、どうして、紗奈ちゃんがいるの…?」
「あ、そうか。紗奈は今日初めてか。えっと、今日から黒紫紗奈さんが、このメンバーの仲間入りをすることになりました。みんな拍手ー!」
「「「パチパチ」」」
「えっ!なんでみんなそんな自然なの?」
「えっ、だって、紗奈も彼がね…。ね、紗奈。」
「はい。私も皆さんと同じように、城田君が好きになりました。」
「えっ、本当に?」
「もしかして美羽。気付いていなかったとか~?」
「そ、そういうわけじゃないけど…。」
「なら、いいでしょ。仲間は多い方がいいし。」
「仲間、仲間…。そうだよね。えっ、仲間?ライバルじゃなくて?」
「良きライバルでもあるし、良き友でもあるってことよ。それとも、美羽はいきなり現れた私たちの知らない女子に彼を取られてもいいの?」
「そ、それは良くはないけど…。」
「でしょ。それに紗奈はいい子だし。」
「うん。わかった。ごめんね、紗奈ちゃん。これからよろしくね。」
「はい、桜井さん。よろしくお願いします。」
「それよりも~、凛はずっと城田君のこと『彼』って呼んでますね~。」
「そうだね。私も気になってた。」
「うそっ。やば、無意識かも…。まあ、体育祭であんなことされるとね。」
「あんなことって、クラス選抜リレーのこと?」
「そう。だって私が転んじゃったのに、彼が最後1位でゴールしてくれて、とてもかっこよかったよ~。」
「だって、凛たら、みんなの前で抱き着いてたもんね。」
「もう、それを言わないで、ひなた。」
「あれは大胆でしたね~。」
「あれで、他の城田君ファンを敵に回したかもね。」
「もう、怖いこと言わないでよ。そんなこと言ったら、美羽も似たようなもんでしょ。」
「えっ、私?」
「そうだよ。一日に2回もお姫様抱っこされるなんてズルいよ。」
「いや、あれは競技というか、アクシデントというか…。」
「でもお題が『可愛い子をお姫様抱っこ』だったんでしょ?少なくとも彼には、美羽がそう見えてるってことだよね。なんか先越された感じ~。それにリレーで保健室に運ばれた時も、何か時間かかってたみたいだし~。何かあったでしょ?」
「えっ…。いや、何にもないよ…。」
「顔を赤くして、そんなこと言われても説得力ないよ。ほら吐いちゃいなよ。」
「ええっ。だから何もないよ…。ただね、私、その、保健室で涙が出ちゃって。そしたら彼が『大丈夫。俺が何とかしてみせるから。だからもう泣かないで。』って言ってくれて…。」
「なにそれ~。めっちゃかっこいいんだけど。いいな~、美羽は。」
「美羽も『彼』呼ばわりになってますね~。」
「えっ、やだっ。恥ずかしい…。そ、それよりも紗奈ちゃんも最近は仲いいよね。」
「急に私に振ってきましたね。そうですね。体育祭の時も二人三脚で一緒でしたけど、最近は家にお誘いしました。」
「「「えっ?」」」
「なにそれ?聞いてない…。てか、彼が家に来たの?」
「はい。昼食にお招きしました。妹も会いたがっていたので。」
「妹か~。前に写真で見せてもらったけど、芽衣ちゃんだっけ?紗奈の妹さんかわいいよね。」
「ふふふ。ありがとうございます。」
「それで?」
「それでとは?」
「だから、それでどうだったの?彼を家に招いた様子は。」
「母と妹と4人で昼食を食べて、その後は私の部屋で話をしていましたね。」
「芽衣ちゃんも?」
「いいえ。芽衣は途中で寝てしまったので…。」
「えっ、じゃあ、部屋で二人きり?」
「えっ?まあそうなりますね…。」
「いいなあ~、お家デートか~。」
「そうですね~。うらやましいですね~。」
「それってデートにカウントされるんですね。」
「当たり前だよ~。私もお家デートしてみたい。」
「でも、倉本さんは一緒にお出かけしたことがあるって聞きましたけど。」
「そりゃあるけどね。まああの時は美月と3人でだったし。やっぱり二人きりでデートしてみたいな…。だけど、そうすると紗奈が一歩リードしてる感じ?」
「そうでしょうか…。私は桜井さんがリードしている気がしますが…。」
「わ、私?」
「確かに。だって美羽も彼を家にお招きしたんでしょ?」
「「「えっ?」」」
「なにその話?報告きてないけど…。」
「だ、だって、あれはうちのお母さんが誘っただけで。一緒に夕食を食べただけだよ。それに…。」
「それに?」
「それに部屋には入れてない…。」
「ははは。ちょっと拗ねた美羽も可愛いよね。凛会長。」
「確かに。さすがは彼に可愛い子認定されただけはあるね。」
「もう、やめてよっ。」
「さて、本日の議題なんだけど…。」
「やっと本題なんですね。」
「まあね。最近、大和さんと彼が急接近してる件について。」
「やっぱり会長もそう思います~?私も気になってました~。」
「最近は白麟祭の準備でよく一緒にいるよね。」
「彼、なんでもできちゃうからね。まさか裁縫まで得意だとは思わなかったけど。」
「さりげなく、ひなたも『彼』呼ばわりですね~。」
「えっ、ほんとだ。みんなのうつってきちゃったかも。」
「確かに、最近は彼女とよく一緒にいるところを見ますね。でもそれは作業でいる時間が長いからだけなのでは?」
「甘いね、紗奈。彼と一緒にいる時間が長いということは…。」
「彼の無自覚攻撃で晒される危険が高いということだね。」
「さすが、ひなた。わかってる~。」
「確かに…。彼の無自覚攻撃は強力だよね。」
「それにね…。」
「「「うん?」」」
「もう、大和さんは絶対彼のこと好きになってる。」
「「「………。」」」
「黙ってるということは、みんなも薄々気付いてた?」
「やっぱりって感じかな。彼女そんなに笑ったところ見たことなかったけど、彼と一緒にいると、何だか嬉しそうに見える。」
「私にもそう見えた。」
「私もです~。」
「これはこれは。彼女もこの会に誘わなきゃだね。」
城田悠真の知らないところで、彼女たちの密談?は続く…。
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