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第35話:黒紫さんの不安

ブクマ、いいねありがとうございます。

 芽衣ちゃんの思わぬ爆弾投下はあったものの、私たちは黒紫さんの家に着いた。新築の一軒家なのか、外装がきれいな白色で新しい印象を受けた。


「じゃあ、どうぞ。城田君」

 黒紫さんはさっきまでの恥ずかしそうな雰囲気はすでになく、丁寧に案内してくれる。


「どうぞ~。おにいちゃん。」

 芽衣ちゃんもお姉さんを真似して案内してくれる。やっぱりかわいい。お家に持って帰りたい(笑)。まあ、黒紫さんには言えないけど。言ったら絶対引かれるから。


「お、お邪魔します。」

 一方で私は少し緊張した面持ちで家に入る。女子の家に入るのは、桜井さんの家を含めて2度目になるが、あの時は急なお誘いだったため、緊張する暇がなかった。

 しかし、今回は事前にお誘いを受けているので、正直緊張している。前世では当然女子の家に行ったことはなかったので、どうしたらいいかわからず、社会人の時の経験で菓子折りを持ってきてしまった。しかし、それはすでに黒紫さんに笑われてしまったので、やはり普通の感覚ではなかったらしい。

 確かに今にして思えば、読んできたラノベでも菓子折りは登場しなかったな…。やっぱりケーキにすれば良かった…。えっ…、なにを持ってきたって?お饅頭です。理由?無難だったから…。


「おかあさーん。おにいちゃん、きたー!」

「こらこら。玄関でそんな大声出さないの。芽衣。」

「へへへ。」

 この人が黒紫さんのお母さんか。彼女に似てというか、彼女の可愛さはお母さん譲りなんだな。きっと彼女も大人になったら、こういう美人な人になるのだろう。


「いらっしゃい。城田君。」

「あっ、この度はお招き頂きましてありがとうございます。」

 そんなことを考えていたから、お母さんの言葉にすぐに反応できなかった。


「ふふふ。紗奈から聞いている通り、大人びているのね。そんなどこかの会社員みたいな挨拶を娘の同級生から聞くとは思わなかったわ。」

「ええと…。すみません。」

「ふふふ。いいのよ。紗奈の友達がしっかりした人でよかったわ。」

「あ、ありがとうございます。これは皆さんでよかったら、召し上がって下さい。」

 私は畏まりながら、持参した菓子折りを渡す。

「ふふふ。菓子折りまで持参だなんて。いよいよ娘の同級生には見えなくなってきたわね。」

「わーい。かしおり、かしおり。」

「こら、芽衣。そんな大声でしゃべらないの。行儀悪いわよ。」

「ごめんなさーい。」

 芽衣ちゃんは「菓子折り」という言葉を気に入ったらしい。こういう小さい子供は新しい言葉を覚えると、すぐに使いたがるからな。その姿もかわいらしい。


「さ、上がって下さい。ごめんなさいね。玄関先で。」

「いいえ。お邪魔します。」


―――――


 昼食の献立は大盛りのからあげだった。大好物でテンションがあがる。実は玄関先でもいい匂いが漂っていた。


「さあ、たくさん食べてね。城田君は身体が大きいからいっぱい食べそうだわ。私も作りがいがあるわ。」

「おにいちゃんは、めいのとなりね。」

「あらあら、芽衣がすっかり懐いちゃって。」


 4人で食卓を囲む。今日はお父さんはいないようだ。


「紗奈の父親はね、地方に単身赴任で、普段は家にいないの。だから男の人を家に上げるのは久しぶりだわ。」

 私の疑問を悟ったのか、お母さんは教えてくれた。


「えっ、そうだったんですか。でも、よかったんですか?子供とは言っても、その、男の人を家に上げて…。」

「いいのよ。娘の大切な人だもの。」

「ちょっと、お母さん…。その言い方だと誤解を生むわ。」

「あら、誤解ってどんな?」

「もう…。なんでもないわ。」

 黒紫さんとお母さんの会話に入っていくことができない。


「おにいちゃん。からあげおいしいね~。」

 芽衣ちゃんは通常運転らしい。


「そうだね。芽衣ちゃんはからあげが好き?」

「うん、だいすき。おかあさんのからあげは、せかいいちなの。おにいちゃんは、からあげすき~?」

「うん。大好きだよ。」

「じゃあ、おにいちゃんは、からあげにこくはくする~?」

「えっ?告白?」

「こら、芽衣。」

「なになに。芽衣がそんな言葉を覚えるなんて。芽衣、その言葉は誰に教えてもらったの?」

「ううんとね~。ゆうまおにいちゃん。おねえちゃんはおしえてくれなかったの。」

「ちょ、ちょっと芽衣…。」

「そうなの~。なになに、ここに来る間に告白するしないの話にでもなったの?お母さん気になるわ~。」

「もう、やめてよ。お母さん。恥ずかしいから…。」

「あらあら、娘がこんな顔をするなんて…。でも城田君ならいい子じゃない。」

「もう、本当にやめて、お母さん!」

「ふふふ。冗談よ、冗談。ちなみに城田君はうちの娘なんてどう?」

「ちょ、ちょっと…。」

「何よ~。別にいいじゃない。ねえ、城田君。」

「い、いや、その…。」

「ほら、城田君だって困ってるじゃない。」

「え~。そうなの。じゃあここまでにしておくわ。ほら、城田君。ご飯おかわりいる?」

「お願いします…。」

「どんどん食べてね~。」

「おかあさーん。めいもおかわり。」

「はいはい。」

 昼食は滞りなく?進んでいった。


―――――


「…こうしてお姫様は王子様と一緒に幸せに暮らしましたとさ。」

 昼食後、芽衣ちゃんから絵本を読んでとせがまれ、彼女を膝に乗せて、絵本を朗読して上げた。たぶん黒紫さんもよくやっているんだろうな。しかし、お話を読み終えた時、規則正しい寝息が聞こえた。芽衣ちゃんは途中で寝ちゃったようだ。


「あらあら、この子ったら。は~い。向こうでお昼寝しましょうね。」

 芽衣ちゃんはお母さんが連れていった。

「紗奈、城田君を部屋に案内したら。あとで何か持っていくわ。城田君はコーヒー?それともジュースかしら?」

「あの、じゃあ、コーヒーで…。すみません。」

「わかったわ。じゃあ紗奈よろしくね。」

「うん。じゃあ行きましょうか。」

 黒紫さんの案内で2階へ上がる。私はまた緊張していた。女子の部屋に入るのは初めてだ。桜井さんの時もリビングまでだった。別にやましいことは、これっぽっちも考えていないけど、やはり緊張はしてしまうようだ。


「ここが私の部屋です。」

 扉には「SANA」というルームプレートが掛けられていた。中に入ると左手にピンクにベッド。右側に勉強机があって、その間に小さなテーブルとクッションが置いてあった。いかにも彼女らしい整理整頓された部屋だった。やっぱり読書好きなのか、本棚には小説がびっしり並べられていた。


「適当に座って下さい。」

 彼女に促されるまま、私はテーブル近くにちょこんと正座した。

「ふふふ。別に正座じゃなくてもいいんですよ。」

「あ、そうだね…。」


「………。」

「………。」


 会話が生まれない。お母さんがお茶を持ってきてくれるみたいだが、それまでの時間が異様に長く感じた。


「えっと、やっぱり芽衣ちゃんはかわいいね。」

「そうですね。かわいいです。実はあれで芽衣は人見知りなところがありますから、城田君に懐いてくれて安心しました。」

「そうなんだ。全然そんな感じには見えないけどね。」

「私も小さい頃は人見知りだったと母からは聞きました。」

「そうなの?いまの黒紫さんは想像もできない。」

「ふふふ。学校で友達ができ始めて、次第に無くなっていったみたいです。」

「そっか~。でも学校でももう友達できてるし、よかったね。」

「はい。城田君のおかげです。」

「えっ、俺の…?」

「はい。前にも少し話したかもしれませんが、ここに引っ越すことが決まり、学校が変わるとわかった時、とても不安でした。仲の良い友達と離れて、また新しい人と関係を作っていけるのかなと…。しかも妹の芽衣はまだ小さく、単身赴任でいないお父さん、仕事で留守にすることが多いお母さん。自然と芽衣の世話は私の役目になっていきました。だから、学校からもすぐに帰宅しなければならないので、部活や学校帰りの寄り道もできない。それ自体に不満を持ったことはありませんが、そんな普通とは少し違う生活をする私にちゃんと友達ができるのかなっていう不安がありました。そんな時、城田君に会ったのです。」

「図書館での話?」

「そうです。あなたは初対面にも関わらず、私と芽衣によくしてくれました。だからあなたと別れる時、ああいう友達が新しい学校にいればいいなと思いました。」

「そうしたら、実際にいたと…。」

「その通りです。まさかと思いました。それと同時に不思議と緊張感も薄れました。いてほしいと思った知り合いがいたのですから。そして城田君から桜井さんや倉本さんも紹介してもらって…。当初の私の不安はきれいに消えました。ありがとうございます。」

「いやいや、俺は何も…。きっと黒紫さんなら俺なんかいなかったとしても友達がたくさんできていたよ。」

「ふふふ。そういうことにしておきます。これからもよろしくお願いしますね。」

「こちらこそ、よろしく。」


 彼女も不安を抱えていたんだなと気付き、またそれがみんなのおかげで解消されたことが、何故かとても嬉しかった。


 あとでお母さんから、「なに~。二人で秘密の話~?」と揶揄われたのは、また別の話。

読んで下さり、ありがとうございます。


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もし「おもしろい」「続きを読みたい」と思われた方は、宜しくお願い致します。


また、感想もお待ちしております。

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