第26話:男同士の一幕
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夏休みの話は以上で終了です。
次回から2学期が始まります。
夏休み最後の週末。
今日はみんなでプールに来ている。私の最寄駅から電車で小一時間程度の場所にあり、地域では最大級を誇る全天候型室内プールだ。夏休み最後の週末とあってか、結構な賑わいをみせている。
「なあ、女子たちってどんな水着かな?」
「さあ、どんなんだろうな。悠真はどう思う?」
「わからん。」
私と大輝、翔太で女子たちが着替え終わるのを待っている。やっぱりこういう時は女子は時間がかかるものだ。自分たちは履くだけだからな。ていうか、翔太の恰好は変わっていない。まさか駅からすでに水着着用だったとは。用意がいいというか気合を感じる。
「みんな、お待たせー!」
倉本さんが小走りで大きな声を上げながらこちらに近付いてくるのが見えた。
「ごめんね。待たせちゃって。女子の更衣室混んでて。」
「いいよ。全然大丈夫。」
「どう、城田君。私たちの水着は?」
「みんな似合ってる。可愛いよ。」
「そう?だって、みんな。一緒に選んだ甲斐があったね。」
「みんなで買いに行ったの?」
「そうだよ。この前みんなでね。」
倉本さんと和知さんは白を基調としたフリルの付いた水着。桜井さんはピンク色、紺野さんは水色のワンピースタイプの水着だった。みんな可愛らしい。それにしても倉本さんって着痩せするタイプだったんだな。結構スタイルがいい。
ふとそんなことを考えていると、右腕を掴まれる感触があった。桜井さんだった。
「ねえ、凛ちゃんのこといやらしい目で見てたでしょ?やっぱり、あういうスタイルがいい子がタイプなの?」
なにこの可愛い生き物は?上目遣いの攻撃力が半端ない。
「そ、そんなことないよ。桜井さんだって、十分魅力的だよ。」
「もう、うまいこと言って。そういうことにしといてあげる。」
「ほ、本当だって…。」
とりあえず全員集合したので、早速遊ぶことにした。ここのプール施設は流れるプールや大きな波が出るプール、ウォータースライダー等、遊ぶものが十分ある。
流れるプールで浮き輪でプカプカ浮いて楽しんだり、波が出るプールで大声で叫んだりと、自分でも子供だなあと思いながらも、思いっきりプールを満喫した。ウォータースライダーはペアで滑る必要があるため、誰とペアで組むかで女子たちが相談していたが、結局私は女子たち全員とペアを組むことになり、計4回ウォータースライダーを滑った。みんなそれぞれ違う反応で楽しかった。桜井さんは思ったより怖かったのか、後ろで私にしがみついていたので、少し緊張してしまった。ちなみに大輝と翔太はペアでめちゃくちゃ楽しそうに4回滑っていた。
一通り遊んだ後、施設内のレストランで昼食を取り、またプールに繰り出した。いまは女子たちが波の出るプールの岸で水を掛け合いながら遊んでいる。大輝と翔太は昼食を食べ過ぎたせいで、プール内に設置されているパラソルで休んでいる。少しは自重しろと思いながら、私も彼らと一緒に休んでいた。
「なあ、悠真。」
「なんだ、大輝。」
「お前って結局誰が好きなの?」
それは唐突な質問だった。彼の予想外の質問にすぐに答えることができなかった。翔太も「それ俺も気になってた。」と話に入ってくる。
「どうしたの急に?」
「だって気になるじゃん。桜井たちはみんなお前のことが好きみたいだし。あいつらに限らず、お前が女子に人気があるってのは男子たちの間でも有名だからな。」
「そうなの?」
「そりゃそうだろ。女子の言葉を借りるわけじゃないけど、勉強もできて、運動神経も抜群。顔も良くて、性格までいいときたら、女子は放っとかないって。」
「確かに。俺も大輝も恋愛にそこまで興味があるわけじゃないけど、悠真が誰が好きなのかは気になる。」
「そうなのか。あまり自分では意識したことないからわからないけど…。」
「それ、まわりの友達も言ってたぜ。悠真はモテるくせにちょっと鈍感過ぎるって。」
「やっぱりそうなのかな…。倉本さんとかからは無自覚とは言われるけど…。」
「まさか、あの4人の気持ちにも気付いてないとか?」
「いや、それはない…。さすがに好意を持たれてるのかなとは感じてる。」
「そうか。だけどその様子だと特定の人が好きっていうわけじゃなさそうだな。」
「そうだな。正直よくわからない。これまで人を特別好きになったことないから。」
「まあ、俺らまだ中学生だからな。そういうのはこれから経験していくんだろうけど。」
「大輝、結構大人だな…。」
「お前がそれ言う?たぶん学年で一番年齢に合わないのはお前だぞ…。」
そりゃ前世では60年間生きてきたからな…、とは当然言えなかった。だけど、60年間生きてきても、こういう恋愛事情には疎かった。前世で特別モテたわけでもないし、誰かを好きになることもなかった。決して女性に興味がなかったわけではなかったけど、借金に縛られた長い生活が原因で、誰かを好きになる心の余裕みたいなものがなかった。
だけど今世は違う。いまのところ生活に金銭的な不自由はない。転生補正のおかげで基礎能力も底上げされている。性格はあまり変わっていないが、前世の経験のおかげで、謙虚には生きることができていると思う。
そんな恋愛初心者の私でも、桜井さんたちに好意を向けられているのは感じている。しかし、誰かを選ぶなんてことはできなかった。みんな同じぐらい好きだった。この「好き」という気持ちは、おそらく恋愛のそれではない。まだ友情の範疇だと思う。
「特別に誰が好きというのはないかな。みんな可愛いし魅力的だし。だけど、俺も恋愛には疎いから、いますぐに誰かとは決められないな…。」
「なるほど。まあそれもそうか。」
「大輝や翔太は誰か好きな人いないの?」
「俺はいないかな。正直いまはサッカーと勉強で手一杯な感じ。」
「俺も。この子可愛いなと思うことはあっても、それが恋愛なのかと訊かれたら、よくわからん。」
「そうか…。何か安心した。」
「だけど、いまのメンバーで一緒にいるのは心地いい。だから、これからも一緒に勉強したり、遊んだりできたらいいなとは思う。」
「そうか…。俺もそう思う。」
「それに、あいつらには悪いけど、悠真があのメンバー以外の子を好きになることもあるかもだしな。」
「そんなこともあるのかな…?」
「そりゃあるだろ。学年に何人女子がいると思ってるんだ。それに先輩たちもいるし。まだ早いけど、来年になれば後輩も入ってくるし。」
「なるほど。だけど、誰かを特別好きになったら、お前たちに相談するよ。」
「おう。俺らで相談に乗れるかはわからないけどな。」
「そこは自信もって『俺に任せろ』とか言えよ。」
「「「ははは。」」」
そこでその話は終わりになった。女子たちからは何を話してたのと訊かれたが、大輝と翔太が男同士の話だと誇らしげに言っていた。女子たちからは、どうせいやらしい話でもしてたんでしょと揶揄われたが、それに動揺している翔太が可笑しく見えた。
人生をやり直すことになった今世。どうやら友達に恵まれているようで、少し心がほっとした一日だった。
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