第22話:夏祭り①
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「よーし!あとダッシュ20本!」
「「「はいっ!」」」
中学生最初の夏休み。それは部活の猛練習から始まった。今月末から始まる地区大会に向けて、バスケ部の練習は否応なく熱気を帯びていた。厳密に言えば、地区大会の予選はすでに始まっているが、我が校は昨年地区大会優勝を飾ったため、シード権が与えられていた。したがって、初試合は今月末になる。そして一昨年も地区大会を優勝している我が校は、地区大会を3連覇で飾り、全国大会に出場するという目標に向かって、部員一丸となって練習に打ち込んでいるという様子だ。
桜井さんたちもそれぞれ部活から始まった。それぞれの目標に向かって有意義な夏休みのスタートであった。しかし、さすがは進学校といったところか、夏休みの宿題の量も半端ない程だった。前世の頃とは全く様相が違う。2学期開始直後には各学年で実力試験も行われると先生から説明があった。文武両道を目指す学校はこうも違うのかと思ったものだった。そのおかげで昼は部活、夜は勉強という優等生的な学生生活を送ることができている。私にとってはそれだけで十分充実さを感じられる日々だった。
そして、今日はイベントがある。そう夏祭りだ。翔太が言い出しっぺではあったものの連絡は私。最初は何でと思ったが、実はこれで楽しみにしている。前世では友達と夏祭りなんて行ったことがなかった。
今にして思えば、前世の学生生活、いや人生そのものの思い出が白黒写真のようだった。モノトーンと言えば、聞こえはいいかもしれないが、どこか自分が世界から置いてきぼりにされた感じだった。そこには「楽しい」や「悲しい」といった喜怒哀楽が存在しない、時間経過という現実だけが突き付けられただけだった。
だからこそ、せっかく手に入れた今世の人生は、色彩豊かなものにしたかった。「楽しい」「嬉しい」だけじゃない「悲しい」「悔しい」も人生の一部として実感できる人生。そんな人生を歩むために努力は惜しまないつもりだ。いまは最高の中学生生活を送るべく、後悔しない日々を過ごそうと決めていた。
―――――
夏祭り。
それはとある神社での境内で行われる。そこには最寄駅から電車で向かうことになる。その神社はこの地域では最大の大きさと要したもので、毎年夏祭りが行われるとネットには書いてあった。さらには花火も打ち上げられると書いてあったので、今回の企画にはぴったりかと思い、ここの夏祭りに行くことにした。
その日の夕方。
集合場所は神社の最寄駅。
みんな神社の夏祭りが目当てなのか、すでに多くの人々が集い、神社の方へ向かっていた。こうして駅で待ち合わせをしている人も多かった。
ある程度余裕を持って来たからか、どうやら私が最初に着いたようだ。みんなに駅の改札口にいる旨をメッセージで伝える。みんなからはそれぞれ「OK」との言葉やスタンプが送られてきた。翔太だけカツ丼のスタンプだったので、何を言いたいのかわからなかったが…。
しばらくすると、大輝と翔太が改札口を出るところを発見した。
「おい、大輝、翔太。こっち、こっち。」
「おっ、いたいた。なんだ、悠真は浴衣着てきたのか。気合入っているな。」
浴衣は家に置いてあるのを発見した。着付けは動画を見て参考にした。どうやら変じゃなさそうで安心した。
「まあな。せっかくの夏祭りだし、記念にな。」
「俺も浴衣にすればよかったかな…。普段着で来ちまった。」
「別にいいじゃねえか。大事なのは気分だよ。気分。」
「みんなー、お待たせ。」
男子たちとそんなたわいのない話をしていると、後ろから声を掛けられた。振り返ると、女子たちが全員揃っていた。思い思いの浴衣姿で。
桜井さんは白、紺野さんは濃い青、倉本さんは黄色、和知さんは薄緑色を基調とした浴衣で、それぞれに大きな花が描かれていた。それにみんないわゆるお団子ヘアで、少し大人っぽく見える。
「………。」
「………。」
「………。」
男子たちはその光景に何も言葉が出なかった。もちろん私も。
「ちょっとー、男子たち。何か言うことがあるんじゃない?」
倉本さんの言葉で我に返った私たちは、「おお」や「すごい」など、語彙ボキャブラリーが崩壊したかのような反応しかできなかった。
「どう、城田君…。似合ってる…?」
桜井さんが不安そうに見つめて訊いてきた。なんかこの場面はデジャヴを感じさせた。
「とってもかわいい。似合ってるよ。」
「そう。そうか。へへへ。城田君もかっこいいよ。」
「そう?ありがとう。」
「あー。美羽だけずるい!ねえ、城田君。私たちは?」
「えっ…。みんなとても似合ってるよ。大人っぽくてドキッとした。倉本さん、その髪飾り素敵だね。」
「えっ…。そう?そんなに褒められると恥ずかしいな…。」
「あれ~。凛、顔真っ赤だよ。」
「違う!暑いだけだよ。」
「本当かな~。」
「「「ははは。」」」
無事に合流を果たした私たちは、早速神社の方へ向かった。
夏祭りは盛大だった。多くの人で賑わい、出店も多かった。家族連れやカップル、友達同士で来ている人が多く見られた。この分だと、学校の友達にも会いそうだな。
みんなでヨーヨー釣りや射的をしたり、大輝が三角くじにはまったり、翔太がたこ焼きの隠し味を解説し始めたりと、和気藹々と楽しみながら時間は過ぎていった。
「ねー。今度は女子と男子で別れて楽しまない?」
まもなく花火が打ちあがる頃合。倉本さんの提案で、男女別々で祭りを回ることになった。女子は女子で行きたいところでもあるのだろうと、そんなことを思っていた時、
「あっ、城田君とひなたは一緒にね。」
「えっ、なんで?」
「いいから。ひなたと回ってあげて。」
「別にいいけど…。じゃあ、紺野さん行く?」
「うん…。」
そこにはいつもの元気な紺野さんではなく、少し不安そうな彼女がいた。何かあったのかな…。倉本さんに何か耳打ちをされ、頬が赤くなったように見えた。
―――――
「………。」
「………。」
みんなで回った時とは打って変わって、二人の間には沈黙の時間が流れた。夏祭りの賑やかな音だけが妙に耳に響いた。
「紺野さん、どうかした?もしかして体調悪い?」
「えっ…。ううん。そんなことないよ。何かこうやって城田君と二人で行動するのは初めてだなと思って…。」
「あ~、そういえばそうかもね。」
「実はね。今日はね、本当は浴衣を着てくるつもりじゃなかったんだ…。」
「えっ、どうして?」
「うん。小学生の時、こうやって夏祭りに浴衣を着ていったんだけど、ちょうど学校の男子たちに会って、『似合ってない』って揶揄われちゃって。それがちょっとトラウマで…。まあ、美羽たちに説得されて勇気だして着てきたけど…。」
「そうなの?その男子たちは見る目がないね。こんなに可愛いのに。」
「!!!そう…。嬉しい。これが美月が言ってた無自覚攻撃なんだね。」
「その無自覚攻撃って、何か流行ってるの?こっちはちゃんと可愛いって自覚してるんだけどな。」
「もうっ!それが無自覚だって…。そ、それよりものど乾かない?」
「あっ、そうだね。あそこにラムネが売ってるから、買ってくるよ。紺野さんはそこのベンチで待ってて。」
「えっ、そんな悪いから、一緒に行くよ。」
「大丈夫だよ。それに慣れない雪駄を履いて疲れたでしょ。」
「うん。ありがと。じゃあ待ってるね。」
「すぐに戻ってくるから。」
ラムネの出店に向かいながら、紺野さんにそんな過去があったのかと、先程の彼女の話を思い出していた。
ラムネを無事に買い、紺野さんのところに急ぎ早に戻った。するとそこでは、紺野さんが数人の男子に囲まれていた。
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