第20話:女子たちの親友同盟
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次は第30話目指してがんばります。
週が明けて月曜日。
昨日の衝撃的なことが原因で若干の寝不足である。いつもよりほんの少し寝坊をし、学校へ向かった。登校し教室に入ると、すでに何人かの生徒が登校し、読書する人、友達と談笑している人、授業の予習をしている人等、思い思いの過ごし方をしていた。その中に桜井さんがいた。彼女は読書をしており、こちらには気付いてなさそうだった。
とりあえず自分の席に着く。その音が少し大きかったのか、彼女は本から視線を外し、後ろを見た。そして私と視線が合った。あ、教室に入る時「おはよう」と言うのを忘れた。クラスで取り決めた「挨拶運動」を学級委員自ら忘れるとは…。こりゃ寝不足だな。
彼女はこちらを確認すると、私の座席に近付いてきた。表情は柔和な笑顔を装ってはいるが、何となく不安を感じさせた。これも寝不足補正か?
「おはよう。城田君。珍しいね、城田君がこの時間に登校するって。」
「あっ、ちょっと寝坊しちゃって。少し寝不足かも。朝の挨拶も忘れちゃったし…。」
「寝不足なんだ。昨日何かあったの?昨日でしょ?凛ちゃんと美月ちゃんと出かけたのって。」
「そうだよ。特に…何もなかったよ…。ただ食事して買い物してお化け屋敷行って観覧車に乗っただけ。」
「…。何もないことないじゃん…。その…、楽しかった?」
「そうだね。結構楽しかった。」
「その…、私と映画に行った時よりも…?」
「えっ…。そんなの比べられないよ。桜井さんと一緒に出かけた時も楽しかったし。」
(そこは嘘でも、私の時の方が楽しかったって言ってほしかったな…)
「えっ…。何か言った?」
「い、いや。なんでもない…。じゃあ、私行くね。今日は放課後委員会だよね?」
「そうだね。よろしくね。」
「うん。じゃあね。」
そう言って、彼女は自分の座席に戻っていった。
―――――
今朝、いかにも眠たそうな城田君と話した。どうしても昨日のお出かけ、いや、デートの様子が気になった。だから彼に直接それとなく訊いてみた。彼はただ出かけただけと言ってたけど、その内容だけでも、私の時よりも濃い時間を過ごした気がして、何となく嫌な気持ちになった。それに彼は気付いてないかもしれないけど、何もなかったという時、何かを思い出すかのように「間」があった。きっと何かあったのだと直感で思った。だけど、それが何かを聞き出す勇気はなかったし、嫌な気持ちを抱いている自分にも嫌悪感があって、その場を去ってしまった。特に確認する必要もなかった委員会のことを話題にして。
何となくモヤモヤしていると、ひなたちゃんから「大丈夫?」と言われてしまった。やっぱり彼女にはお見通しかと、ちょっと可笑しくなってしまった。だけど彼女は笑わずに「昨日のこと?」と訊いてきた。そんなに顔に出てるかなと、気付けば自身の頬を撫でていた。彼女には「大丈夫だよ。昨日の話は聞いたけどね。」とだけ返答しておいた。だけど、彼女には伝わっているんだろうな。自分の複雑な思いが。そう思うと机に伏せたくなってしまった。
授業にはあまり集中していなかった気がする。ちゃんと集中していないと内容に付いていけないのに…。今日は何故か集中できなかった。いや、何故かではない。はっきり集中できない理由はある。やっぱり昨日何があったのか知りたかった。だけど、彼の口からそれを直接聞きたくなかった。かと言って、恋人でもない自分が、凛ちゃんや美月ちゃんに「昨日何かあったの?」と訊くわけにもいかなかった。
そんな時だった。休み時間に彼女たちに声を掛けられたのは。
「ねえ、美羽。今日の部活終わりに時間ある?」
「凛ちゃん…。うん、あるよ。」
「そう。じゃあ途中まで一緒に帰らない。」
「…うん。わかった。じゃあ正門で待ってるね。」
「うん。美月もいるから。ひなたにも声掛けとくね。」
「うん。ありがとう。」
城田君の練習試合以降、彼女たちと話す機会は増えたけど、一緒に帰ることはなかった。帰ろうと誘われたのも初めてだった。自身の中にある「昨日のことがわかるかもしれない」という期待と、「もし何かあったらどうしよう」という不安が同じぐらい大きくなるのを感じた。
―――――
放課後。下校時間。
部活を終えた生徒たちが友達と一緒に学校を出ていく。いまは美月ちゃんと一緒にひなたちゃんと凛ちゃんを待っている。特に会話はない。それが気まずくもあり、安心でもあった。
「ごめんね~。片付けで遅くなっちゃった。」
「ううん。全然大丈夫。そんなに待ってないから。ね、美月ちゃん。」
「そうだよ~。部活お疲れさま~。」
「ありがとう。さあ、帰ろうか。」
初めてこの4人で下校する。さすがに4人で横並びというわけにはいかず、前に凛ちゃんと美月ちゃん。その後ろにひなたちゃんと私という順番になった。特に4人で共通の会話をするわけでもなく、それぞれが思い思い話しているだけだ。4人で帰っているというよりは、二人組が二組帰っているだけだった。
だけど、その関係に急に変化が訪れた。凛ちゃんは何か話したいことがあったのでは、と私が疑問に思っていた時だった。
「ねえ、美羽、ひなた。ちょっと公園で少し話さない。」
「えっ…。うん。」
凛ちゃんからのまた急なお誘い。だけどひなたちゃんはこうなる展開を知っていたかのように、「行こう」と私の手を優しく引いてくれた。
もう薄暗くなってきているせいか、そんな大きくない公園には人は見かけなかった。公園のベンチというか四角い卓を囲むようにそれぞれ座る。座ってから少し沈黙が続いたが、それを破ったのも彼女だった。
「ねえ、美羽。私ね。美羽とはもっと仲良くなりたいの。」
「えっ…。仲良く…?」
最初は何を言っているのか理解するのに時間を要した。今でも特に仲は悪くないと思っている。
「凛ちゃんは直球ですね~。それだと美羽ちゃんも困っちゃうよ~。」
「そうか…。急にごめんね。えっとね…、何から話せばいいんだろう…。」
「とりあえず昨日何かあったのか教えてよ。美羽も知りたいでしょ?」
「さすがひなたちゃん~。ナイスアシスト~。」
それから彼女は昨日あった出来事を細かく教えてくれた。待ち合わせの時に、服がよく似合っていると褒めてくれたこと。出かける場所をデートスポットで有名だった海岸公園を彼自身が選んでくれたこと。彼が「モテる」という認識が少しズレていること。彼の「無自覚攻撃」が強力だったこと。彼に可愛いと褒められたこと。彼とずっと腕を組んでいたこと。それに彼がドキドキしたと言ってくれたこと。そして、最後に彼の頬にキスをしたこと。
それを彼女は本当に嬉しそうに語っていた。
そこには確かに私の知らない「彼」がいた。腕を組んだこと、キスをしたことは正直にショックだった。私も彼に抱きしめてもらったけど、何か負けた気がして、彼が遠くに行ってしまいそうで怖かった。そして私の中に渦巻く黒い気持ちが表面に出かけていた。これが嫉妬というものかと、そこでわかった。
気付いた時には、私は涙を流していた。ひなたちゃんが私の肩にそっと手を置いてくれたのが、素直に嬉しかった。
「急にごめんね。でもね、美羽。私は別に昨日のことでマウントを取りたいとは全く思ってないし、美羽を傷付けるつもりもない。美羽とはもっと仲良くなりたいの。ねえ、教えてくれない?好きなんでしょ?城田君のこと。」
「う、うん。好き…。大好き。誰にでも優しく接する彼が大好き。ちょっと無自覚なところも大好き。」
「そうでしょ。私も美月も彼が大好き。だからね、これからはライバルというよりも同じ男子を好きになった人同士で仲のいい友達、いや親友になりたいの。今後、彼が誰を好きになっても、誰と付き合うことになっても、恨みっこなし。」
「うん…。ぐすっ、ありがとう…。」
彼女の言葉は、自分の中にあった嫉妬という氷を溶かすには十分だった。彼女ともっと仲良くなりたいと素直に思った。
「じゃあ、城田君大好き同盟結成ね。」
「それって、私も入っているの?」
「もちろん。ひなただって、城田君のこと好きでしょ。」
「ありゃバレてたか。結構隠していたつもりなんだけど。それに美羽を応援するつもりだったし…。」
「これからはお互いに応援し合いましょ。ね、美羽。」
「そうだね。私もひなたちゃんのこと応援する。」
「じゃあ、これからもよろしくね。ライバルは私たち以外にもいるみたいだしね。お互いにがんばろう。」
「「「うん。」」」
陽はとうに沈んであたりは暗くなっていたけど、自身の心は明るかった。それがとても嬉しかった。
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